2026年8月1日土曜日

創造性でレジリエンスを高める

 創造性は、ストレスに対処するための大切な資源です。そしてその始まりは、とてもシンプルなこと——「問いを立てて、世界への驚きを取り戻すこと」 からでも十分なのです。

 多くの教師は、ストレスを管理し、燃え尽きを防ぐことに強い関心をもっています。この仕事の要求の大きさや、学校現場で離職率が高いことを、私たちはよく知っているからです。十分に眠り、バランスよく食べ、運動し、ときには瞑想する——こうした習慣がレジリエンス(困難に立ち向かい、以前より強く立ち上がる力)を育てるうえで役立つことも、私たちは理解しています。

しかし、しばしば見落とされているもう一つのレジリエンスの育て方があります。それは、創造性を高めることです。創造性は、ストレスに向き合い、問題を解決し、人生を楽しむための内なる資源を開いてくれます。私たちが創造的であるとき、私たちは柔軟で、これまでにない新しい方法で問題に取り組むことができるのです。

 

なぜ創造性がレジリエンスを育てるのか

創造性は、習慣(私たちが行うこと)であると同時に、気質(ものの見方やあり方)でもあります。それがいつ習慣から気質へと移行するのか、あるいは習慣として行動に表れなくても気質として存在し得るのか——その境界をはっきり示すのは難しいところです。最近の執筆や調査を通して気づいたのは、レジリエンスの高い人を扱った研究のほぼすべてが、創造性を重要な特性・行動・気質として挙げているということでした。

 ここには理由があります。創造的なプロセスは、問題の根本を見抜いたり、状況を別の角度から捉えたりする力を与えてくれます。その結果、いっけん無関係に見える事柄同士を結びつけ、新しい視点を得ることができたりもするのです。これは、あなたが教室や学校で直面するあらゆる課題にも当てはまります。たとえば、行動や評価のマネジメント、整理整頓、膨大な業務量など。もし、こうした問題に取り組むために、自分の内側にある別の資源を引き出し、新しく独創的な方法を見つけられたらどうでしょう。創造性に意識を向けることは、その可能性を開いてくれるかもしれません。

 創造的な活動に没頭するべきもう一つの理由は、脳にとって良いことです。創造性はアルファ波を活性化させますが、これはリラックスした状態と強く結びついている脳の信号です。科学者たちは、人がリラックスしているとき、「あっ、そうか!」という大きなひらめきが生まれやすいことを明らかにしています。解決不能に思える問題が、まるで自然にほどけていくような瞬間です。だからこそ、同じ問題をぐるぐる考え続けてしまうときは、散歩をしたり、運動をしたり、長めのシャワーを浴びたりするのが効果的なのです。こうした活動は、脳内でアルファ波を生み出してくれます。

 さらに、多くの研究が示しているのは、絵を描く、編み物をする、ジャーナルを書くといった活動が、セロトニンの分泌を高め、不安を軽減するということです。これらはすべてレジリエンス——つまり、問題に向き合い、次に同じような困難が訪れたときには、よりうまく対処できるようになる力——を高める要因となります。

 

どうすれば創造性をもっと育てられるのか

創造性は、育てていく必要のある「習慣」です。多くの人は「自分は芸術が得意じゃないし」と思い込み、創造的な活動を時間の使い方として価値あるものだと感じていません。もしあなたがそう感じているなら、少しずつ始めてみるといいでしょう。クラスを受けてみたり、まずは芸術を「味わう」ことから始めたりしても構いません。自分自身の創造性を育てていくうちに、授業の中でも、職員会議でも、週末の過ごし方でも、創造性を自然に取り入れられるようになります。そしてそのことが、あなたのレジリエンスを高めてくれるのです。

 

 教室の内外で、創造的なマインドセットを育てるための方法をいくつか紹介します。

●質問すること

5歳の子どもは1日に120の質問をし、6歳になると60に減り、40歳の大人は1日にたった4つしか質問しないと言われています。初心に返り、積極的に質問してみましょう。他の人がどんな質問をしているかにも注意を向けてみてください。心を動かされた質問を集めておくのも良い方法です。

