2026年2月21日土曜日

学校レベルでの責任ある意思決定: その2=学習環境

 SEL便り: 責任あ意思決定 の7回目です。

 『成績だけが評価じゃない』では、学習環境について直接は言及されていないので、このテーマを正面から扱っている邦訳のある3冊の本(『みんな羽ばたいて』Tomlinson著、『「居場所」のある学級・学校づくり』Barron & Kinney著、『「おさるのジョージ」を教室で実現』Ostroff著)を使って、何が大切か、何を考える必要があるかを紹介します。

 以下は、生成AICopilotとのやり取りを通してつくられたものです(青字+~以降は、執筆者のコメントです)。


1. 関係性と尊重を基盤とする学習者中心の学習環境

  • Tomlinson: 学習環境は「生徒が自分自身を理解し、他者と関わり、世界を探究する場」であるべきだと強調。安全性、尊重、関係性が鍵。
  • Barron & Kinney: 「居場所があること」が学習の土台。生徒が「受け入れられている」と感じることで、学びへの意欲が高まる。
  • Ostroff: 好奇心を育むには「心理的安全性」と「探索の自由」が不可欠。失敗を恐れずに試行錯誤できる場が必要。

共通点: 学習者が安心してリスクを取れる環境を重視。学習環境は「人間関係の質」によって成立する。~ この大事な「人間関係の質」、あなどっていませんか?

 

2. 内発的動機と自己決定の尊重

  • Tomlinson: 生徒が「自分の学びに意味を見出す」ことが、深い理解につながる。
  • Barron & Kinney: 生徒が「価値ある存在」として扱われることで、自己肯定感と学習意欲が高まる。
  • Ostroff: 好奇心は「自立的な学びの原動力」であり、強制ではなく「興味から始まる学び」が重要。

共通点:学びは「内側から湧き出る力」によって駆動される。~ この大事な要素、見過ごされていませんか?

 

3. 教師の役割の変容

  • Tomlinson: 教師は「学習のデザイナー」として、生徒のニーズに応じて環境を整える。
  • Barron & Kinney: 教師は「関係性の構築者」として、生徒の尊厳を支える存在。
  • Ostroff: 教師は「好奇心の触媒」として、生徒の問いを尊重し、探究を促す。

共通点:教師は「知識の提供者」ではなく、「学びの伴走者」。~「学習のデザイナー」「学習のデザイナー」「好奇心の触媒」としての役割、果たせていますか?

 

◎3者の力点の違いと共通点(比較表)

 

 これら3冊の本に共通するのは、「学習者の内発的動機を引き出す環境づくり」と「教師の役割の変容」に関する示唆に富む考察と具体的な実践例が多数紹介されていることです。SELとの接点も大きいですから、興味をもたれた方はぜひ3冊の本チェックしてみてください。

 また、前回「チョイス(選択)ボード」という教え方・学び方が丁寧に説明されている本として『ほんものの学びに夢中になる』を紹介しましたが、この本は147~8ページをはじめ本全体が「ほんものの学びに夢中になる」ための学習環境の選択肢を(教師と生徒に)提供している内容とも言えるので、合わせて参考にしてください。ある意味では、それほど「学習環境」は大切なのに、日本では依然として「学習環境=教科書」という捉え方中心になっている悲劇が続いているのではないでしょうか?

2026年2月7日土曜日

学校レベルでの責任ある意思決定: その1=順位づけと能力別クラス編成

 SEL便り: ある意思決定 の6回目です。

 日本の学校でも、順位づけと能力別クラス編成がまだ当たり前のように行われています。これは、9回目で予定にしている「テスト・成績・通知表/内申書」の弊害と言えます。

 『成績だけが評価じゃない』の162ページには、次のように書かれています。

 生徒を順位づけて比べるという仕組みを学校が続けてしまうと、どの位置にいようと、生徒に感情的・社会的なジレンマを与えます。生徒を順位づけして比べるという仕組みは、「もってる人」と「もってない人」との間に存在する溝を永遠に埋めることはなく、前者には報酬を与え、後者には障壁を与えてしまいます。

