2026年7月4日土曜日

EQ=最も見過ごされている教師とリーダー(管理職)の力

リーダーは、教師を支え、学校文化をより良くするために必要な感情面の知性(EQ)を育てることを優先することができます。

 自分を学校のリーダーと捉えていない方は、自分が教える授業をイメージしながらお読みください。すべての教師は、生徒たちとの関係においてはリーダーですから。

 

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学校のリーダーの一人として、私はいつも学校のリーダーシップチーム(校長・副校長と、教務主任・学年主任・教科主任等で構成されるメンバー)と、学校のデータ、教え方の改善、そして教員研修について話し合っています。これらの対話は、生徒の学力を高めるために欠かせないものですが、しばしば重要な点が抜け落ちています。リーダーシップチームは、教職員の感情面の知性(EQ)について、ほとんど話し合うことがないのです。

過去5年間、数学の授業改善のリーダーとして働く中で、私は次第に、リーダーとして成功するために重要なのは技術的なスキルよりも、むしろ感情面での気づきであると考えるようになりました。どれほど有効なカリキュラムがあり、どれほど詳細な年間計画があり、どれほど確かな評価・管理の仕組みがあったとしても、学校のリーダーに自己理解や共感が欠けていれば、教師を支えることはできません。そして教師が支えられていると感じられなければ、教職にとどまり続けることが難しくなるのです。

 数年前、私はダニエル・ゴールマンの感情面の知性(EQ)に関する本★を読みました。そのおかげで、学校で私が目にしていた多くの出来事に言葉を与えることができました。すなわち、教師たちが、支えられていない、見てもらえていない、そしてリーダーが高い期待を保ちながら支える方法を知らないために感情的に疲れ果ててしまい、職場を離れていくという現実です。

 彼の著作の中で、感情面の知性(EQ)は五つの側面に分けられています。自己理解、自己調整、動機づけ、共感、そして社会的スキル★★です。五つすべてが重要ですが、私はその中でも、自分がリーダーとして成長するうえで最も大きな影響を受けた三つに焦点を当てたいと思います。

 

自己理解の重要性

最初の側面である自己理解は、私のリーダーとしてのあり方を最も大きく変えたものです。リーダーとしての一年目、私は同時に父親としても新しい生活を始めていました。眠れない夜、さまざまな不安、そしてまったく新しい役割を学ぶ重圧を抱えながら過ごしていました。学校に入るとき、いら立っていたり、気が散っていたり、反応的になっていたりする日がありましたが、自分ではそれに気づいていませんでした。やがて気づいたのは、私が意図したかどうかに関わらず、部署のメンバーは私の気分に反応していたということです。

私にとって、自己振り返りは、会議や授業、コーチングの会話に入る前に、自分の感情の状態を意図的に整えるための鍵となりました。私はより落ち着き、よりその場に集中し、反応するのではなく聞くことに注意を向けられるようになりました。その変化は部署全体に広がっていきました。

こうしたことを踏まえると、自己理解がまず最初に必要だと認識しました。自分自身の感情の状態を振り返って整えていなければ、困っている教師に共感をもって接することはできませんし、自分の存在が場を落ち着かせているのか、逆に緊張を高めているのかを理解していなければ、疲れ切った教職員を支えることもできません。

自分自身の自己理解を高めることを優先し始めるとき、朝、学校に向かう際にどのような感情をもち込んでいるのか、それが教職員にどのような影響を与えているのかを振り返ることが役に立ちます。私は振り返るだけでなく、生徒や教師と関わる前に気持ちを整えるための時間を朝に確保することが有効だと感じました。

これは続けていくべき取り組みであり、誰にとっても簡単にできるものではありませんが、取り組む価値があります。私が見てきた最も効果的なリーダーは、常に完璧な答えをもっている人ではありません。自分自身をよく理解しているからこそ、自分自身が障害にならないようにできる人なのです。

 

共感することは、期待を下げることではない

私は幸運にも若い頃から共感を育むことができたリーダーですが、同僚の中には共感することは期待を下げることと同じだと見なす人がいることに気づきました。実際には、最も力のあるリーダーは、高い期待と共感の両方を同時に保つことができます。

教師は振り返りを求めていますし、多くの教師は本気で成長したいと願っています。ただし、成長の過程で、恥をかかされたり、軽んじられたり、支えられていないと感じることは望んでいません。私が学んだのは、教師が教え方の指導を十分に受け入れるためには、それを行う相手に対して心理的に安心できることが必要だということです。