●好奇心をもつこと

アイディアの切れ端、言葉の断片、葉っぱや花びら、イメージや香りなどを集めてみましょう。それらを心の中の引き出しや小箱にしまっておきます。無理に関連性を探す必要はありません。ただ、それらの断片が新しい形で結びつく可能性に開いておくのです。アイディアを組み合わせ、つながりを見つけることは、創造性の重要な実践です。

試す・失敗する・記録する

トーマス・エジソンはこう言っています。「私は誰よりも多くの失敗をする。そしてたいていの場合、その失敗の多くを特許にしてしまう。」エジソンは多作な発明家でありイノベーターで、失敗から学ぶ達人でした。彼が亡くなったとき、アイディアや思考の詳細が書かれたノートが3,500冊残されていたといいます。好奇心に従い、アイディアを試し、失敗から学ぶことを続ければ、あなたの創造性の質は飛躍的に高まるでしょう。

 

 最後にもう一つだけお願いがあります。どうか創造性を大切にしてください。創造することは、あなたが生まれながらにもっている権利なのです。人間は本来、創造的に自分を表現する存在です。世界中どの文化を見ても、人々が美しさを生み出してこなかった文化は一つもありません。あなたが自分の身体をいたわり、心の健康を気遣うのと同じように、どうか自分の中の創造する力にも栄養を与えてください。そうすることで、教師として日々直面するストレスに、よりしなやかに向き合えるようになるはずです。

 

出典・https://www.edutopia.org/article/boosting-resilience-through-creativity

この記事の執筆者のエリーナ・アギラーさんは、『教師のためのアート・オブ・コーチング』(図書文化)をはじめ、この記事のレジリエンスをテーマにした『Onward』、そして『教師のためのアート・オブ・コーチング』の改訂版の(というよりも、ほとんど別の本と言った方がいい)『Arise』などの著者です。

 

この記事の紹介者が先生たちに研修を提供するという形で学校に関わり始めたのは、1980年代の中ごろでした。当時も、そして今も共通の課題として感じるのは(状況は、今の方がはるかに深刻度は増していると思います!)、多くの教師の創造性や好奇心の欠如です。いかせん、「答えありきの世界の住人」ですから、創造性や好奇心が薄れるのは一種の職業病的なものと言えるかもしれませんが、教育の見地から本来それは許されることではありません。本文中に「5歳の子どもは1日に120の質問をし、6歳になると60に減り・・・」とありますが、教師は1日にいくつの質問をするでしょうか?(発問という形で、すでに答えのわかっている質問は生徒たちに対してたくさんするかもしれませんが、ここでの対象は自分が答えを知らない質問のことです。)

この記事では創造性を養う3つの方法が紹介されていますが、それら3つに関していい本を紹介します。①質問をすることについては、『たった一つを変えるだけ』。②好奇心については、『「おさるのジョージ」を教室で実現』。③イノベーター/失敗から学ぶ達人については、『教育のプロがすすめるイノベーション』(この本のイノベーションの定義は「新しくて、よりよい何かを創造する考え方」です)がおすすめです。

2026年7月18日土曜日

夏休みを前に、SELにつながる本の紹介

 どの提案を試してみるにしても、それらがあなたのレジリエンスや希望、そして心身の健やかさにつながりますように。(この本のリストの制作者は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんです。)

 

『ゼアゼア』 トミー・オレンジ著 ; 加藤有佳織訳  五月書房新社 2020

『私たちにできたこと : 難民になったベトナムの少女とその家族の物語』 ティー・ブイ著 ; 椎名ゆかり訳  フィルムアート社, 2020

『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ : あなたがくれた憎しみ』アンジー・トーマス作 ; 服部理佳訳  岩崎書店 2018

(同じ著者の『オン・ザ・カム・アップ : いま、這いあがるとき』服部理佳訳  岩崎書店 2020もあります)

『密やかな炎セレステ・イング著 ; 井上里訳、早川書房, 2025

『キルケ』マデリン・ミラー著 ; 野沢佳織訳  作品社, 2021

(同じ著者の『アキレウスの歌』川副智子訳、早川書房 2014もあります)

『アメリカーナ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著 ; くぼたのぞみ訳  河出書房新社 2019