 また、これは家庭や地域の貧富の差や不公平を浮き彫りにも(反映)してしまいます。

 生徒を順位づけしたり、能力別に分けたりする行為は、「生徒同士のヒエラルキーをいつまでも残してしまいますし、彼ら自身の学びに対するエイジェンシー(主体性)を制限」(同上、163ページ)してしまうのです。

 以上のこと及び評価や成績のつけ方に関しては、この本の第5章と第6章でさらに詳しく書かれています。その主な内容を紹介すると:

・すでにSEL便り: 責任ある思決定 の4回目で紹介した「競争 vs 協働・協力」https://gemini.google.com/share/b2267d79b2b2 について(186~191ページ)と特に「成績にサヨナラする」(188ページ)では、『成績をハックする』と『聞くことから始めよう!』が紹介されている(これら2冊の本を、ぜひお読みください!)。

・いま行われている「評価が子どもたちの自尊心に悪影響」を及ぼし(191~196ページ)ているだけでなく、「学業成績によって決めつけられる生徒のアイデンティティー」(196~203ページ)は極めて歪んだものになってしまう。

・そして、第5章の最後には「もし、すべての生徒に帰属意識をもたせたいのであれば、学力(=テストの点数)で競争するという考え方の代わりに、目標をどれだけ達成したのかという基準で評価する方法を理解してもらい、それぞれの生徒が最高の成果が出せるように励まさなければなりません」としたうえで、第6章の「個別評価で生徒の尊厳を高める」ための具体的な方法(特に、成長マインドセットを意識すること、ポートフォリオに力を入れること)が紹介されている。

 なお、第5章と第6章および上で紹介した2冊の本と同じように、順位づけと能力別クラス編成を即刻止めることを提唱しているのが、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(特に、46~55ページ)で、その本の残りの部分では、それらに代わるより好ましい教え方が多数紹介されています。その中の一つで最も後半に使われている教室の中に複数の学習コーナーないしセンターをつくって学ぶ方法が詳しく紹介されているのが『一斉授業をハックする』です。

 また、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の176ページでは、わずか一段落でしか説明されていない「チョイス(選択)ボード」という教え方・学びかたが、『ほんものの学びに夢中になる』では丁寧に説明されている(68~72ページ)ので、ぜひ試してみたくなります。基本的に、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』で紹介されている方法は、そういう魅力的なものばかりです。

2026年1月17日土曜日

教師のSELを育てるための5つの基本レッスン

 去年の12月に『教師のためのアート・オブ・コーチング』という本を出したのがきっかけで、その著者のエリーナ・アギラ―さんがあちこちに書いた無料で読める記事(ブログ等)を読んでいます。ここで紹介するのは、彼女が11年前の2014年4月24日に書いたものです(CASELの設立は1994年ですから、アメリカでは20年が経過した段階です。いまは30年経っていることになります!)。~以降の青字は、紹介者のコメントです。エリーナさんの説明だけで試してみるのに自信がもてない方は、参考図書をご覧ください。

  *****

 前回(4月17日)のブログ(PLC便り: すべての人に(生徒にも教師にも)SELを!を参照)では、SELは子どもだけでなく、教師、管理職、コーチ、そして学校で働くすべての大人に必要だという主張をしました。これから紹介するレッスンは、学校全体のスタッフで取り組むことも、個人で実践することもできます。目的は、感情への気づき、自己管理、社会的な気づき、そして人間関係のスキル★を育てることにあります。

 