その安心感は、話を聞き、負担のかかっている点を理解し、教師をまず人間として見てから職員として見ることができるリーダーから生まれます。ときには、共感とは単にタイミングを見極めることを意味します。教師が直接的な指導を必要とする場面もあれば、教え方の話に入る前に5分だけ話を聞いてほしい場面もあります。その違いを理解できるリーダーは、より強い関係を築き、より強い部署をつくります。

 

社会的スキルは学校文化に影響する

感情面の知性(EQ)を備えた一人のリーダーが、部署の文化をまったく別のものに変えることがあります。私は、強い社会的スキルを示す小さなやり取りが、時間をかけて文化を形づくっていく様子を実際に見てきました。リーダーは、難しい授業のあとに短い声かけをしたり、成長を認めるメッセージを伝えたり、新しい教え方に挑戦をした教師を研修の場で公に称えたりすることで、教師が教室で直面している困難を理解し、その努力を誇りに思っていることを示すことができます。

そうした瞬間は取るに足らないものに見えるかもしれませんが、積み重なることで、人々が大切にされていると感じられる文化をつくります。これは、教師の疲労が高まり続けている今日の教育において、特に重要です。学校のリーダーとして、教師がどれほど努力しているかを知るだけでなく、それを積極的に認め、困難な時には支え、成功をチーム全体で祝うことが大切です。

強いリーダーシップには感情面での気づきが必要です。学校は人間関係の上に成り立っているからです。データやカリキュラム、教え方が重要でないということではありませんが、教師が感情的に疲れ果てている場合、それらだけでは長期的な成功を保証できません。

教師が学校にとどまり、生徒が成長する学校は、多くの場合、リーダーシップが単に仕組みを管理することではないと理解している人によって導かれています。リーダーシップとは、人間関係を支え、誰かに支えられている、見てもらえている、そして安心して成長できると感じられるようにすることなのです。

 

出典・https://www.edutopia.org/article/importance-emotional-intelligence-school-leader

(数学と理科教育に10年以上携わる中で、執筆者のマシュー・スティーン先生は教師として、そしてニュージャージー州カムデンのチャーター・スクールで教え方の改善を担うリーダーとして働いてきた。現在のMath Instructional Supervisor=数学指導監(日本の数学科の教科主任よりも多くの権限をもつ)になる前は、58年生の教師リーダーとして、カリキュラムづくりや問題解決の取り組みに力を入れていた。)

 

★『EQ こころの知能指数』を皮切りに、彼のEQ/感情知性に関する本は多数翻訳されています。ぜひ、読んでみてください。ビジネス関係者は結構読んでいますが、教育関係者のEQ/感情知性への関心はあまり高くない状態が続いています。

★★EQの5つの要素を、SELの5つの要素と対比すると面白いです。

self‑awareness(自己理解) ↔ self‑awareness(自己理解)で一致していますが、残りの4つは若干のズレがあります。以下、左側がEQで、右側がSELです。

self‑regulation(自己調整) ↔ self‑management(自己管理)

motivation(動機づけ)    ↔ responsible decision‑making(責任ある意思決定)

empathy(共感)      ↔ social awareness(他者理解)

social skills(社会的スキル)↔ relationship skills(人間関係のスキル)

 

2026年6月20日土曜日

心を乱すきっかけに振り回されず、レジリエンス/しなやかさを育てる

 教師は毎日、本当にさまざまな課題に直面します。ときには疲れたり、苛立ったりすることもありますが、私たちはその課題への“反応の仕方”を選ぶことができます。たとえば、指示に従わない生徒への対応、授業開始5分前に怒った保護者が話を求めてくる場面、あるいは教室のうまくいっていない点ばかりを指摘する管理職への向き合い方などです。自分が他者にどう反応しているかを見つめ直すことで、私たちは感情的なレジリエンス(しなやかさ)を高めることができます。

 

自分のトリガーに名前をつける

私たちには誰しも、心をざわつかせたり、感情を揺さぶったりする相手がいます。そうした「トリガー(引き金)」が引かれると、私たちは苛立ち、怒り、悲しみ、恥ずかしさなど、さまざまな不快な感情を抱くことがあります。
 そしてその感情に押されて、議論や口論に踏み込んでしまったり、後で「言わなければよかった」と思うことを口にしてしまったり、恐怖で固まってしまったり、場から逃げるように立ち去ってしまうこともあります。