『暗闇のなかの希望 : 語られない歴史、手つかずの可能性』レベッカ・ソルニット著 ; 井上利男, 東辻賢治郎訳  筑摩書房 2023.4 増補改訂版 ちくま文庫

『暗闇のなかの希望』は、レベッカ・ソルニットが書いた小さな本で、この世界で良いことを成し遂げたいと願い、政治をより良い方向へ変えられるという希望を必要としている人にとって、欠かせない一冊です。文章は詩のように心に入り込み、私たちがどのような視点をとり、どのように物語(そして歴史)を語るかによって、大きな希望が生まれることが見えてきます。

(同じ著者の『定本災害ユートピア : なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』レベッカ・ソルニット著 ; 高月園子訳  亜紀書房 2020

 他にも、似たテーマの本に『説教したがる男たち』ハーン小路恭子訳、左右社 2018

『ウォークス : 歩くことの精神史』東辻賢治郎訳、左右社, 2017

『それを、真 (まこと) の名で呼ぶならば : 危機の時代と言葉の力』渡辺由佳里訳  岩波書店 2020もあります)

『ブルー・セーター : 引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語』ジャクリーン・ノヴォグラッツ著 ; 北村陽子訳  英治出版, 2010

(同じ著者の『世界はあなたを待っている : 社会に持続的な変化を生み出すモラル・リーダシップ13の原則』北村陽子訳  英治出版 2023

 

出典・https://www.edutopia.org/blog/teachers-summer-reading-cultivate-your-emotional-resilience-elena-aguilar

https://www.edutopia.org/article/books-foster-empathy-and-hope

2026年7月4日土曜日

EQ=最も見過ごされている教師とリーダー(管理職)の力

リーダーは、教師を支え、学校文化をより良くするために必要な感情面の知性(EQ)を育てることを優先することができます。

 自分を学校のリーダーと捉えていない方は、自分が教える授業をイメージしながらお読みください。すべての教師は、生徒たちとの関係においてはリーダーですから。

 

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学校のリーダーの一人として、私はいつも学校のリーダーシップチーム(校長・副校長と、教務主任・学年主任・教科主任等で構成されるメンバー)と、学校のデータ、教え方の改善、そして教員研修について話し合っています。これらの対話は、生徒の学力を高めるために欠かせないものですが、しばしば重要な点が抜け落ちています。リーダーシップチームは、教職員の感情面の知性(EQ)について、ほとんど話し合うことがないのです。

過去5年間、数学の授業改善のリーダーとして働く中で、私は次第に、リーダーとして成功するために重要なのは技術的なスキルよりも、むしろ感情面での気づきであると考えるようになりました。どれほど有効なカリキュラムがあり、どれほど詳細な年間計画があり、どれほど確かな評価・管理の仕組みがあったとしても、学校のリーダーに自己理解や共感が欠けていれば、教師を支えることはできません。そして教師が支えられていると感じられなければ、教職にとどまり続けることが難しくなるのです。

 数年前、私はダニエル・ゴールマンの感情面の知性(EQ)に関する本★を読みました。そのおかげで、学校で私が目にしていた多くの出来事に言葉を与えることができました。すなわち、教師たちが、支えられていない、見てもらえていない、そしてリーダーが高い期待を保ちながら支える方法を知らないために感情的に疲れ果ててしまい、職場を離れていくという現実です。

 彼の著作の中で、感情面の知性(EQ)は五つの側面に分けられています。自己理解、自己調整、動機づけ、共感、そして社会的スキル★★です。五つすべてが重要ですが、私はその中でも、自分がリーダーとして成長するうえで最も大きな影響を受けた三つに焦点を当てたいと思います。

 

自己理解の重要性

最初の側面である自己理解は、私のリーダーとしてのあり方を最も大きく変えたものです。リーダーとしての一年目、私は同時に父親としても新しい生活を始めていました。眠れない夜、さまざまな不安、そしてまったく新しい役割を学ぶ重圧を抱えながら過ごしていました。学校に入るとき、いら立っていたり、気が散っていたり、反応的になっていたりする日がありましたが、自分ではそれに気づいていませんでした。やがて気づいたのは、私が意図したかどうかに関わらず、部署のメンバーは私の気分に反応していたということです。

私にとって、自己振り返りは、会議や授業、コーチングの会話に入る前に、自分の感情の状態を意図的に整えるための鍵となりました。私はより落ち着き、よりその場に集中し、反応するのではなく聞くことに注意を向けられるようになりました。その変化は部署全体に広がっていきました。

