2024年1月27日土曜日

SELに関連するワークショップの案内

先週に引き続き、『SELを成功に導くための五つの要素』https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/08/blog-post_20.htmlが企画し、著者の一人のマーク・ワイルディングさんも講師に招いて行われるSEL関連のワークショップが2月15~18日に開催されます。

https://www.kokuchpro.com/event/koka2023/

なお、ワークショップおよび本は、SELのプログラムではありません。

 本の内容については、次の紹介文を参照ください。

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最近、巷では「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。一人ひとりが自分らしく居られ、安心して率直に自分の考えや意見が出せ、それを周囲の仲間に受け止めてもらえる。そんな関係性でできたコミュニティーが、心理的安全性の確立されたコミュニティーと言えるのでしょう。

教育界でも心理的安全性と学習効果の相関が注目され、教師の在り方や教育実践の手法について、従来の教育シーンをガラリと変える転換期を迎えている、と教育現場に立つ一員として感じています。

とはいえ、情熱をもって「教育」という仕事に向き合っている教師ほど、この教育界の新しい動きの前に、その重圧を受け、立ち竦んでしまっているのではないでしょうか。

本書は、そんな教師をエンパワーする二つの魅力をもった本です。一つ目は私たち教師自身の原書タイトルの「エンゲージ・ティーチング」の実践が、同僚たちとの良好でサポーティヴな関係性を築き、健全で安心安全な職員室の創造につながるということ。毎朝、ポジティヴな気持ちで職場に向かう私たちの姿こそ、もっとも生徒に必要なことなのかもしれません。

二つ目は、教室の中で、真に意義のある学びを届け、生徒たちが自ら豊かな学びの旅へと向かっていけるような、具体的で即効性のある教育実践が豊富に紹介されていること。原書タイトルにも含まれる「エンゲージメント」には「夢中で取り組む」という意味の他に「結びつける・統合する」というニュアンスも含みます。SEL(感情と社会性の学習)と教科学習を、心と知性を、教える内容と背景を統合し、生きるうえで大切な感覚を養う教育的アプローチが「エンゲージ・ティーチング」です。

 

生徒が目的に満ちた意義深い人生を送れるようにと願い、そのために良い影響を与えられる教師でありたい、と日々腐心されている方にぜひ手にとっていただきたい一冊です。生徒たちが自らの個性やエージェンシー(主体性)を発揮し、伸びやかにそれぞれの学びに向かっていける、そんな教室が日本の中にたくさん増えることを願って。

                    佐野和之(かえつ有明中・高等学校副校長)

 

2024年1月20日土曜日

SELのプログラムを体験できる機会

 以下、読者の田中先生から情報が送られてきたので紹介します。

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皆さん、こんにちは。

SEE Learning Japanのチームの一人で、東京都のかえつ有明中・高等学校で教員をしている田中理紗と申します。

かえつ有明中・高等学校では長く探究学習やこれからの社会で身に着けるスキルやマインドについて先生たちと学んでまいりました。

その中で、異なる価値観や文化・風習が混ざり合う世界において、私たちがしなやかに、ウェルビーイングに生きるため、SEL(社会性と情動の学習)をプログラムの大事な要素として取り入れるようになりました。

私がはじめてSELと出会ったのは、MITで実施されている"Introduction to Compassionate Systems Framework in Schools"というワークショップに参加したことがきっかけでした。

https://systemsawareness.org/introduction-to-compassionate-systems-framework-in-schools/

こちらのワークショップは「学習する組織」「学習する学校」の著者であるピーター・センゲ先生が主導し、これからの教育で必要な知性として、システム思考の教育とSELの教育、そしてそれらが相互補完的であることを体験的に学ぶことができました。

そのことをきっかけに、日本で引き続きこれらの学びが広がっていくように先生向けの学びの場の運営をお手伝いしています。

https://peatix.com/group/7220938

ピーター・センゲ先生がこちらのワークショップを開催するきっかけとなったのは、日本ではEQで有名なダニエル・ゴールマンさんとの対談がきっかけだったようです。こちらの対談の内容はTriple Focusという書籍にまとめられ、日本では「21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点 」という書籍になり、昨年出版されました。https://amzn.asia/d/9QXBz8Y