レッスン1:感情を認識する練習をする

1日、あるいは1時間だけでも、自分の感情的な反応を観察してみましょう。たとえば、学校に着いたとき、「子どもたちが来る前に全部終わらせなきゃ」と不安を感じている自分に気づくかもしれません。そのときは、ただ気づき、「あ、不安があるな」と心の中でつぶやいてみてください。また、ある同僚の教室の前を通ると、彼女が友人であるために安心感や心地よさを感じることがあるかもしれません。そのときも、「あ、安心しているな」と気づいてみます。大切なのは、評価や判断を加えずに、ただ気づき、名前をつけることです。もしよければ、メモを取ったりジャーナルを書いたりして、一定期間の自分の感情の動きを記録してみてもよいでしょう。ときには、自分が何を感じているのかうまく言葉にできない瞬間もあるはずです。それでも大丈夫です。思い浮かぶ言葉をすべて書き留めてみてください。 ~『感情と社会性を育む学び(SEL)』の第3章に似た活動がいくつか紹介されています。

 

レッスン2:身体の反応に気づく

自分の身体がどのように感情を経験しているかを認識する力を磨くことも、SELの大切なステップです。私たちの身体はしばしば感情を表現します。もしその反応に意識を向けられれば、役に立つ情報を得られることがあります。たとえば、保護者が子どもを送りに来たとき、自然に笑顔になっている自分に気づくかもしれません。そのとき、心の奥にある感情にも気づけるかもしれません――「ありがたい。このお母さんはいつも前向きだな。」また、管理職と話すとき、肩がこわばり、お腹が固くなり、呼吸が浅くなることに気づくかもしれません。そのとき、こうした身体反応の背後にある感情を認識できるかもしれません――「身構えている。不安だ。」こうした気づきを得ることで、私たちは「どう行動したいか」を選べるようになります。たとえば、管理職と話すときに不安を感じていると気づいたら、深呼吸をしたり、肩の力を抜いたりすることができます。感情に気づき、名前をつけることは、「自動操縦」の状態から抜け出すことにつながります。そのほうが、たいていの場合、自分の力をより発揮できる状態になります。 ~『感情と社会性を育む学び(SEL)』の100~102ページ参照。

 

レッスン3:好奇心をもつ

感情に気づき、名前をつけられるようになったら、次はその感情に対して好奇心をもってみましょう。調べてみる。探ってみる。問いかけてみる。たとえば、管理職と話すときに不安を感じる自分に気づいたら、こんなふうに振り返ってみます。
「私はいつからこう感じているんだろう?」
「最初はどんなきっかけだった?」
「もう一人の管理職と話すときはどう感じる?」
「この人は私の中の何を刺激しているんだろう?」
「その感覚はどこから来たんだろう?」

ここでの目的は、自分の心理的な歴史を深掘りすることではありません。体験そのものに問いや不思議さ、好奇心を吹き込むことです。そうすることで、感情のつかみが少しゆるみ、その体験について役立つ何かが見えてくることがあります。 ~ 『SELを成功に導くための五つの要素』の第3章「自己を見つける」を参照。

 

レッスン4:感情を観察する

私たちは感情そのものではありません。もし感情を観察する練習ができれば――まるで地上1万フィート上空から、自分が感情を経験している様子を眺めるように――その感情に振り回されずに行動を選べるようになります。感情がときに強く、しがみつくように感じられることもあれば、軽くてすぐに流れていくように感じられることもあります。感情に執着しない練習はとても役に立ちます。
 感情はただの「状態」であり、やって来ては去っていくもの――そして、私たちはその状態にある程度の影響を与えることができます。私はときどき、自分の感情を天気のようにイメージします。嵐の日もあれば、穏やかな空の日もある。激しい雨もあれば、そよ風の日もある。天気が変わるように、感情も必ず変わります。そして私は、自分を一本の木として思い描きます。その木は、やって来ては過ぎていくさまざまな感情(天気)をただ経験しているのです。 ~ 『学びは、すべてSEL』の第3章「感情調整」を参照。

 

レッスン5:自分の感情が他者に与える影響に気づく

自己批判に陥らずに、自分の感情状態が周囲にどんな影響を与えているかに気づくことから始めましょう。ポイントは、科学者のように観察することです。たとえば、こんなふうに自分に語りかけてみます。
「へえ、面白いな。今まで気づかなかった。」
「わあ、私が〇〇な気持ちのとき、Xにはこんな変化が起きるんだ。」