こうしたことを踏まえると、自己理解がまず最初に必要だと認識しました。自分自身の感情の状態を振り返って整えていなければ、困っている教師に共感をもって接することはできませんし、自分の存在が場を落ち着かせているのか、逆に緊張を高めているのかを理解していなければ、疲れ切った教職員を支えることもできません。

自分自身の自己理解を高めることを優先し始めるとき、朝、学校に向かう際にどのような感情をもち込んでいるのか、それが教職員にどのような影響を与えているのかを振り返ることが役に立ちます。私は振り返るだけでなく、生徒や教師と関わる前に気持ちを整えるための時間を朝に確保することが有効だと感じました。

これは続けていくべき取り組みであり、誰にとっても簡単にできるものではありませんが、取り組む価値があります。私が見てきた最も効果的なリーダーは、常に完璧な答えをもっている人ではありません。自分自身をよく理解しているからこそ、自分自身が障害にならないようにできる人なのです。

 

共感することは、期待を下げることではない

私は幸運にも若い頃から共感を育むことができたリーダーですが、同僚の中には共感することは期待を下げることと同じだと見なす人がいることに気づきました。実際には、最も力のあるリーダーは、高い期待と共感の両方を同時に保つことができます。

教師は振り返りを求めていますし、多くの教師は本気で成長したいと願っています。ただし、成長の過程で、恥をかかされたり、軽んじられたり、支えられていないと感じることは望んでいません。私が学んだのは、教師が教え方の指導を十分に受け入れるためには、それを行う相手に対して心理的に安心できることが必要だということです。

その安心感は、話を聞き、負担のかかっている点を理解し、教師をまず人間として見てから職員として見ることができるリーダーから生まれます。ときには、共感とは単にタイミングを見極めることを意味します。教師が直接的な指導を必要とする場面もあれば、教え方の話に入る前に5分だけ話を聞いてほしい場面もあります。その違いを理解できるリーダーは、より強い関係を築き、より強い部署をつくります。

 

社会的スキルは学校文化に影響する

感情面の知性(EQ)を備えた一人のリーダーが、部署の文化をまったく別のものに変えることがあります。私は、強い社会的スキルを示す小さなやり取りが、時間をかけて文化を形づくっていく様子を実際に見てきました。リーダーは、難しい授業のあとに短い声かけをしたり、成長を認めるメッセージを伝えたり、新しい教え方に挑戦をした教師を研修の場で公に称えたりすることで、教師が教室で直面している困難を理解し、その努力を誇りに思っていることを示すことができます。

そうした瞬間は取るに足らないものに見えるかもしれませんが、積み重なることで、人々が大切にされていると感じられる文化をつくります。これは、教師の疲労が高まり続けている今日の教育において、特に重要です。学校のリーダーとして、教師がどれほど努力しているかを知るだけでなく、それを積極的に認め、困難な時には支え、成功をチーム全体で祝うことが大切です。

強いリーダーシップには感情面での気づきが必要です。学校は人間関係の上に成り立っているからです。データやカリキュラム、教え方が重要でないということではありませんが、教師が感情的に疲れ果てている場合、それらだけでは長期的な成功を保証できません。

教師が学校にとどまり、生徒が成長する学校は、多くの場合、リーダーシップが単に仕組みを管理することではないと理解している人によって導かれています。リーダーシップとは、人間関係を支え、誰かに支えられている、見てもらえている、そして安心して成長できると感じられるようにすることなのです。

 

出典・https://www.edutopia.org/article/importance-emotional-intelligence-school-leader

(数学と理科教育に10年以上携わる中で、執筆者のマシュー・スティーン先生は教師として、そしてニュージャージー州カムデンのチャーター・スクールで教え方の改善を担うリーダーとして働いてきた。現在のMath Instructional Supervisor=数学指導監(日本の数学科の教科主任よりも多くの権限をもつ)になる前は、58年生の教師リーダーとして、カリキュラムづくりや問題解決の取り組みに力を入れていた。)

 

★『EQ こころの知能指数』を皮切りに、彼のEQ/感情知性に関する本は多数翻訳されています。ぜひ、読んでみてください。ビジネス関係者は結構読んでいますが、教育関係者のEQ/感情知性への関心はあまり高くない状態が続いています。

