2024年11月17日日曜日

問題を想定し、感情と行動をコントロールする練習

  親であっても教師であっても、日々、自分の状態と向き合い、感情と行動をコントロールしながら過ごすことは難しいもので練習がいるものです。私たち大人は過去の経験から対応を学んでいますが、経験の少ない子どもの場合は、大人にとって小さく思える問題でも過剰に反応したり、大きなストレスを感じたりしてしまうが多くあります。そのために、その問題が起こる前に想定して、自分ならどのように感じ、どのように対応するか、考えておくことは、実際にその問題に直面したときの「練習」になり、感情が先走って行動してしまうことを抑えてくれます。

 感情をコントロールし問題に対処するために、ワシントン州の4年生の先生は、「問題の大きさ」について事前に考えるアクティビティを取り入れています。これは、実際に起こりうる問題について、自分たちにとってどの程度の問題なのかを子どもたちが話し合うものです。

 各グループにいろいろな問題を書いた紙の入った箱を入れておきます。

例えば、『クラスメイトが勝手に自分の鉛筆を使った』『がんばって終わらせた宿題を校庭に置き忘れてしまった』『祖父の体調が悪く入院した』のように、実際の生活のさまざまな場面で起こりうる問題です。書かれた紙を一枚ずつひき、一人ひとりがその問題について、1(小さな問題)~5(大きな問題)のなかで自分にとってその問題がどれくらいの大きさなのかを考え、理由を話します。

 鉛筆を勝手に使われたときのレベルは1とする子どもが多いかもしれません。しかし、ある子どもは、その鉛筆は引っ越した友だちにもらったとても大切にしていたものだったら、自分にとってはレベル3だと話します。また、宿題を置き忘れてしまった場合も祖父の病気も、一人ひとりのおかれた状況(宿題を忘れる頻度や教師との関係性、祖父との親密度など)によってとらえ方が異なることがあるでしょう。

 

 また、子どもたち自身に、実際に起きた問題や想定される問題を書いてもらって、それらについて話し合うのもよいでしょう。


 このアクティビティによって、問題に対する心構えができ、類似した問題が起きたときに感情をコントロールし、理性的に対応する準備となります。また、ある問題は、人によって捉え方が異なること――自分では小さな問題だと思っていても、相手にとっては大きな問題であったり、その逆であることもよくあること―を学ぶことができます。ある問題の大きさについて、ほかの人ととらえ方が異なる場合があることを認識しておくことで、実際に何らかの問題が起こったときに、自分にとっては大きな問題だと捉える理由を説明する必要があるときがありうること、もしくは自分がほかの人に起きている問題を自分が過小評価している可能性についても考えることができるでしょう。これは、人への想像力をめぐらし、ひいては共感する力を育てることにつながります。

 

 さらには、体調やそのほかのストレスなど、自分の状態によっては、小さな問題であっても、大きな問題として反射的に対応してしまうことがあります。そのような場合でも、問題の大きさについて一度考えることで、感情をコントロールしやすくなるでしょう。実際に起きた問題を取り上げて、自分の対応が問題の大きさと合致していたか振り返ることも感情をコントロールするよい練習になります。


参照 

https://www.edutopia.org/article/self-regulation-strategies-teachers-students

https://www.edutopia.org/video/learning-measure-size-problem/


2024年11月2日土曜日

「評価のなかで自己認識を育てる」

 表題とSELがどう関係するの、と思った方は少なくないかもしれません。

 上のタイトルは、ある本のなかの一つの章のタイトルですが、あなたは、これまでに「評価のなかで(生徒の)自己認識を育てる」ことを意識したことはありますか? とても大切なことなのですが、具体的にどうそれはできるのでしょうか?

 SELの活動を、評価を含めた既存の授業とは別にすることにはそれなりの価値はありますが、より大切なのはすでにしていること(ややらざるを得ないこと)をSELの視点を踏まえて実践していくことです。後者なら、一石二鳥(さらには三鳥、四鳥も!)が実現しますから。(それに対して、前者は付け足しにならざるを得ません。あまり効果的とは言えない道徳、特活、総合的な学習の時間等を使うなら話は別かもしれませんが・・・ここでの目的は、すべての教科領域での教え方と評価を考え直すことにあります。そうです、毎日していることです。)どういうことか説明していきます(ゴシック体は、『成績だけが評価じゃない―SELのための評価』スター・サックシュタイン著、新評論からの引用を表しています)。

教室で学んだり、それを評価されるという経験は、学習者としての自分だけでなく、より広い世界における一人の人間としてどのように見るかという、生徒の自己認識に大きな影響を与えます。教科指導とSELの統合を推進するCASELは、「自己認識」を次のように定義しています。

さまざまな状況を乗り越えて、自分自身の感情や思考、価値観が行動にどのような影響を与えるのかについて理解する能力のこと。また、根拠をもって確信したり、目的意識をもったりして、自分の強みや限界を認識する能力も含まれます。(53ページ)

 いま日本で行われている成績評価で、このような能力を生徒たちは身につけているでしょうか? そもそも、それを目的にしているでしょうか?