たとえば、ある生徒に対して、いつも大きな笑顔で温かく迎え、会えると本当に嬉しくなる自分に気づくかもしれません。そのあとで、こんなことにも気づくかもしれません。
「私があんなふうに挨拶すると、この子の表情がふっと緩んで、笑顔が広がり、落ち着いて席につくんだ。」

また、疲れて不安を感じているときに、事務の方に書類をそっけなく頼んだら、相手の肩がすくみ、返事も刺々しくなったことに気づくかもしれません。

こうした観察をするときは、自分を責めないことが大切です。ただ気づく。名前をつける。観察する。それだけで十分です。~ 『SELを成功に導くための五つの要素』の114ページ前後の「セルフ・サイエンティストになる」を参照。


 これが私の「理想の姿」です。

学校のスタッフが、これらの実践に数週間から数か月取り組む。その過程で、自分たちがどんな体験をしているのか、何に気づいているのか、何を学んでいるのかを語り合う。それは、週に10分(職員会議や研修の冒頭など)でもよいし、本来ふさわしい時間――週に1時間以上――を確保してもよいでしょう。

これらのレッスンには、感情を表す語彙を広げること(多くの大人に欠けているスキルです)や、難しい感情にどう対応するかという「ツールキット」を育てることも含まれます。
 そして、私の理想をさらに広げるなら、学校のすべてのスタッフとすべての生徒が、この学びに一緒に取り組む姿を見てみたいです。 ~ まさに、エリーナさんの理想を実現するために書かれた本が、『SELを成功に導くための五つの要素』です。それも原書の出版年は2013年ですから、彼女がこのブログを書いたのとほぼ時を同じくしています。

これは始まりにすぎません――しかし、とても力強く、変革をもたらす始まりです。
大人が本来受けるべきSELを提供するための第一歩であり、学校をもっと落ち着いた、もっと幸せな場所にすることにつながると私は確信しています。

出典: https://www.edutopia.org/blog/five-social-emotional-learning-lessons-for-adults-elena-aguilar

★このリストには、「責任ある意思決定」が含まれていませんが、いま本ブログで連載中です。https://selnewsletter.blogspot.com/search/label/%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E3%81%82%E3%82%8B%E6%84%8F%E6%80%9D%E6%B1%BA%E5%AE%9A

2026年1月3日土曜日

時間管理をうまくやる方法

  新年おめでとうございます。

 SEL便り: 責任ある意思決定 の5回目です。今回のテーマは、年の初めということもあって、より一層重要かと思います。多くの人がこれで悩んだり、失敗していますから!

 時間管理については、すでにhttps://selnewsletter.blogspot.com/2025/06/blog-post.html で紹介しました。まさに、自己管理・コントロール能力の柱と言えます。

 『成績だけが評価じゃない』の著者のスター・サックシュタインさんがこちらの意思決定にも、時間管理を含めた意図は何かな、と考えました。彼女は、次のように書いています(158ページ)。

責任ある選択をするということは、その選択によってどのような結果がもたらされるかを知ることにもなります。そうした気づきは、誘惑的な選択(たとえば、放課後はたっぷり友だちと遊び、試験前夜まで勉強を先延ばしにしてしまうこと)を生徒がするのではなく、もっとも有益な選択(たとえば、試験の準備のために時間をかけてさまざまな方法を試してみること)をするのに役立ちます。

 これは、まさによくあることですし、教師も含めた大人も、公私両面でよくやらかしてしまう過ちです。それは多分に、優先順位が明確でないというか、いい判断を下せないことによる悲劇といえます。

 先のURLの最後で、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』で最も感激した内容に触れましたが、もっとも有益だったのは、まさにこの優先順位の明確化/判断の仕方に関する情報だったかもしれません。それは、次の図に表されるものです。