★★EQの5つの要素を、SELの5つの要素と対比すると面白いです。

self‑awareness(自己理解) ↔ self‑awareness(自己理解)で一致していますが、残りの4つは若干のズレがあります。以下、左側がEQで、右側がSELです。

self‑regulation(自己調整) ↔ self‑management(自己管理)

motivation(動機づけ)    ↔ responsible decision‑making(責任ある意思決定)

empathy(共感)      ↔ social awareness(他者理解)

social skills(社会的スキル)↔ relationship skills(人間関係のスキル)

 

2026年6月20日土曜日

心を乱すきっかけに振り回されず、レジリエンス/しなやかさを育てる

 教師は毎日、本当にさまざまな課題に直面します。ときには疲れたり、苛立ったりすることもありますが、私たちはその課題への“反応の仕方”を選ぶことができます。たとえば、指示に従わない生徒への対応、授業開始5分前に怒った保護者が話を求めてくる場面、あるいは教室のうまくいっていない点ばかりを指摘する管理職への向き合い方などです。自分が他者にどう反応しているかを見つめ直すことで、私たちは感情的なレジリエンス(しなやかさ)を高めることができます。

 

自分のトリガーに名前をつける

私たちには誰しも、心をざわつかせたり、感情を揺さぶったりする相手がいます。そうした「トリガー(引き金)」が引かれると、私たちは苛立ち、怒り、悲しみ、恥ずかしさなど、さまざまな不快な感情を抱くことがあります。
 そしてその感情に押されて、議論や口論に踏み込んでしまったり、後で「言わなければよかった」と思うことを口にしてしまったり、恐怖で固まってしまったり、場から逃げるように立ち去ってしまうこともあります。

少し時間をとって、自分の「トリガーを引く人(心をざわつかせる人)」は誰かを考えてみましょう。たとえば、あなたの判断にしつこく異議を唱えてくる保護者かもしれません。あるいは、学校にも来ず電話にも出ないのに、校長にはあなたへの不満を伝える保護者かもしれません。もしかすると、目をくるっと上に向けてみせる10代の女子生徒や、何でも知っているような態度をとる男子生徒に心をざわつかせられるかもしれません。生徒たちのある集団について、ぞんざいな発言をする同僚や、現場の声を聞かないトップダウン型の管理職が自分のトリガーの引き役になっているかもしれません。

振り返ってみると、「自分にはトリガーがたくさんある」と感じるかもしれません。それでも大丈夫です。誰にでもトリガーはありますから。
 それらを見えないところに押し込めたままにせず、「これが自分のトリガーだ」と意識化して名前をつけていくことが、あなたに与える悪影響を減らしていくための、最初の一歩になります。

 

自分のトリガー(引き金)を理解する

 次に、自分のトリガーについて「好奇心をもって」探ってみましょう。自分のトリガーをシャーレ(培養皿)にそっと移して、じっくり観察するようなイメージをもつとよいかもしれません。それを人生のどこまで遡れるかたどってみて、どこに起源があるのか探ってみましょう。

トリガーの中には、幼少期や思春期の経験に根をもつものもあります。たとえば私は、中学生の頃に仲間外れにされた経験があるため、今でも「仲間内で誰かを排除するタイプの女子中学生」を見るとトリガーが引かれてしまいます。

また、トリガーの一部は、私たちの価値観信念に由来します。たとえば、「すべての子どもは学べる」という強い信念をもっているとします。そんな中で、ある同僚が特定の子どもたちを見下すように「まあ、あの子たちはいつもこうだからね」と言ったとしたら、私たちは強く反応してしまうかもしれません。あるいは、「努力すれば学校は変えられる」という信念をもっている場合、毎日3時半にさっと帰る同僚を見ると、「本気で取り組んでいるのだろうか」と感じ、心がざわつくこともあるでしょう。

 

自分の反応を認める

トリガーの源に気づいたら、次はトリガーが引かれたときに自分がどんな行動をとっているかに目を向けてみましょう。あなたは「戦う(反論・対立する)」「逃げる(距離を置く・場を離れる)」「固まる(言葉が出ない・動けなくなる)」のどれに近い反応をしているでしょうか?