 『成績だけが評価じゃない』の本の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」には、次のように書かれています。

教師として私たちは、成績をあまり気にせず、生徒自身についてまちがった見方をしないように努めなければなりません。まずは、生徒自身が期待されている学習目標をしっかりと理解して、その目標を達成するための段階的なレベルについても理解できるようにする必要があります。そして、これがもっとも大切なことですが、私たちが伝えなくても生徒自身が「今どのレベルにいるのか」について認識できるようにしなければなりません53~54ページ)

 教師として最も気にしていることが成績ではないでしょうか? 私たちが成績で生徒を間違って見てしまわないようにすることは大事ですが、それ以上に大切なのは生徒自身が成績で自分自身を間違って見てしまわないようにすることです。

 生徒が目標を理解して取り組むことは大事ですが、その後に書かれている「これがもっとも大切なことですが、私たちが伝えなくても生徒自身が『今どのレベルにいるのか』について認識できるようにしなければなりません」は、果たしてどのくらいできているでしょうか?

 生徒が今いるところを理解すること(現状の把握)と、自分がどこに向かっていけばいいのかを理解していること(目標)とのギャップを埋める手段を考えるプロセスが、評価(自己評価、相互評価、教師による評価)やフィードバックと言えるのですが、あなたはそれらをどのくらいしていますか? なお、それは学習が終わって成績も付け終わった後ではなく、学習中に行われなければならないものです。

 『成績だけが評価じゃない』の本の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」では、次の6つの点について詳しく紹介されています(番号と下線はありませんが、分かりやすくするために付けました。引用は54ページです)。

学習を通して生徒の強みや課題を認識し、感じることを表現するための方法を教える手順について紹介していきます。また、②適切な支援や練習の機会さえあれば、どんなことでも達成できると肯定的に思えるようになる「成長マインドセット」という思考方法について、加えて③生徒たちが学習目標を設定する際のサポート方法についても考えたいと思います。

さらに、④振り返り方法を教えることで生徒が自己認識を深め、より良い自己評価をする様子についても触れます。そして、⑤学習気質とは何か、生徒自身の気質を自覚すれば学習者としてのアイデンティティーをより伸ばしていけるようになるのかについても探究していきます。

最終的に、⑥生徒がこれらを理解しはじめると、私たちはより良いフィードバックや指導が行えるようになり、生徒はそのプロセスを通して、より上手に「セルフ・アドヴォカシー」(自分の必要とする支援を自ら求める/主張すること)ができるようになります

①~⑥は、全部大切だと納得しますか?

 いいこと尽くめだと思いませんか?

 これらのどれは、すでにやれていますか?

 これらのなかで、自分がすぐにでも取り組みたいものはありますか?

 分かりにくい文章や言葉はありますか?

 ⑤の「学習気質」が唯一なじみにない言葉かもしれません。

 ChatGPTは、以下の説明を提供してくれました。

 「learning dispositions」とは、学習に対する態度や傾向を指します。具体的には、学ぶ意欲、好奇心、自己調整能力、忍耐力など、学習者がもつ特性や習慣を含みます。これらの要素は、学習の成果や進展に大きな影響を与えるため、教育や育成において重要視されています。つまり、単に知識を得るだけでなく、学ぶこと自体を楽しむ姿勢や、挑戦を乗り越える力などが含まれるということです。

 文科省も、観点別評価の「主体的に学習に取り組む態度」という言葉で明確に示しているのかもしれませんが、その中身やその測定方法や、それを身につけるための方法は、果たしてどれほど教師に理解され、かつ実践されているでしょうか?

 https://wwletter.blogspot.com/2023/11/blog-post.htmlですでに触れたように、教材ありき/教科書をカバーする一斉授業で、生徒が「主体的に学習に取り組む態度」≈学ぶ意欲、好奇心、自己調整能力、忍耐力、学ぶこと自体を楽しむ姿勢や、挑戦を乗り越える力などを示せる割合はどのくらいあるでしょうか?

 ChatGPTの回答にあるように、「これらの要素は、学習の成果や進展に大きな影響を与えるため、教育や育成において重要視されています」は、教材ありき/教科書をカバーする一斉授業で果たしてどれほど大事にされているでしょうか?

この「学習気質」も含めて、①~⑥については、次回以降に詳しく説明していきます。