 私たちは往々にして、重要性を考えずに、緊急性に飛びついてしまいがちです! つまり、優先順位が低いもの、にです。もちろん、緊急で重要なものに取り組むことは、選択肢がほとんどありません。しかし、緊急性はあっても、重要性が低いものはどうでしょうか? それを見極めないと、「忙しい」「時間がない」と言い続けざるを得ない状況に陥って、重要なものへの取り組みがほとんど無視されることになってしまいます。その結果、後で後悔することが少なくないわけです(スターさんが紹介してくれていた生徒の事例のように!)。このマトリックスを常に、あたまの中において、いま自分がやろうとしていることは、そのどれに当てはまるのか? 他により重要なことはないか? を考える習慣をつけられるようにするとよいでしょう。要するに、「錯覚」や「無駄」をできるだけ避けて、「価値」に振り向けることを意味します(「緊急」は避けて通れませんから、やるしか選択がありません!)。

2025年12月20日土曜日

協働することの意義

 SEL便り: 責任る意思決定 の4回目は、協同・協働的に学びがいかに意思決定に大切な役割を果たすかについて書いてあるところの紹介です(『成績だけが評価じゃない』の第4章)。

 著者のスター・サックシュタインさんは、次のように書いています。

 生徒がアイディアを共有し、ともに理解を深めるような協働的な環境においては、一人ひとりの生徒が学びに対してもっているネガティブな意思決定は最小限に抑えられます。生徒は、問題解決に取り組んだり、特定の目標を達成する基準を使ってフィードバックを提供しあうときであれ、お互いに大きな助けとなる力をもっています。また、生徒同士の関係が親密になれば、グループにおいて責任ある決定が下せるように生徒がもつ力を最大限に引き出します。(中略)生徒同士の関係が深く結びつけば、試験対策だけでなく、グループ課題やプロジェクトに取り組むときに最適な人を自分で選べるようになります。そして、その選択が自分の学びにとって効果的であったのか、今後改善を必要とするのかなど、自らの選択を振り返ることもできます。

 

 この引用だけでは、何か協働で取り組ませることの価値はありそうだ、とは思わされても、具体的にどういうメリットがあり、またどういう方法があるのかまでは見えてこないので、https://gemini.google.com/share/b2267d79b2b2 をお読みください。「協同・協働的に学習することの教科面以外のメリットにはどんなことがある?」と「いまとなっては45年ぐらい前ですが、個人学習、協同学習、競争学習の3つを比較した表を見たことがあります。そんなもの出せますか?」の2つの問いに、Geminiがわかりやすく情報提供してくれています(記憶に残っている比較の表は、縦の項目がもっとたくさんありましたから、同じものではありません! しかし、これで3つの学習法の違いは明確にしてくれているので、これ以上の深追いはしないことにしました)。

 多くの教師は、「時間が取れない」や「機能するチームづくりが面倒だ」などの理由でいまだにグループ活動(協同・協働学習)を敬遠しているようですが(結果的に、上記のURLの表にある「個人学習」と「競争学習」がほとんどになってしまい)★、「協同/協働学習」でしか得られないたくさんの大切な資質(態度)やスキル(能力)を生徒たちに練習してもらう機会を提供できない状況が続いています。それらの多くは、実態としては圧倒的を占めている「個人学習」と「競争学習」では得られないものです。そして、それらの資質やスキル(4つの項目で整理されている「教科面以外の主なメリット」)は、意思決定を行う際にも大きく貢献するものばかりです。逆に言えば、それらが身についていないと、有効な意思決定ができないことにつながってしまいます。

 

●具体的に、どのような協同・協働学習をすればいいのか

 では、具体的にどのような協同・協働学習をすればいいのか、ということについては、日本協同教育学会https://jasce.jp/)や「協同学習関連のおすすめの本は?」で検索したり、生成AIに尋ねるとたくさんの情報が得られるので、それでは得られにくい情報をここでは提供します。

『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』では、たくさんの協同・協働学習の方法が紹介されています。

