2023年8月26日土曜日

『学びは、すべてSEL』ナンシー・フレイほか著(新評論、2023年)の「共感」の位置づけ ~共感8

 英語圏で最も広く受け入れられているCASELによって提示されたSEL5本の柱については、新たに追加する書き込みの●SEL5本の柱で見られます。それに対して、『学びは、すべてSEL』の著者たちのSELの捉え方は、http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlの図に表されています。若干のズレがあります。(以下の表をご覧ください)

   『学びは、すべてSEL』の5本の柱    CASEL5本の柱    

   アイデンティティーとエイジェンシー  自己認識

   感情調整 + 認知調整        自己管理能力

   社会的スキル             社会認識

                      対人関係

   公共心                責任ある意思決定

 共感は、左側では「社会的スキル」のなかに、CASELでは「社会認識」のなかに含まれています。

 『学びは、すべてSEL』の第5章の最初の3ページに、著者たちが「社会的スキル」に含めている7つの項目と、「共感」(プラス関係の構築とコミュニケーションおよび向社会的スキルや人間関係の修復)にまつわるとてもいい事例が紹介されているので、そのコピーをお読みください。



 思春期にある生徒の個人的な問題に教師が介入するのは難しく、アニッサがガルシア先生に対して心を開かなかった可能性もありました。しかし、いくつかのことがガルシア先生(とアニッサ)に有利に働きました。あなたは、コピーを読んでそれをいくつ挙げられますか?

学校での生活や人生において、なくてはならない前向きな社会的スキルや人間関係は伝染していきます。一方、ネガティブなものも同じく伝染してしまいます。良好ではない人間関係はすぐにほかの人に広がり、学習意欲を低下させます。これが、個人レベルと教室レベルで社会的スキルと前向きな人間関係(これまで見てきたように、その中核に「共感」が位置づけられます!)を教えなければならない理由です。

そして、ここで見逃してはならない重要な考え方は、「人間関係は、教師であるあなたからはじまる」ということです。教師であるあなたは、生徒同士の人間関係を発展させる仲介役なのです。(175ページ)

 『学びは、すべてSEL』のなかで、生徒の共感を育むことにつながる教師が行える具体的な方法として、以下のようなものがありますので、試してみてください(211~216ページの活動名のみ掲載)。

・感情にラベルを付ける

・生徒に自分の感情について説明するように求める

・共感的な行動を称賛する

・非言語的な手がかりを教える

・怒りで生徒をコントロールしない

・共感を必要とする仕事を生徒に与える

・絵本や児童文学を使う

・「私」メッセージを教える

 

 以上のほかに、「コミュニケーション」で紹介されている

アクティブ・リスニング(よく聴く、深める質問をする、説明を求める、言い換える、感情に注意する、要約する)

3種類のコミュニケーション・サークル(順番に発言する、順番に発言しない、金魚鉢)

も、「共感」する力を練習するための方法だと思います。

2023年8月19日土曜日

SELにつながる新学期おすすめの活動 ーバラと棘

長い夏休みを終えた子どもたちは、いろいろな気持ちを抱えながら教室へと戻ってきます。すべての子どもたちが一個人として尊重され、安心して学べる場をつくる一助として、「バラと棘」という活動を紹介します。


「バラ」は、よかったこと、「棘」は、悪かったこと、を示しています。この場合、呼び方はよかったこと・悪かったこと、プラス・マイナス、山と谷や、子どもたちにわかりやすい例えを使うのもよいと思います。


この「バラと棘」では、単純に子どもたち一人ひとりの夏休み中の「バラ」と「棘」を聞くものです。

子どもたちは、自分でどんなことを取り上げるか決めます。単に「天気がよかった」とか、「疲れた」と言う子どももいれば、より個人的なこと、「宿題が全部終えることができた」「犬が元気がなくて心配」といったことをシェアする場にもなります。


一人ひとりの「バラと棘」を聞くことで、子どもたちは、自分たちが気にかけられているのだと感じて新学期を迎えることができます。シェアしたくない子どもはスキップしてもよいですが、一人ひとりの声を聴く機会を設けることが大切です。

よかったこと、悪かったことを聞くことで、周りの人は、発言者の心の状態に気づくことにもつながりますし、教師は、子どもたちの心が、学びにつながる落ちついた状態であるかを確認でき、新学期の個人の状態を慮りながら新学期に接することができます。

そして、この活動を通じてクラス全体では、自分との共通性や相違を発見し、会話のきっかけになるばかりでなく、ほかの人に耳を傾けたり、順番に話したりするグループ活動の規範も確認できます。


進め方の留意点

  • 一人ひとりの発言を尊重する。「ありがとう、○○さん」と言ってから次の人に移る。

  • 活動の後にバラと棘がそれぞれどのように学びに影響するか、考える時間をとる。大きな棘をもったクラスメイトをどうサポートするか、生徒にブレインストーミングさせる。