ピーター・センゲ先生がCompassionate Systems Framework in Schoolsの形で、世界にこの新しい教育の形を提案されている一方で、ダニエル・ゴールマンさんの協力で、この新しい教育の提案はエモリ大学でSEE Learningという形になりました。このプログラムは、ダニエル・ゴールマンのEQに関する研究と、ダライ・ラマの平和、理解、思いやり、そしてすべての人類が地球というひとつの家を共有しているという考え方がとても大切にされています。私自身はピーター・センゲ先生のCompassionate Systems Frameworkについて引き続き学びながらも、SEE Learningのファシリテーターのプログラムを現在受講しています。

さて、ここからが本題なのですが、実は来たる3月になんとエモリ大学のSEEラーニングチームから先生方が来日し、教員向けワークショップを開催されるとのことで、そのお手伝いもさせていただくことになりました。私が現在学んでいるファシリテーターのプログラムは世界各国の先生が受講できるように英語で開催されています。とても勉強になるのですが、受講期間も6カ月と長いだけでなく、現状、英語ができない方が受講するにはかなりハードルがあります。一方で、この3月のプログラムでは英語の通訳の方もいらっしゃるので、どなたでも受講できる内容になっております。

https://www.seelearningjapan.com/202403ws

もしご興味ある方がいらっしゃいましたら、ぜひご参加いただけると嬉しいです。

なお、参加にあたり金銭面でヘルプが必要な場合は、個別で私(tanaka@ariake.kaetsu.ac.jp)までご相談いただけたら、もしかしたら少しではありますがクーポンが出せるかもしれないので、ご連絡いただけたらと思います。

場所が都内ということや有料ではあるので、地方の先生方や研修費等の兼ね合いやご負担はあると思いますが、実際にエモリ大学に行って学ぶことや私が参加しているオンラインのオールイングリッシュ版と比較すると、ずいぶん参加しやすいんじゃないかなと思いますので、SELSEEL、マインドフルネスを教育現場で取り入れていくこと等にご興味がある方いらっしゃったら、ぜひ一緒に学びましょう。

皆さんにお会いできることを楽しみにしております。

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SELのプログラムについての情報です。

今回紹介されるSEELは、比較的新しいSELのプログラムのようです(下で紹介する、主だったSELのプログラムには含まれていませんから)。すでに、アメリカには数百あると言われているSELのプログラムに新たに追加されたわけです。

●プログラムを学校等に導入する際の考え方については、https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=SEL%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0を参照してください。

●ご自分で確認したい方は、SEL関連で一番多くの情報を発信しているhttps://casel.org/

のサイトをご覧ください。特に、https://casel.org/news-publications/sel-publications/ でたくさんの資料を見ることができます。

 そのなかには、たくさんのプログラムのなかから厳選された85のプログラムを詳しく見る/比較できる資料も提供してくれています。https://pg.casel.org/review-programs/

 この種の情報で、かなり重宝されている上方がもう一つあります。それは、ハーバード大学内の The Ecological Approaches to Social Emotional Learning (EASEL) Laboratoryが実施、ウォラス財団が委託・出版している主なSELの比較分析結果です。
 小学校版は、https://wallacefoundation.org/sites/default/files/2023-08/navigating-social-and-emotional-learning-from-the-inside-out-2ed.pdf(33プログラムが対象)

中高版は、https://wallacefoundation.org/sites/default/files/2023-09/navigating-social-and-emotional-learning-from-the-inside-out-middle-high-school.pdf(18プログラムが対象)で見ることができます。

 アメリカ等、欧米ではSELを実施している歴史が長く、またあまりにもたくさんのSELのプログラムが存在しているので、「しっかりした実績を生み出しているプログラムとは何か?」というような情報も、SELに取り組み始める教育関係者向けに提供されています。https://casel.org/blog/what-does-evidence-based-mean-why-is-it-important/

2024年1月6日土曜日

子どもたちとの信頼関係を築くために

 日々の教室のなかで、子どもとの関係性を深めていくことは、SELの5つの要素のすべてに関わる基本となるものです。『感情と社会性を育む学び(SEL)』でも子ども一人ひとりとの時間をつくり関係を深めていくさまざまな活動が紹介されていますが、子どもたち一人ひとりとの時間をとることが難しい場合も多くあります。子どもたち一人ひとりとの信頼関係を築く前提となるのは、教師と子どもたち全体との関係性、教室の文化です。心地よい教室をつくり、信頼関係を育んでいくために、教師から子ども全体への言葉や態度、教室全体での働きかけの根本となることについて紹介します。