少し時間をとって、自分の「トリガーを引く人(心をざわつかせる人)」は誰かを考えてみましょう。たとえば、あなたの判断にしつこく異議を唱えてくる保護者かもしれません。あるいは、学校にも来ず電話にも出ないのに、校長にはあなたへの不満を伝える保護者かもしれません。もしかすると、目をくるっと上に向けてみせる10代の女子生徒や、何でも知っているような態度をとる男子生徒に心をざわつかせられるかもしれません。生徒たちのある集団について、ぞんざいな発言をする同僚や、現場の声を聞かないトップダウン型の管理職が自分のトリガーの引き役になっているかもしれません。

振り返ってみると、「自分にはトリガーがたくさんある」と感じるかもしれません。それでも大丈夫です。誰にでもトリガーはありますから。
 それらを見えないところに押し込めたままにせず、「これが自分のトリガーだ」と意識化して名前をつけていくことが、あなたに与える悪影響を減らしていくための、最初の一歩になります。

 

自分のトリガー(引き金)を理解する

 次に、自分のトリガーについて「好奇心をもって」探ってみましょう。自分のトリガーをシャーレ(培養皿)にそっと移して、じっくり観察するようなイメージをもつとよいかもしれません。それを人生のどこまで遡れるかたどってみて、どこに起源があるのか探ってみましょう。

トリガーの中には、幼少期や思春期の経験に根をもつものもあります。たとえば私は、中学生の頃に仲間外れにされた経験があるため、今でも「仲間内で誰かを排除するタイプの女子中学生」を見るとトリガーが引かれてしまいます。

また、トリガーの一部は、私たちの価値観信念に由来します。たとえば、「すべての子どもは学べる」という強い信念をもっているとします。そんな中で、ある同僚が特定の子どもたちを見下すように「まあ、あの子たちはいつもこうだからね」と言ったとしたら、私たちは強く反応してしまうかもしれません。あるいは、「努力すれば学校は変えられる」という信念をもっている場合、毎日3時半にさっと帰る同僚を見ると、「本気で取り組んでいるのだろうか」と感じ、心がざわつくこともあるでしょう。

 

自分の反応を認める

トリガーの源に気づいたら、次はトリガーが引かれたときに自分がどんな行動をとっているかに目を向けてみましょう。あなたは「戦う(反論・対立する)」「逃げる(距離を置く・場を離れる)」「固まる(言葉が出ない・動けなくなる)」のどれに近い反応をしているでしょうか?

そして、その反応が周囲との関係にどんな影響を与えているかも考えてみてください。同僚、生徒、管理職――トリガーに押された状態で反応すると、関係性はどう変わるでしょう。

さらに、その反応によって本当に望んでいる結果が得られているかを自分に問いかけてみましょう。たとえば、「中学2年生の女子同士の関わり方を変えたい」「同僚の子ども観を変えたい」といった願いがあるとして、今の反応の仕方はその実現に近づけているでしょうか?

もし「うまくいっていない」と感じるなら、この先を読み進めてください。

 

新しい行動を探る

自分のトリガーを理解しようとすると、つらい記憶が浮かび上がってくることもあります。しかし、その出どころを特定できることは、同時に大きな力にもなります。気づきがあることで、気づきがなかったときとは違う行動を選べるようになるからです。

教師として、私が自分の中学生時代の経験と、教えている女子生徒たちに対して抱いていた感情がつながったとき、「私は今、11歳の自分として反応しているのではなく、教師として応じる必要がある」と気づきました。

その気づきによって、私の行動は「教育者としてこうありたい」という自分のビジョンに、より深く一致するようになりました。そして、生徒たちと「クラスのコミュニティーをどう築くか」「どうすれば誰も排除しない関係をつくれるか」といった対話ができるようになったのです。

 新しい行動を選べるようになるためには、まず、トリガーが引かれたその瞬間に介入する方法が必要です。そうしないと、いつもの非生産的な反応パターンに流されてしまうからです。

自分のトリガーについて探究しておくと、この「瞬間」に気づきやすくなります。心の中で、こんな声が聞こえるかもしれません。「あ、これが私のトリガーだ! 先週振り返ったよね――授業開始5分前に教室に押し入って話を求めてくる保護者に、私は強く反応してしまうって。」