  • 教師も自分のバラと棘をシェアし、脆弱性を見せる。「前学期のレポートのフィードバックが間に合わなくて焦っている」など。

  • 時間に制約がある場合は、それぞれ3語以内で発言する、というように、一人ひとりの時間を短縮したり、小さなグループになって行ったりする。

  • 気がかりなことをシェアする子どもがいた場合に備えて、教師・クラスメイトとしてどのように対応するのか予め考えておく。教師が個別に対応することが多いが、場合によっては、学級全体の話し合いや、グループでのサポートなども考慮する。


この活動は、週の初めや一日の初めの活動の子どもたちの状態を確認するためにも取り入れることもできます。継続的に行っていくことで、自分と他者の感情に向き合う機会となります。また、この活動に慣れてきたら、「バラのつぼみ」ー最近楽しみにしていること、を加えたり、子どもたちに別のお題を考えてもらうのもよいでしょう。


子どもたちが、自分たちが気にかけられ、尊重されている、自分たちの声が届くと感じられる機会を設け、コミュニティをつくり、深めていくための活動としてぜひ実践してみてください。


参照

A Simple but Powerful Class Opening Activity | Edutopia

https://www.edutopia.org/article/simple-powerful-class-opening-activity/


2023年8月12日土曜日

生徒と教師がこころを通わせ、関係づくりを大切にする ~共感7

https://digitalcast.jp/v/27588/の無料動画(日本語字幕付き)を、ぜひ見てください。

教科内容を教えることは、もちろん大事です! でも、教師が生徒のことを知らないで教えていて、どれだけ生徒に伝わるのか★、とシドニー・ジェンセン先生は視聴者に投げかけます。

教師と生徒のつながりだけでなく。生徒と生徒。教師と他のスタッフたちのつながり(鎖)の大切さについても。

この動画のなかで、ジェンセン先生は、生徒のこころを大切にした自分の実践だけでなく、他の先生や学校が取り組んでいる生徒や教師の心と関係づくりの実践も紹介してくれています。

このテーマに関しては、『「学校」をハックする』と『不安な心に寄り添う』のなかにも参考になる事例が紹介されています。また、『教師の生き方、今こそチェック!』も、このテーマに少し違う角度からせまっている本です。

 

★この動画の3分15秒~4:09秒では、この指導法の転換の必要性に言及されています。https://wwletter.blogspot.com/2023/01/blog-post_13.html およびhttps://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.html で触れたことです。教科を教える際の指導法と「こころと関係」は密接につながっているので、両者は一緒にアプローチするのが効果的です。バラバラにではなく!

 なお、この動画はとても親切で、ジェンセン先生が話したことは、動画の画面の下のscrip=台本で読めます(動画を見ないでも!)。しかも、英/日両方、英語だけ、日本語だけの三択で。

2023年8月5日土曜日

教室でできる51のマインドフルネスの活動

前回に引き続きの「51」シリーズです。

アメリカ人は51が好きなのでしょうか? そういえば、イチローさんの背番号も、 51番でした。

https://www.waterford.org/resources/mindfulnes-activities-for-kids/

 「学校では、学力向上とSELのどちらを優先したらいいか?」という質問をよくされますが、答えは「両方」です。どちらが欠けても、未来の成功は約束されないからです。後者のSELが欠けては、自分の感情をコントロールしたり、他者といい関係を築いたりすることができません。そこにマインドフルネスが入る余地があるのです。

 マインドフルネスは、過去や未来に焦点を合わせるのではなく、「いま、ここ」に合わせます。自分の内なる経験と身の回りで起こっていることに気づき、受け入れ、そして好奇心を向けることです。


 CASELは、5本の柱のうちの自己認識と自己管理の二つに、マインドフルネスを関連づけています(というか、その重要性を認め、活動をすることを推奨しています)。マインドフルネスを通して、これら二つの領域のスキルを磨くことは、自分の考え、感情、行動を認識するだけでなく、それらに対して肯定的に反応できるようになるからです。

 そして、何らかの問題を抱えた子どもにとっては、マインドフルネスの活動が特に有益であることが、これまでの実践と研究の両方から明らかになっています(情報源は、Leland, M. Mindfulness and Student Success. Journal of Adult Education, 2015, 44(1), pp. 19-24. と、Benn, R., Akiva, T., Arel, S., and Roeser, R. W. Mindfulness training effects for parents and educators of children with special needs. Developmental Psychology, 2012, 48(5), pp. 1476-87.の2つ)。

 もちろん、一般の子どもたちへの効果も大きいものがあります。ストレスを和らげ、いじめの発生率を低下させ、全員にSELのスキルが身につくのを助けます。

 このなかで紹介している51の方法で、ピンとくるものから教室で試してみてください。

 たとえば、6番目の「より意識した(集中した観察)という活動は、理科(や生活科や社会科)の授業で使える事例です。クリックすると、さらに詳しい情報(子どもが観察した記録も含めて)が得られます。

 16番目は「顔の表情が物語るストーリー」は、さまざまな感情を認識し、理解するための活動です。


 19番目は、自分の体験、考え、思い等を「ジャーナルに書く」活動です。

 22番目は、「四角い箱」をイメージしながらの呼吸をする活動です。

 各項目のタイトルをクリックすると、詳しいやり方が表示されます。