「無条件の肯定的関心」

 

 「無条件の肯定的関心」とは、心理学用語で、他者を評価せずにありのままに受け入れることです。そして、『あなたを気にかけている。あなたには価値がある。価値を証明する必要はないし、何があっても私があなたに価値があると思うことが変わることはない。』という心構えをし、態度をとることです。他者から気にかけてもらえるのは何かの見返りとしてではなく、その人自身に価値があること、何か失敗したり苦しんだりすることがあってもその価値は損なわれることはないということを言葉や態度で示していくことは、子どもたちの自己肯定感を育むために欠かせません。

 

 受け入れられるときに、条件がついていないものが「無条件の肯定的関心」です。これは、「あなたがこうであるから、私はあなたが好きだ」「あなたがこんなときはよいが、こんなときは悪い」というように自分の判断や評価に基づく、つまり条件のある受容とは対をなすものです。すべての場面で、人々が「無条件の肯定的関心」を実践することは現実的ではありません。ただし、「無条件の肯定的関心」という概念を念頭に置くことで、日々の子どもたちへの言葉や態度が変わってくるのではないでしょうか。「それは違う!いけない」と反射的かつ正直な態度を、「そうなのか」といったん口に出して無条件に受け入れるだけでも、相手は「自分の話を聴いてもらえた」と感じ、自分も相手も、理性的に考える一歩となります。そして、「私はいつでも、どんな状況でもあなたを気にかけている」というメッセージを子どもたちに送り続け、子どもたちも「いつでも気にかけてくれる人がいる」「話を聴いてもらえる」と感じることができれば、教室内の人間関係の基礎となります。


 子どもに対して肯定的な言葉を意識的に使うことやありのままに受け入れることは、難しい課題に取り組む子どものやる気を高めるという研究結果や、肯定することは、成長マインドセット(2023/7/2 マインドセットとSEL を参照)を促したり、気持ちを落ち着かせたり、問題解決能力を高めたりする効果があるという研究結果もあります。


 ありのままの自分を認めてくれる大人の存在は、子どもたちの自己肯定感や感情を受け入れいることにつながり、そして、それは、自己管理や社会認識を育むために必要不可欠なものです。「無条件の肯定的配慮」を念頭においた言葉がけをしながら接していくことが、教師と子どもたちとの信頼関係を築くこと、ひいては、教室での豊かな人間関係の基礎となります。



先入観をもたずにそのときどきの子どもと接する


 同一の能力をもつラットについて、一匹はとても賢いラットで、もう一方は知的に劣るラットだと言われた場合、賢いと言われたラットが実際に賢明な行動をとるようになる、という実験結果があります。ラットを迷路に入れ、数週間の行動を記録すると、とても賢いと言われたラットが早く迷路をクリアできるようになるのです。これには何が影響しているのでしょうか。それは実験者の対応です。実験者は、それぞれのラットに異なる対応を取りました。とても賢いとされたラットは、もう一方のラットより丁寧に扱われ、それがラットのストレスや学びに影響を与えたのです。この実験からは、先入観をもったりレッテルを貼ることが、日々のやり取りや学びに大きな影響を与えることがわかります。


 人間の場合も同じです。勉強ができない、リーダーシップがない、問題行動をよく起こすなど、日々先入観をもって接していると、その通りの行動を起こすことがあります。子どもたちの成績やこれまでの行動などの記録は、参考になるものですが、子どもたちの未来を決定するものではありません。子どもによって、声かけや求める基準が異なっていませんか。一人ひとりの状況に合わせた対応をしていくことは大切ですが、「あなたはこうだ」との固定マインドセットのメッセージを送ってしまっていませんか。「今はまだできないけれど、すべての子どもたちに学ぶ力がある」という成長マインドセットの視点からも、過去のデータにとらわれすぎずに子どもと接していくことが大切です。


 日々の教室での言葉がけや態度は、その言葉や態度が向けられている子どもだけでなく、周りの子どもや教室全体にも影響します。子どもをありのままに肯定し、否定的な先入観をもたずにその場その場の態度や行動について働きかけることが、よい関係を築くことにつながります。


参照

https://www.edutopia.org/article/building-rapport-students

https://www.cultofpedagogy.com/unconditional-positive-regard/