2023年7月1日土曜日

マインドセットとSEL

  今回は、マインドセットと教室での取り組みを紹介します。

 子育てに悩み、育児書や心理学の本に目を向けるようになったときに、出合ったのが「成長マインドセット」と「固定マインドセット」の言葉です(『Mindset: The New Psychology of Success』(Carol Dweck, 2006, Random House、邦訳『マインドセット――「やればできる!」の研究』今西康子訳、草思社、2016年)。


 マインドセットは、自分自身やほかの人の行動と態度に影響を与える一連の思考様式のことです。「成長マインドセット(growth mindset)」は、能力は可変的なもので、人は学び続ける(努力する)ことで成長できるとする考え方です。一方の「固定マインドセット (fixed mindset) 」は、生まれもった能力を超えて成長することはできないとする考え方です。日々の子どもの褒め方やフィードバックの仕方が子どものマインドセットに影響します。成長マインドセットを育むには、結果に注目するのではなく、子どもの努力や、取り組み方、粘り強さを認めることや建設的なフィードバックを行うことが大切です★。


 このマインドセットは、SEL、とりわけ自己認識【自分の感情を特定する、自分の価値や強み、成長すべきところを認識する】と自己管理【自分の感情と行動をコントロールし、目標を達成する】と深く関わっています。そして、成長マインドセットに根ざした教室では、子どもたちが安心して学べ、お互いに認め合い、共感する機会も増えるでしょう。


校では具体的にどのように成長マインドセットを育もうとしているのか小学校4年生の算数の取り組みを紹介します。


 年度初めの授業では、だれにでも算数ができる、好き、得意になれるというメッセージを伝えます。(年度初めでなくとも2学期のスタートとしてもよいと思います)

 算数に取り組むことの重要性をイラストを描いて、そのなかに自分も含まれることをイメージさせます(図1)。

図1

算数ができる人には、どうやったらなれるか?

ステップ1: (どんな種類でも)算数をしてみる

ステップ2: 人間であること大切にする

図2

 そして算数に取り組むうえで大切なことについて一緒に考えます。図2では、算数の授業での規範となる7つの点を挙げています。

  1. みんなが高いレベルの算数を学ぶことができる
  2. 間違えることは大切
  3. 疑問をもつことはとても大切
  4. 算数とは、 創造力を働かせ、論理的に考えること
  5. 算数とは、いろいろなことを結びつけ、コミュニケーションをとること
  6. 算数の授業は学ぶ場であり、できることを示す場所ではない
  7. 早く問題を解けることよりも、深く学ぶことが大切

 これらを算数のノートの一番初めの目にするところや、よく見返すところに貼ったり、もしくは掲示物で子どもたちが常に思い起こせるようにします。


 さらに日々の授業で、成長マインドセットに根ざした声のかけ方や褒め方や建設的なフィードバックを行うこととともに、子どもたちが自分にかける言葉を変えていくことが必要です。

 上のシートでは、固定マインドセットに基づいた発言や考えを成長マインドセットに変える練習をしています。たとえば、

  • 『私は算数は苦手だ』→『(苦手だから)練習しよう』『まだ分からないことがある』

  • 『できる問題だけしていればいいや』→『難しそうだけれど挑戦してみよう』

  • 『あの子はあんなにできるのに、私は全然できない』→『あの子はあんなにできるようになったのだから私もやってみよう』

といったように、自分自身への言葉を成長マインドセットのものへと変える練習をします。


 このように、成長マインドセットを育むために、日々の声のかけ方やフィードバックに気をつけることとともに、明示的に話す機会や、自分のマインドセットをふりかえり成長マインドセットを練習する機会を設けることで、成長マインドセットに根差した教室をつくっていくことができます。

 「成長マインドセット」の環境を作っていくことは、「学び、成長したい」という、子どもが本来もっている思いを受け入れて伸ばしていくものです。教師や親がよいと思って伝えるメッセージの伝わり方も子どもや状況によって異なってきます。どんな場合でも、考え方も性格も能力も変わることができるという「成長マインドセット」の考え方を念頭に置いて、それを促す環境づくりを実践していけば、そこが安心して安全に学べる場となります。


 そのような成長マインドセットの環境で学ぶ効果は、教科面の学力の向上にとどまりません。成長マインドセットを通じて、現時点の自分を前向きに受け入れることができるようになることで、自己受容が促されとともに、自分の感情や考え方に向き合ったり行動をふりかえったりする機会は、感情や社会性に関わるスキルの成長を促してくれるでしょう。人はだれでも成長できる、一人ひとりが今いる地点から感情や社会性に関わるスキルを伸ばしていけると考えることは、SELを実践していくうえの土台となります。


★この点についてより詳しく知りたい方は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/06/blog-post_21.htmlの「けっかがこわくて チャレンジできなかったりする」の下に紹介されている2冊の本がおすすめです。


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