トリガーに早く気づけるようになり、その根っこも理解していると、どう反応するかを選べるゆとりが生まれます。その際に試せることには、次のようなものがあります。

・深呼吸を3回する。

・セルフトークを使う:「こんにちは、トリガーさん」

・自分が道の分岐点に立っているところを思い描き、それぞれの道に“選べる反応”が並んでいる様子をイメージする。そして、「どの反応を選ぶかは自分で決められる」と思い出す。

 

 トリガーに気づき、反応する前に一拍置くには、練習が必要です。多くの人にとって、それはすぐにできるようになるものではありません。しかし、トリガーに気づき、反応の仕方を育てていくことで、これまでとは違う行動を選べるようになります。そうすることで、あなたが本当に達成したい目標に近づきやすくなり、そして、気持ちも少し軽くなるかもしれません。

 

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 これまでとは違った選択ができるようになることが、レジリエンス(しなやかさ)を高めるということでしょうか?

 

出典・https://www.edutopia.org/blog/boost-your-resilience-managing-emotional-triggers-elena-aguilar

この投稿は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんによって2015年の11月2日に書かれたものです。

2026年6月6日土曜日

どんな瞬間にも私たちは選択している

呼吸が導く落ち着き――教師のマインドフルネス実践

 ときどき、教育者としての私たちの仕事にとってあまりにも貴重で、「これはぜひ皆さんと共有しなければ」と思わせるようなリソース(参考になる資料や方法)に出会うことがあります。Meena Srinivasan(ミーナ・スリニヴァーサン)の新刊『Teach, Breathe, Learn: Mindfulness In and Out of the Classroom(教え、呼吸し、学ぶ教室の内と外で育てるマインドフルネス)』は、まさにそのような一冊です。

この本は、私が全国のあちこちで耳にする切実な願いに応えています――喜びを土台にし、思いやりから生まれ、今よりももっと人間的で、もっとゆっくりとした働き方・教え方を求める声です。ミーナがこの読みやすい本の中で誠実かつ惜しみなく提供しているのは、その願いに向かうための「道しるべ」です。さまざまなマインドフルネスの実践を紹介し、それらを私たちの日常や教室にどのように取り入れられるかについて、豊富な参考になる資料や方法を示しています。学校でマインドフルネスを取り入れたいと考えている人なら、必ず読むべき一冊です。

 レッスン(指導)案がとても役に立つことや、生徒たちの言葉がこのテーマに彼らの視点をもたらしてくれることも確かですが、私が最も心を動かされたのは、この本に織り込まれている教師としてのミーナの物語です。それこそが、この本を特別なものにしています。

彼女が最初のほうで語るエピソード――自分の気分が生徒に影響していると気づいた瞬間――を読んだとき、私は一気に引き込まれました。共感できたのです。彼女に何が起きたのか、どうやって「手一杯で圧倒されている教師」というあまりにもよくある状態から抜け出し、別のあり方へと変わっていったのかを知りたくなりました。彼女がどんな物語を歩み、どんな方法を使ってきたのかを知りたかったのです。それを知るには、ぜひ本を読んでみてください。

その前に、私が行ったインタビューを通して、ミーナがどんな人なのか、そしてこの本がどんな内容なのかを少しだけ味わっていただきたいと思います。これが、あなたが『Teach, Breathe, Learn』を手に取るきっかけになれば嬉しいです。

 

エリーナ: この本は誰のために書いたのですか? 誰に読んでもらいたいですか?
ミーナ: この本は、私の心からの贈り物です。マインドフルネスを自分の生活や若い人たちの生活に取り入れたいと願うすべての人に、ツールやリソース(方法や資料)、そしてインスピレーションを届けられたらと思っています。本書には、心のあり方を変えるマインドフルネスの実践の「効果」と「取り組みやすさ」を示すエピソードや具体的な方法の紹介がたくさん詰まっています。教師としての視点から書いてはいますが、内容は誰にとっても役立つものです。特に、教師、保護者を中心に子どもに関わる人、そして教育現場で働くすべての人に読んでほしいと思っています。

 

エリーナ:マインドフルネスは、教師や管理職にどのように役立つと思いますか?