・たとえば、そのなかで一番ページが割かれている「学習コーナー」「学習センター」は、『一斉授業をハックする』一冊で詳しくやり方が紹介されています。

・また、Choice Board(選択ボード)は、わずか一段落でしか紹介されていないのが、『ほんものの学びに夢中になる』では具体的なボードの例も踏まえながら、4ページで紹介されています(私自身も、後者を訳していて、ようやくその活動の意味というか意図が理解できました)。

・同じく、わずか一段落でしか紹介されていないブッククラブは、『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』という一冊の本になっています。

・『ようこそ、一人ひとりをいかす教室』では8ページで紹介されている「契約」は、『「考える力」はこうしてつける』で1章が割かれて紹介されています。

 これらの本では、他にもたくさんの魅力的な方法が紹介されており、それらをすべての教科でいい機会を見計らって実施することで、イベントとしての協同・協働学習やSELの実践から抜け出して、教科指導とSELおよび協同・協働学習を統合した形の実践が可能になることでしょう。(それは、https://selnewsletter.blogspot.com/2025/10/selai.html にあるように、徳目を一つずつバラバラに扱う道徳教育からの脱却と、資質やスキルの定着を意味します!)

 

 これまで挙げた本とは、少し経路が違う本も紹介します。それは、『「居場所」のある学級・学校づくり』です。日本流に言うと、「学級経営」のジャンルに含まれますが、「居場所」という切り口を使うとアプローチがだいぶ違ったものになります(つまり、学級経営や特活アプローチに欠けているものを補える、ということです! それは、学級経営や特活と教科指導を分けないアプローチということになります)。

 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794812247 の目次を見るとお分かりのように、協同・協働学習が第7章で、また生徒を惹きつけ夢中で学べるようにする多様な教え方(それらの7~8割がたは、チームで取り組むものです)が第6章で、そして、SELとの強い関係が第5章で扱われています。残りの章も必ず役立つはずです!

 

★一方で、「単にペアやグループにして話し合わせるのが協同・協働学習」という捉え方が依然として主流を占めており、それに対して「グループ活動をしても、学びにつながらない」という課題を多くの教師が抱えているのも事実です。そこで、生徒一人ひとりが責任をもって学びに向かえる仕組みを、実践例とともに紹介すると共に、形だけのペアやグループ活動から脱却し、目的に応じた柔軟なグループ編成が学びを深める鍵となることを示している翻訳書に挑戦し始めていますので、ご期待ください。

2025年12月6日土曜日

簡単に不正ができない課題や活動や評価を生徒たちに提供するには

 SEL便り: 責任ある意思決定 の3回目です。

前回の最後で、「コピペや剽窃では達成できない課題や活動を提供することを提案しています」が、『成績だけが評価じゃない』の中ではその具体的な方法が紹介されていないので、それが提供されているいくつかの本を紹介しました。

今回までに、その具体的な提案が書いてある資料を見つけたので紹介します。

簡単に不正(カンニングやズル)ないしコピペや剽窃ができてしまう評価や試験を出し続けているのは、教師の側(あるいは、制度の側)と言えます。教育ないし学校という制度ができたときから、これらの問題は付きまとっていたというか・・・・ つまり、生徒の側の問題ではないのです!★

以下のような特徴を持つ試験や課題は不正を起こりがちとされます。

      単純な暗記問題中心答えを事前に入手すれば容易に高得点が取れる。

      監督が甘い試験や課題他人に解かせたり、検索で答えを探せる。

      選択肢が少なく予測可能推測やパターン認識で正答できてしまう。

 要するには、ペーパーテストや小論文は必然的に不正を招く評価法、ということ?!