そして、その反応が周囲との関係にどんな影響を与えているかも考えてみてください。同僚、生徒、管理職――トリガーに押された状態で反応すると、関係性はどう変わるでしょう。

さらに、その反応によって本当に望んでいる結果が得られているかを自分に問いかけてみましょう。たとえば、「中学2年生の女子同士の関わり方を変えたい」「同僚の子ども観を変えたい」といった願いがあるとして、今の反応の仕方はその実現に近づけているでしょうか?

もし「うまくいっていない」と感じるなら、この先を読み進めてください。

 

新しい行動を探る

自分のトリガーを理解しようとすると、つらい記憶が浮かび上がってくることもあります。しかし、その出どころを特定できることは、同時に大きな力にもなります。気づきがあることで、気づきがなかったときとは違う行動を選べるようになるからです。

教師として、私が自分の中学生時代の経験と、教えている女子生徒たちに対して抱いていた感情がつながったとき、「私は今、11歳の自分として反応しているのではなく、教師として応じる必要がある」と気づきました。

その気づきによって、私の行動は「教育者としてこうありたい」という自分のビジョンに、より深く一致するようになりました。そして、生徒たちと「クラスのコミュニティーをどう築くか」「どうすれば誰も排除しない関係をつくれるか」といった対話ができるようになったのです。

 新しい行動を選べるようになるためには、まず、トリガーが引かれたその瞬間に介入する方法が必要です。そうしないと、いつもの非生産的な反応パターンに流されてしまうからです。

自分のトリガーについて探究しておくと、この「瞬間」に気づきやすくなります。心の中で、こんな声が聞こえるかもしれません。「あ、これが私のトリガーだ! 先週振り返ったよね――授業開始5分前に教室に押し入って話を求めてくる保護者に、私は強く反応してしまうって。」

トリガーに早く気づけるようになり、その根っこも理解していると、どう反応するかを選べるゆとりが生まれます。その際に試せることには、次のようなものがあります。

・深呼吸を3回する。

・セルフトークを使う:「こんにちは、トリガーさん」

・自分が道の分岐点に立っているところを思い描き、それぞれの道に“選べる反応”が並んでいる様子をイメージする。そして、「どの反応を選ぶかは自分で決められる」と思い出す。

 

 トリガーに気づき、反応する前に一拍置くには、練習が必要です。多くの人にとって、それはすぐにできるようになるものではありません。しかし、トリガーに気づき、反応の仕方を育てていくことで、これまでとは違う行動を選べるようになります。そうすることで、あなたが本当に達成したい目標に近づきやすくなり、そして、気持ちも少し軽くなるかもしれません。

 

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 これまでとは違った選択ができるようになることが、レジリエンス(しなやかさ)を高めるということでしょうか?

 

出典・https://www.edutopia.org/blog/boost-your-resilience-managing-emotional-triggers-elena-aguilar

この投稿は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんによって2015年の11月2日に書かれたものです。

2026年6月6日土曜日

どんな瞬間にも私たちは選択している

呼吸が導く落ち着き――教師のマインドフルネス実践

 ときどき、教育者としての私たちの仕事にとってあまりにも貴重で、「これはぜひ皆さんと共有しなければ」と思わせるようなリソース(参考になる資料や方法)に出会うことがあります。Meena Srinivasan(ミーナ・スリニヴァーサン)の新刊『Teach, Breathe, Learn: Mindfulness In and Out of the Classroom(教え、呼吸し、学ぶ教室の内と外で育てるマインドフルネス)』は、まさにそのような一冊です。

この本は、私が全国のあちこちで耳にする切実な願いに応えています――喜びを土台にし、思いやりから生まれ、今よりももっと人間的で、もっとゆっくりとした働き方・教え方を求める声です。ミーナがこの読みやすい本の中で誠実かつ惜しみなく提供しているのは、その願いに向かうための「道しるべ」です。さまざまなマインドフルネスの実践を紹介し、それらを私たちの日常や教室にどのように取り入れられるかについて、豊富な参考になる資料や方法を示しています。学校でマインドフルネスを取り入れたいと考えている人なら、必ず読むべき一冊です。

 レッスン(指導)案がとても役に立つことや、生徒たちの言葉がこのテーマに彼らの視点をもたらしてくれることも確かですが、私が最も心を動かされたのは、この本に織り込まれている教師としてのミーナの物語です。それこそが、この本を特別なものにしています。