ミーナ:私たちが「やさしい気づき」とともに「今この瞬間に戻る」練習を重ねれば重ねるほど、実際に「今ここ」にいることが容易になります。そしてこれは、教師にとって欠かせない資質です。
 おそらく外科医を除けば、教師ほど一日の中で多くの判断を下す職業はありません。教室で求められるのは、広い視野と集中した注意を同時に保つことです。

マインドフルネスは、まず自分自身と深くつながることを可能にし、その結果として他者とも本物のつながりを築けるようにしてくれます。校長や学校リーダーという役割は、とても孤独になりがちです。だからこそ、学校をうまく導くために必要な強い人間関係を築くうえで、マインドフルネスの実践は大きな助けになります。私の本で紹介しているマインドフルネスの基盤には、「相互依存」という考え方があります。長年、教師や同僚と仕事をする中で、この相互依存を意識することがとても役に立つと感じてきました。学校という場は、多くの要素がそれぞれうまく機能して初めて成り立つものです。どこか一つがうまく働かなくなると、学校全体に影響が及びます。学校の中では、立場の違う人たちの間で摩擦が生まれることもあります。しかし、管理職、保護者、スタッフ、生徒――そのどれが欠けても学校は成り立たないのだと理解できれば、私たちはもっと感謝と理解をもって、コミュニティーの中の他者と関わることができるようになります。

 

エリーナ:マインドフルネスがあなたの私生活や仕事にどんな役割を果たしてきたか、何かエピソードを教えてください。

ミーナ:マインドフルネスは、反射的に反応するのではなく、状況に応じて自ら選んだ関わり方ができるようにしてくれます。私が「マインドフルネスって本当に効くんだ!」と強く実感した最初の教室での出来事は、とても印象的でした。私は当時、インドのニューデリーにあるインターナショナルスクールの中等部で、学習支援クラスを担当していました。クラスには世界中から来た生徒がいて、それぞれに異なる特別なニーズがあり、私はその全員を支援する役割を担っていました。ある日、クラスにもっと支援を入れるためにアシスタントを採用することを伝えたとき、アメリカ出身のある男の子が突然こう叫んだのです。「インド人じゃなきゃいいけど!」その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。私はその学校で数少ない有色人種の教師であり、インド系の外国人教師は私だけでした。彼の言葉は深く突き刺さり、怒りと悲しみが一気にこみ上げてきました。

 マインドフルネスを実践する前の私なら、彼の発言は受け入れられないと強く言い返していたでしょう。でも今の私は、マインドフルネスのおかげで感情の自己調整ができるようになっていました。胸の中に湧き上がる感情に気づき、いったん立ち止まり、深呼吸をしました。そして生徒を叱りつけるのではなく、丁寧に「どうしてインド人のアシスタントが嫌なの?」と尋ねたのです。

彼は、インドのアクセントがとても聞き取りにくく、それが学習を難しくしているのだと説明しました。その言葉を聞きながら、彼に私のインド系の背景を傷つける意図などまったくなかったことに気づきました。私の目の前にいたのは、学ぶことに苦労している一人の少年であり、自分の意思でインドに来たわけではなく、父親の仕事の都合で連れてこられた少年でした。彼はただ、フラストレーションを抱え、自分の気持ちを理解してほしいと願っていたのです。その瞬間から、私は生徒を本当に理解するために、必ず対話をすることを自分の方針にしました。生徒を理解して初めて、私は彼らを本当に教えることができるのだと気づいたのです。

 

エリーナ:学校では、マインドフルネスを「集中力を高めて学力を上げるための方法」として語られることがあります。テスト準備のために「マインドフルネス」を使う教師もいると聞きます。こうしたアプローチについてどう思いますか? あなたの本で提案している内容と一致しますか?

ミーナ:確かに、マインドフルネスは生徒が集中したり自己調整したりするのを助けることで、学びやすい環境をつくることができます。しかし、私が若い人たちにマインドフルネスを伝えるときの目的は、決してそこではありませんでした。マインドフルネスが力をもつのは、どんな瞬間にも私たちには選択肢があるということを気づかせてくれるからです。よりよい行動を選ぶことができ、そしてそのための具体的な方法がある――それによって、私たちの生活にもっと平和や愛、喜びをもたらすことができるのです。

 

エリーナ:読者があなたの本を読んで、何か一つ行動を起こすとしたら、どんなことを望みますか?

