他者への共感は、相手の行動を必ず変えるわけではありません。
それでも、自分が難しい状況をよりうまく乗り越える助けになります。
ある生徒に、本当に手を焼いていました。新学期のほとんどの期間、彼女は毎日、私の最終時限の授業に怒りながら飛び込んできて、机にバックパックを叩きつけ、こう叫ぶのです。
「このクラスなんて大嫌い。私はバカじゃないし、ここにいるべきじゃない!」
彼女は8年生=中学校の最終学年向けの読解支援クラスに在籍していました。彼女は何もしようとせず、授業を妨げるギリギリのところをいつもさまよっていました。
私は毎週、毎週、なんとか彼女とつながろうとしました(ここではTと呼びます)。でも彼女は自分のまわりに大きな壁をつくり、私を寄せつけませんでした。そのうち、私自身も心を閉ざしていくのを感じました。
正直に言うと、心の中ではこう思っていたのです。「あなたは難しい子なんだね。わかったよ。私だってもう気にしない。ただ静かにしていてくれればいい。」
そして1学期が終わろうとしていたある日、ちょっとした出来事がきっかけで、私はTに対して湧き上がるような共感の源を見つけることができました。
そのとき気づいたのは、生徒や同僚、上司といった「他者への共感を育てること」が、実は自分自身を楽にしてくれるということでした。共感を育てることで、気持ちが軽くなり、エネルギーが戻り、困難に向き合う力が増したのです。
共感の力
「良い人であるために、すべきこと」として語られることの多い共感ですが、実際には、他者とつながり、より深く理解するための大切な力です。共感は「同情」とは異なります。同情は、相手の苦しみを外側から見て「かわいそう」「つらいね」と感じること。一方、共感は、相手の痛みを自分の内側で感じたり、相手の目を通して世界を見ることです。そして共感は、思いやり(コンパッション)につながる入口でもあります。思いやりとは、共感を行動に移し、相手の苦しみを和らげようとする姿勢のことです。
共感を育てるもう一つの理由があります。他者への共感は、自分自身の人生をより良くしてくれます。共感は心を開き、さまざまな感情を受け入れやすくしてくれる一方で、つらい経験をやわらげる働きもあります。他者への共感が育つほど、私たちは相手をより理解し、これまでとは違う形でつながれるようになります。そのことが、レジリエンス――困難から立ち直る力――を高めてくれるのです。
Tとの間に起こったことは、次のようなことでした。授業で「もしも魔法のジーニーが願いを一つ叶えてくれるとしたら、何を頼みますか?」というお題で、短い作文を書いてもらった時のことです。
Tは、「ジーニーに新しい服を買ってもらいたい」と書きました。彼女の書いた内容によると、最近急に背が伸びて、今持っている服がどれも小さくなってしまったそうです。でも家には新しい服を買う余裕がなく、毎日、サイズが合わないと分かっているズボンや、今にもはち切れそうなシャツを着て登校するのが恥ずかしくてたまらないのだと綴っていました。「ただ、自分の体にぴったりの服が欲しい」——急成長期を迎えた彼女の願いは、切実なものでした。
私は思いました。「13歳の女の子にとって、それはいったいどんな気持ちなんだろう」
自分自身の思春期を思い出し、彼女の服を着ている自分を想像し、彼女が感じているかもしれない気持ちの一部を、私も感じたのです。
私は、共感を込めた短いメッセージを書いて返信しました。すると彼女は返事をくれて、病気のおばあさんのことや、発達障害のあるお母さんのことを話してくれました。私がまた返信すると、彼女もさらにいろいろと打ち明けてくれました。彼女は相変わらず怒った様子で教室に入ってくることもありましたが、その怒りは以前よりずっと早くおさまるようになりました。そして私自身、彼女の怒りに前ほど振り回されなくなっていることに気づきました。むしろ自然に微笑みかけることができ、「今日は来てくれてうれしいよ」と心から言えるようになっていたのです。
他者への共感は、必ずしも相手の行動を変えるわけではありません――そして、私たちもそれを期待すべきではありません。ただ、自分の内側にある「共感という険しい道」を探っていくことで、他者について、そして自分自身について、より深く学べることを願うだけです。
共感のエクササイズ
他者への共感を育てる方法はいくつもあります。ここでは、そのうちの一つの活動を紹介します。まず、あなたが苦手に感じている人、関係がうまくいっていない人を一人思い浮かべてください。それは生徒でも、同僚でも、上司でもかまいません。その人の靴を、スマートフォンでそっと写真に撮ってみましょう。もしそれが難しければ、靴をよく観察して心に留めておくか、簡単なスケッチを描いても構いません。一日のあいだ、その人の靴を履いている自分を想像してみてください。あなたが知っている情報を手がかりに、朝その靴を履くところから、学校に来るまでの道のり、学校で過ごす時間、放課後に帰宅するまでの流れを思い描いてみます。そして一日の終わりに、感じたことを記録します。
どんな体験だったか?
どんな気持ちになったか?
その人への考え方や感じ方は、どう変わったか?
共感とは、心を開くことです。それが難しく感じられることもあるでしょう。でも、私たちの心は本当にたくさんのものを受け止められる力をもっています。教師には、心を開く機会が日々たくさんあります。そして、共感を「実践として育てる」ことは、教育者としての仕事をむしろ楽にしてくれるのです。
出典・https://www.edutopia.org/article/power-empathy
この記事の執筆者のエリーナ・アギラーさんは、『教師のためのアート・オブ・コーチング』(図書文化)の著者で、コーチングや教員研修を中心に10冊近くの本を書いています。邦訳があるのは、まだ『教師のためのアート・オブ・コーチング』のみです。
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