彼女が最初のほうで語るエピソード――自分の気分が生徒に影響していると気づいた瞬間――を読んだとき、私は一気に引き込まれました。共感できたのです。彼女に何が起きたのか、どうやって「手一杯で圧倒されている教師」というあまりにもよくある状態から抜け出し、別のあり方へと変わっていったのかを知りたくなりました。彼女がどんな物語を歩み、どんな方法を使ってきたのかを知りたかったのです。それを知るには、ぜひ本を読んでみてください。

その前に、私が行ったインタビューを通して、ミーナがどんな人なのか、そしてこの本がどんな内容なのかを少しだけ味わっていただきたいと思います。これが、あなたが『Teach, Breathe, Learn』を手に取るきっかけになれば嬉しいです。

 

エリーナ: この本は誰のために書いたのですか? 誰に読んでもらいたいですか?
ミーナ: この本は、私の心からの贈り物です。マインドフルネスを自分の生活や若い人たちの生活に取り入れたいと願うすべての人に、ツールやリソース(方法や資料)、そしてインスピレーションを届けられたらと思っています。本書には、心のあり方を変えるマインドフルネスの実践の「効果」と「取り組みやすさ」を示すエピソードや具体的な方法の紹介がたくさん詰まっています。教師としての視点から書いてはいますが、内容は誰にとっても役立つものです。特に、教師、保護者を中心に子どもに関わる人、そして教育現場で働くすべての人に読んでほしいと思っています。

 

エリーナ:マインドフルネスは、教師や管理職にどのように役立つと思いますか?

ミーナ:私たちが「やさしい気づき」とともに「今この瞬間に戻る」練習を重ねれば重ねるほど、実際に「今ここ」にいることが容易になります。そしてこれは、教師にとって欠かせない資質です。
 おそらく外科医を除けば、教師ほど一日の中で多くの判断を下す職業はありません。教室で求められるのは、広い視野と集中した注意を同時に保つことです。

マインドフルネスは、まず自分自身と深くつながることを可能にし、その結果として他者とも本物のつながりを築けるようにしてくれます。校長や学校リーダーという役割は、とても孤独になりがちです。だからこそ、学校をうまく導くために必要な強い人間関係を築くうえで、マインドフルネスの実践は大きな助けになります。私の本で紹介しているマインドフルネスの基盤には、「相互依存」という考え方があります。長年、教師や同僚と仕事をする中で、この相互依存を意識することがとても役に立つと感じてきました。学校という場は、多くの要素がそれぞれうまく機能して初めて成り立つものです。どこか一つがうまく働かなくなると、学校全体に影響が及びます。学校の中では、立場の違う人たちの間で摩擦が生まれることもあります。しかし、管理職、保護者、スタッフ、生徒――そのどれが欠けても学校は成り立たないのだと理解できれば、私たちはもっと感謝と理解をもって、コミュニティーの中の他者と関わることができるようになります。

 

エリーナ:マインドフルネスがあなたの私生活や仕事にどんな役割を果たしてきたか、何かエピソードを教えてください。

ミーナ:マインドフルネスは、反射的に反応するのではなく、状況に応じて自ら選んだ関わり方ができるようにしてくれます。私が「マインドフルネスって本当に効くんだ!」と強く実感した最初の教室での出来事は、とても印象的でした。私は当時、インドのニューデリーにあるインターナショナルスクールの中等部で、学習支援クラスを担当していました。クラスには世界中から来た生徒がいて、それぞれに異なる特別なニーズがあり、私はその全員を支援する役割を担っていました。ある日、クラスにもっと支援を入れるためにアシスタントを採用することを伝えたとき、アメリカ出身のある男の子が突然こう叫んだのです。「インド人じゃなきゃいいけど!」その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。私はその学校で数少ない有色人種の教師であり、インド系の外国人教師は私だけでした。彼の言葉は深く突き刺さり、怒りと悲しみが一気にこみ上げてきました。

 マインドフルネスを実践する前の私なら、彼の発言は受け入れられないと強く言い返していたでしょう。でも今の私は、マインドフルネスのおかげで感情の自己調整ができるようになっていました。胸の中に湧き上がる感情に気づき、いったん立ち止まり、深呼吸をしました。そして生徒を叱りつけるのではなく、丁寧に「どうしてインド人のアシスタントが嫌なの?」と尋ねたのです。