ミーナ:私たちが他者に提供できる最も価値あるものは、私たち自身の幸せです。読者の皆さんには、本を読み終えたあと、自分自身の幸せを育て、深めていくために、個人的なマインドフルネスの実践を始めてほしいと願っています。大切なのは、何を教えるかだけではなく、どのように教えるか、そしてその背後にある愛や喜びです。それこそが、生徒に最も強く残る印象になるのです。

生徒にマインドフルネスを伝える前に、まず私たち自身が、実践を通してマインドフルネスを「体験的に理解する」必要があります。自分の実践を育て始めると、それが教室でのふるまいや、他者との関係にどのように影響するかが見えてきます。マインドフルネスは、すでに私たちの内側にあるレジリエンス(しなやかさ)にアクセスする方法を提供してくれます。マインドフルであるために、1日の時間を増やす必要はありません。『Teach, Breathe, Learn』は、日常生活にもっと気づきと愛、そしてレジリエンスをもたらすための実践的なガイドなのです。

 

エリーナ:マインドフルネスに興味があり、もっと学びたいと思っている人がいたら、本を読む以外に何を勧めますか? どこから始めればよいでしょうか?

ミーナ:私が強くおすすめしたいのは、マインドフルネスのリトリート(合宿形式の研修プログラム)に参加することです。世界中でさまざまなプログラムが提供されています。また、Mindfulness in Education Network(教育におけるマインドフルネス・ネットワーク)のメーリングリストに連絡し、希望する期間や場所などを伝えるとよいでしょう。きっと、想像以上に多くの選択肢があることに驚くはずです。

この投稿について、あなたの考えや疑問・質問や提案をぜひコメント欄で共有してください。

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 日本でもマインドフルネス関連の本の売れ行きは結構なものです(社会的なニーズはあるということだと思います!)。しかし、教育関係者対象のマインドフルネスの本はまだ知りません。すでに出ていたら、ぜひ教えてください。お願いします。(紹介者も10年ほど前にこの本を読んだ時、エリーナさんと同じ気持ちをもったので、訳させてくれる出版社を教えてくれたら、もっとうれしいです!)

出典・https://www.edutopia.org/blog/just-breathe-when-teachers-practice-mindfulness-elena-aguilar

 この投稿は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんによって2014年の9月25日に書かれたものです。ちなみに、彼女は、夏休みや冬休みの前に教育関係者が読める本を何冊か一緒に紹介する以外、自分の本も含めて、本の紹介をすることがほとんどない人です! 今回は、そういう人が紹介したかった本ということになります。

2026年5月16日土曜日

『「しない」が子どもの自力を伸ばす』は、SELの本!

 なぜ、私がこの本の惹かれたのかを発売されてからほぼ1年たってから、ようやく気づきました(おそらく、まだ気づいていないことは、他にもいろいろあると思います!)。

 『「しない」が子どもの自力を伸ばす』を出す前に、https://selnewsletter.blogspot.com/2023/06/sel.htmlで紹介している4冊のSELをメイン・タイトルないしサブ・タイトルに掲げた本を出していましたが、それらよりも、SELの本質を「理論」(やエクササイズ=取り組む活動として)ではなく「人間の営み」として捉え、そして極めて豊かに描いているからです。なので、SELという言葉を一切使っていないのですが、SELの核心に触れる示唆がむしろ濃いのだと思います。なので、ぜひ、ご一読を!

 

 SELの文献は、自己認識、自己管理、社会認識、関係構築、責任ある意思決定といったスキル分類を前提に語られます。それに対して、『「しない」が子どもの自力を伸ばす』は、

  • マヤ族の子育て
  • イヌイットの怒りの扱い方
  • ハッザベの協力の文化
  • 大人が「しない」ことで生まれる自発性

といった実際に暮らしの中で行われている文化的な営みとして、子どもの感情調整・協力性・主体性がどう育つかを描いています。つまり、SELの「結果」を、文化の中で自然に育つプロセスとして描いているのです。しかも、著者のサンフランシスコでの暮らしに代表される西欧社会のそうした自然に育つ環境が失われてしまった現実との対比のもとに。

 要するに、SELの理論と実践が目指しているものを、『「しない」が子どもの自力を伸ばす』は理論化される前の「生きた実践」として示してくれているのです!