 それに対して、「不正が困難な課題ないし評価」の特徴には以下のようなものが挙げられます。

A オープンエンド型の記述問題(思考過程や独自の解釈を問う)

B プロジェクト型課題(成果物やプロセスを評価する)

C 口頭試問や対話型評価(その場で応答する必要がある)★★

さらには、表現の媒体として、文字だけでなく、多様な表現媒体を可能にしたものからの選択が可能、というのも大事ではないかと思います。

 不正が容易にできてしまう(よって、頭に残るものも少ない)課題や評価をさせるのではなく、不正が困難で、かつ残るものも多い課題や評価に転換するには、以下のような特徴をもったものを考える必要があります。

1.   各自の独自性や創造性が発揮されるもの

2.   個人的なつながり

3.   取り組む目的・意図がもてる(明確)

ちなみに、この3つは、エッセイ・スピーチ・創作など、どんな表現でも「心に響く」ものにするための基本軸です。逆に言えば、これらがないものは、課題として響かない(残るものではない)ことを意味します。

 

●教師だけの評価から、4者の視点からの評価への移行

 そして、教師だけの評価ではなく、4者の視点からの評価への転換も同時に大切になります。それによって、教師だけに偏らず、多様な視点を取り入れることができるからです。

  • 自己評価 ― 学習者自身が振り返りを行い、メタ認知的に自分の学びを考えることで、学習への責任を自覚する。
  • 仲間による評価 ― ワークショップや「ギャラリーウォーク」(作品を展示して互いに見合う活動)を通じて、他者の視点から自分の成果を見てもらい、仲間の成果から学ぶ機会を得る。
  • 教師による評価 ― 教科の専門知識や学習基準に基づいた専門的なフィードバックを受けることができる。
  • 真の対象(オーディエンス)による評価 ― 作品を公開し、ウェブやSNSでコメントをもらったり、閲覧数や共有数などのデータを分析したりする。昔ながらの口コミやアンケート、会話での反応も有効。これらによって、学習者は自分の成果が社会にどのような影響を与えているかを理解できる(だけでなく、さらなる改善・修正の必要性も認識できる!)。

教師の一方的な評価でなく、4者の視点からの評価にすることで、学習者が自分の学びをより深く理解し、現実世界での意味や影響を実感できるようになります。

 さらに、従来の簡単に不正ができる評価から困難な評価への移行には、次の点への配慮も大切です。

・内容とスタイルを分けて評価する
事実・知識・正確さといった「内容」と、デザイン・技術的な質・表現力といった「スタイル」を別々に採点します。これにより、創造的なスキルがまだ発展途上でも、知識面での理解は正しく評価されますし、その逆も可能になります。~ https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/02/blog-post_19.html の「三つのP」を参照。

・評価を価値観に合わせる
生徒に、研究者として成功したり、建設的なコミュニティーの一員として成長してほしいなら、その資質を伸ばすような評価項目を設定しましょう。例えば「独創性」「勇気」「社会的な影響力」といった観点を重視します。

・ポートフォリオを公開する
生徒に学習の成果物を集め、学期や年度を通して振り返りをさせます。公開可能なデジタルブックやEポートフォリオにまとめることで、学びの物語をより意味深く、より本物らしく伝えることができます。

 以上のような形で、カンニングやコピペや剽窃では達成できない課題や活動を提供することが可能となります。

 

★(教師も含めた)制度側の問題なのに、それを生徒に責任転嫁しているのです!

★★Aのオープンエンド型の記述問題は、まさにライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップで日々やり続けていることです。Bのプロジェクト型課題(成果物やプロセスを評価する)の代表には、『プロジェクト学習とは』『PBL~学びの可能性をひらく授業づくり』『あなたの授業が子どもと世界を変える』『子どもの誇りに灯をともす』『たった一つを変えるだけ』などが参考になります。Cの口頭試問や対話型評価は、『一人ひとりを大切にする学校』の中心の一つに据えられているエキシビションという評価法です。

★★★ 「●教師だけの評価から、4者の視点からの評価への移行」以降で書かれていることのほとんどは、総括的評価のことではなく、形成的評価を重視した書き方になっています! 総括的評価は、成績をつけることが目的なのに対して、形成的評価は生徒の学びの質と量をさらに拡大すること(と、教師の教え方に修正改善をもたらすこと)が目的です。どちらがより価値があるかと言えば、後者です。前者の価値は、いったい何でしょうか?

 

出典: https://www.ascd.org/el/articles/tips-for-grading-authentic-assessments