彼は、インドのアクセントがとても聞き取りにくく、それが学習を難しくしているのだと説明しました。その言葉を聞きながら、彼に私のインド系の背景を傷つける意図などまったくなかったことに気づきました。私の目の前にいたのは、学ぶことに苦労している一人の少年であり、自分の意思でインドに来たわけではなく、父親の仕事の都合で連れてこられた少年でした。彼はただ、フラストレーションを抱え、自分の気持ちを理解してほしいと願っていたのです。その瞬間から、私は生徒を本当に理解するために、必ず対話をすることを自分の方針にしました。生徒を理解して初めて、私は彼らを本当に教えることができるのだと気づいたのです。

 

エリーナ:学校では、マインドフルネスを「集中力を高めて学力を上げるための方法」として語られることがあります。テスト準備のために「マインドフルネス」を使う教師もいると聞きます。こうしたアプローチについてどう思いますか? あなたの本で提案している内容と一致しますか?

ミーナ:確かに、マインドフルネスは生徒が集中したり自己調整したりするのを助けることで、学びやすい環境をつくることができます。しかし、私が若い人たちにマインドフルネスを伝えるときの目的は、決してそこではありませんでした。マインドフルネスが力をもつのは、どんな瞬間にも私たちには選択肢があるということを気づかせてくれるからです。よりよい行動を選ぶことができ、そしてそのための具体的な方法がある――それによって、私たちの生活にもっと平和や愛、喜びをもたらすことができるのです。

 

エリーナ:読者があなたの本を読んで、何か一つ行動を起こすとしたら、どんなことを望みますか?

ミーナ:私たちが他者に提供できる最も価値あるものは、私たち自身の幸せです。読者の皆さんには、本を読み終えたあと、自分自身の幸せを育て、深めていくために、個人的なマインドフルネスの実践を始めてほしいと願っています。大切なのは、何を教えるかだけではなく、どのように教えるか、そしてその背後にある愛や喜びです。それこそが、生徒に最も強く残る印象になるのです。

生徒にマインドフルネスを伝える前に、まず私たち自身が、実践を通してマインドフルネスを「体験的に理解する」必要があります。自分の実践を育て始めると、それが教室でのふるまいや、他者との関係にどのように影響するかが見えてきます。マインドフルネスは、すでに私たちの内側にあるレジリエンス(しなやかさ)にアクセスする方法を提供してくれます。マインドフルであるために、1日の時間を増やす必要はありません。『Teach, Breathe, Learn』は、日常生活にもっと気づきと愛、そしてレジリエンスをもたらすための実践的なガイドなのです。

 

エリーナ:マインドフルネスに興味があり、もっと学びたいと思っている人がいたら、本を読む以外に何を勧めますか? どこから始めればよいでしょうか?

ミーナ:私が強くおすすめしたいのは、マインドフルネスのリトリート(合宿形式の研修プログラム)に参加することです。世界中でさまざまなプログラムが提供されています。また、Mindfulness in Education Network(教育におけるマインドフルネス・ネットワーク)のメーリングリストに連絡し、希望する期間や場所などを伝えるとよいでしょう。きっと、想像以上に多くの選択肢があることに驚くはずです。

この投稿について、あなたの考えや疑問・質問や提案をぜひコメント欄で共有してください。

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 日本でもマインドフルネス関連の本の売れ行きは結構なものです(社会的なニーズはあるということだと思います!)。しかし、教育関係者対象のマインドフルネスの本はまだ知りません。すでに出ていたら、ぜひ教えてください。お願いします。(紹介者も10年ほど前にこの本を読んだ時、エリーナさんと同じ気持ちをもったので、訳させてくれる出版社を教えてくれたら、もっとうれしいです!)

出典・https://www.edutopia.org/blog/just-breathe-when-teachers-practice-mindfulness-elena-aguilar

 この投稿は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんによって2014年の9月25日に書かれたものです。ちなみに、彼女は、夏休みや冬休みの前に教育関係者が読める本を何冊か一緒に紹介する以外、自分の本も含めて、本の紹介をすることがほとんどない人です! 今回は、そういう人が紹介したかった本ということになります。