 

 ということで、SELに興味をもたれる先生は、https://selnewsletter.blogspot.com/2023/06/sel.htmlの一冊から読み始め(て実践す)るという選択肢がありますが、一方で『「しない」が子どもの自力を伸ばす』から読み始めて、それらをSELの5領域(自己認識、自己管理、社会認識、関係構築、責任ある意思決定)にマッピングしてみるというエクササイズをするところから始めると、より効果的な実践になると思います。(前者のアプローチは、SELという名の「介入」「急かさす」「先回り」をやらかす危険性をはらんでいます! https://x.gd/gLNIdを参照ください。)

 後者のアプローチは、(赤ちゃんを教室に招くようなプロジェクトの代わりに)中学生以上であれば生徒対象に使えるかもしれません。全部の章を読むのが大変なら、1章に限定して、読みこんだ後に、生徒たちにマッピングしてもらうのです。

 

 その結果は、たとえば次のようなものになるかもしれません。

1. 自己認識

『「しない」が子どもの自力を伸ばす』で対応する要素例:

  • 大人が「急かさない」「先回りしない」ことで、子どもが自分の感情・欲求・ペースを感じ取れる
  • マヤ族の子どもが「自分は家族の一員として役に立てる」という自己概念を自然に形成する
  • イヌイットの子どもが、怒りを外から観察するものとして理解する文化

要点: 大人が介入しないことで、子どもは自分の内側を感じる時間を取り戻す。

 

2. 自己管理

『「しない」が子どもの自力を伸ばす』で対応する要素例:

  • イヌイットの「怒らないで教える」文化
  • 大人が「しない」ことで、子どもが自分で衝動を調整する機会が増える
  • ハッザベの子どもが、自然の中でリスクを自分で判断しながら行動する

要点: 大人がコントロールしないからこそ、子どもは自分で感情・行動を調整する力を育てる。

 

 SELの残りの3領域についても、同じことができます。

 このエクササイズから、SEL5領域はもともと「人間が文化の中で自然に育ててきた力」を体系化したものだと気づけます。『「しない」が子どもの自力を伸ばす』は、その「自然な育ち」を文化人類学的に描いてくれているのです。だら、SELという語を使わなくても、
SEL
の核心を最も生き生きと描いている本の一つになるわけです。

 もしあなたが、そのような本を他にもご存じでしたら、pro.workshop@gmail.com宛に、ぜひ教えてください。

2026年5月2日土曜日

生徒のウェルビーイングを高めるための、学校レベルの意思決定と行動

SEL便り: 責任ある意思決定 の11回目(最終回)です。

 『成績だけが評価じゃない』で紹介されているウェルビーイングの事例は、日本でいえば受験校的なエリート校の事例なので(それに当てはまる読者は、172~178ページをぜひ参照してください)、ここでは他の情報源から紹介します。

 最近訳出された『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化)の185~188ページで伝統のある(しかし、それほど成績優秀校というほどではない)ブライトン・グラマー男子高校が生徒のウェルビーイングに重点を置いた学校と書いてあったので調べてみると、https://www.brightongrammar.vic.edu.au/learnwithus/boy-centered-learning/boysandwellbeing/ がすぐに見つかりました。

 そこにはまず、「私たちは、生徒たちが気持ちよく過ごし、健やかに成長し、社会に前向きな形で貢献できるようになることを願っています。そのために、ブライトン・グラマーでの学びの過程を支え、卒業後の人生にも活かせるようなスキルと心構えを身につけさせることが重要だと考えています」と書かれています。このレベルなら、どんな学校でも考えている/言っていることかもしれません(考えていたり、言ったりするだけと、意思決定とそれに基づいた行動とは、まったくの別物です!)。

 しかし、ブライトン・グラマーは考えるだけ/言うだけと違い、2015年から全校生徒(幼稚園児~高校3年生)を対象にPROSPER(繁栄)と名づけられたウェルビーイング・カリキュラムを導入しているのです。その中身(というか枠組み)は、ウェルビーイングに最適な要素を表す言葉のPROSPERの頭字語で表しています。

  • P Positive Mindset; Positive emotions ポジティブな心構え・前向きな感情
  • R – Relationships:人間関係
  • O – Outcomes and achievement:成果と達成
  • S – Strengths:強み
  • P – Purpose and Meaning :目的と意味
  • E – Engagement:エンゲージメント
  • R – Resilienceレジリエンス(回復力・しなやかさ)

すべての生徒は、このPROSPERの枠組みに沿ったウェルビーイング授業に参加し、社会的・感情的な理解やスキル(要するに、SELのスキル)を育んでいきます。

 

●小学校段階の取り組みは、次のものが中心です。

  • You can do it」★1整理整頓、粘り強さ、レジリエンス(困難を乗り越える力)、協調性といったスキルを育てるプログラム
  • 構造化された遊び(Structured play社会的な言語や行動を身につけるための遊び活動
  • 「サークル・タイム(Circle Time)」男子生徒が自分の気持ちを表現し、他者の気持ちに気づく力を養うための構造化された場 ~ これについての詳しいやり方は、『生徒指導をハックする』の第2章や、『SELを成功に導くための五つの要素』『学びは、すべてSEL』『聞くことから始めよう!』のなかでも「コミュニティー・サークル」として詳しく紹介されています。
  • ライフ教育(Life education生に関する教育 ~ 同じレベルで大切な「死の教育」も大切! https://thegiverisreborn.blogspot.com/2025/12/140141.html
  • Still Cloud ★2初等部(小学校)全体で毎日休み時間後に行う10分間のマインドフルネス。集中力を取り戻し、心の落ち着きを育む時間

 

●中学校段階

  • パーソナル・ディベロップメント(自己成長)プログラム「私は誰か?」といった問いや、思春期に直面する課題や変化を探究する。~ これには、オーストラリアで1980年代に開発された『わたし、あなた、そしてみんな』(https://www.eric-next.org/test/reflect_read.html#textsの6冊目)が参考になります。この本の「わたし」の部分だけを日本風にアレンジしたのが『人間関係を豊かにする授業実践プラン50: 自分を見つめ好きになる本 』でした。
  • 「キャンプ・ファイア」感情を表す言葉を育てるために、分かち合い・表現・気持ちを言語化する方法を学ぶ構造化された場。
  • マンツーマン・コーチング学校生活、人生、その他の関心分野において目標を立てる方法を学ぶ。
  • キャラクター・ストレングスの特定自分の性格的な強みを見つけ、それを活かして目標達成につなげる方法を学ぶ。

 

●高校段階

  • ポジティブ心理学個人のウェルビーイング(心身の健やかさ)につながる要因を探究する。
  • 尊重ある人間関係他者、特に女性との関わりにおいて、職場・友人関係・より親密な場面で前向きかつ敬意あるふるまいを学ぶ。
  • 固定的マインドセット vs 成長マインドセットすべての活動において成長マインドセットをもつことで、自分の可能性を最大限に伸ばせることを男子生徒に教える。 ~「教える」というのは無理があると思います。『生徒指導をハックする』の第5章を参照ください。成績・評価を必然的に扱うというか、変えていく必要に迫られます! そうなると、『成績をハックする』『聞くことから始めよう!』『成績だけが評価じゃない』などを、まずは教師が自分たちのものにすることになります。
  • キャリア・カウンセリング各生徒の関心や強みを探り、それをもとに進学や将来のキャリア選択に役立てる。

 

 以上のブライトン・グラマーの情報から、発達段階に応じて、かなり体系化する努力をしていることが伺えます。個別のアクティビティーをバラバラに(イベント的に)するのか、それとも幼稚園児から高校卒業までを見据えたプログラムとして実践するのかでは、得られるものはだいぶ違ったものになります。似たような時間をかけるのであれば、後者でいきたいものです!

 その際に大切なことは、『インストラクショナル・コーチング』の185~188ページで紹介されている「インパクト・サイクル」ないし「コーチングのサイクル」(それらは、探究ないし実践向上のサイクルとも言える)を回し続けることが鍵となります。

 

●他のオーストラリアの学校でのウェルビーイングへの取り組みに関する情報:

https://www.aitsl.edu.au/research/spotlights/wellbeing-in-australian-schools

https://www.teachermagazine.com/au_en/category/wellbeing

https://studentwellbeinghub.edu.au/educators/

https://wellbeingguide.acer.org/

 

★1 子どもの可能性を信じ、あなたは「できるよ」「あなたには力がある。だから一緒にその力を育てていこう」という教育理念を表すタイトル。

★2 「雲がゆっくり止まるように、心を静める10分間」という意味です。

関連情報:

https://www.bing.com/search?q=student+well-being&FORM=SSQNT1&PC=DCTS

https://www.aitsl.edu.au/general/search-results?indexCatalogue=search&searchQuery=student%20wellbeing 最初の20個ぐらい

https://www.aitsl.edu.au/research/spotlights/wellbeing-in-australian-schools オーストラリアの状況がまとめられている。

https://www.teachermagazine.com/au_en/category/wellbeing

https://studentwellbeinghub.edu.au/educators/

https://wellbeingguide.acer.org/