2023年7月29日土曜日

SELをすることで得られる51の恩恵(価値)

  51もの恩恵のリストは、次の無料で得られる資料の中で、6つの柱に整理されて提示してくれていますので、ぜひ入手してください。

https://www.conovercompany.com/social-emotional-learning/

 ちなみに、6つの柱は、社会的、感情的、個人的、リーダーシップ、職業的、経済的です。それぞれ8~10の項目がリストアップされています。SELを学校等で取り組む価値を同僚や管理職にうまく説明できない場合の説得材料として参考になるのではないかと思います。(入手されたら、翻訳ソフトを使って訳せば、8~9割のレベルで翻訳してくれます。)

試してみても、51の恩恵のリストを入手できなかった方は、pro.workshop@gmailcomに問い合わせてください。

 

 上記の6つの柱に、学業面が含まれていないのが気になり「sel impact on academic outcomes」で検索してみたところ、次のような情報を得ました。(こちらも、翻訳ソフトを使って読んでください。)

https://casel.org/fundamentals-of-sel/what-does-the-research-say/ (CASELのサイトです)

https://www.panoramaed.com/blog/sel-impact-academics

https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED505369.pdf(これは、学業に限定したものではなく、全部を対象にしています)

https://www.partnershipforchildren.org.uk/uploads/Files/evaluation/AcademicAchievement.pdf.pdf

https://kappanonline.org/social-emotional-learning-outcome-research-mahoney-durlak-weissberg/ (KAPPANという教育誌に掲載された研究論文です)

2023年7月22日土曜日

『感情と社会性を育む学び(SEL)』(マリリー・スプレンガ―/大内朋子ほか訳、新評論、2022年)のなかの「共感」 ~共感6

 この本の特徴は、SELの5本の柱(URLを参照)についての解説と具体的に取り組める活動の紹介の前後に、https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794812056の本の目次でわかるように、第1章の「教師と生徒の関係を築く」、第2章の「共感する」、第8章の「プログラムではなく、人がSELに好影響を及ぼす」の3章が重視されていることです。

 共感的であることを含めた教師と生徒の関係が築かれていないと、SELの取り組み自体が絵に描いた餅(取り組んでいる振りをしているだけ)になってしまいます。それは、最後の第8章とも関係します。アメリカには、数百(300とも400とも言われています!)のSELのプログラムがあります。そのうちの一つを選んだら、それで自分の仕事の大半は完了したと思いがちになるのは無理もないことかもしれません(一つしかない教科書をこなしていれば、自分の仕事は安泰と思っている教師も決して少なくはありませんから)。第8章では、それでは子どもたちの助けにならないと強調しているので、ぜひご一読ください(その際は、『学びは、すべてSEL』の最終章の「SEL学校の創造」と合わせて読むとインパクトが増します!)。

 共感というよりも、SELについての前置きが長くなりました。

 第2章で大きく取り上げられているのは、共感を扱った内容のものでは多くの本や資料で必ずと言っていいほど取り上げられるカナダ人のメアリー・ゴードンの「共感のルーツ(Roots of Empathy)」が紹介されています。

1996年にはじまったこのプログラムは、「月に一度、教室に赤ちゃんを連れていきます。生徒たちは赤ちゃんを観察し、あやし、赤ちゃんが何を感じているかについて話し合います。そして、赤ちゃんが成長し、変化していく様子を目にしたり、仕草や表情、行動を観察したりすることで、赤ちゃんが何をどのように感じているのか推測していきます」(45ページ)という内容です。赤ちゃんを教室に招くことが困難な場合は、「クラスでペットを飼う」という方法もあります(5961ページ)★。

 以上の事例のほかにも、第2章では10以上の活動や事例が紹介されています。

手本となる ~ 「生徒に共感を教えるうえで一番大切なのは、手本を示すことです。・・・生徒は、思いやりをもって対応してくれる教師がいると分かると、教師に信頼を寄せるようになります」(53ページ)具体的な接し方や反応の仕方(言葉遣い)の例が、67~71ページに多数紹介されています。

・理解しようと心がける

・話したり、指摘をしたりするのではなく、質問をする

・感謝を示すメモを送る

・親切の壁づくり

・対面でのコミュニケーションをはかる ~ そのときの注意点あり

・地域貢献プロジェクト

・学校内外でのボランティア活動

・馴染みのない生徒と昼食を共にするランチ

・文学作品を使って、国語の授業で共感を学ぶ ~共感3を参照

・紙袋のひらめき ~ 紙袋を使って、いじめへの抵抗力をつける

・ぐちゃぐちゃのハート

・教師の自己評価 ~ 「生徒に接するときに共感をしているか?」と問い直すための3つの質問が紹介されている

 最初と最後の活動事例(アクティビティー)で、教師がどのような言葉をかけるかが、生徒との関係が築けるか否かの分かれ目となります。この点については、次の機会に。

 

★ペットを飼うことは、命に対する責任が伴いますから、簡単に決断できる/すべきことではありませんが、飼うことを通して学べるものの多さは、映画の『ブタのいる教室』などにもあったように、言葉にできないものがあります。

 

2023年7月15日土曜日

子どもが学校で成功するのに欠かせないSEL の字幕付き動画

このTedトークの日本語タイトル「子どもが学校で成功するための創造的方法」は、原題を忠実に訳していますから、問題とは言えませんが、動画の内容に忠実なら、表題のようなタイトルになるのではないでしょうか? ぜひご覧ください。

https://www.ted.com/talks/olympia_della_flora_creative_ways_to_get_kids_to_thrive_in_school?language=ja

画面の下にある音量調節の隣にある「Subtitles」を日本語に変換すると、日本語字幕になります(あるいは、画面の下の「Read transcript」をクリックすると、校長先生の話の日本語訳が読めます)。

 あなたが知っている/見つけたSEL関連の情報を、pro.workshop@gmail.com宛にぜひ教えてください

2023年7月8日土曜日

様々な問題行動への対処の肝も「共感」!  ~共感5

  『生徒指導をハックする―育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』(https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794811691で、目次が見られます)の第7章「共感力を育む」の扉は、次の文章で始まっています。

「(前略)人というものは、相手の立場から物事を考えてあげられるようになるまでは、 ほんとうに理解するなんてことはできないものなんだよその人の身になって、生活するまでは、だよ」

 これは、あの有名なハーパー・リーの小説『アラバマ物語』の登場人物、アティカス・フィンチの言葉です(邦訳は、菊池重三郎訳、暮らしの手帖社、2017年、4445ページ)。

 学校内で起こる★多様な生徒指導がらみの案件に、教師を含めた当事者たちは、このことを理解し、かつ実践できているでしょうか? 『生徒指導をハックする―育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』には、

自分の行動から学ぶこと、自分の行為によって損なってしまったことを修復すること、他者 に共感することは、関係修復のアプローチにおいては重要な要素となっています。「共感」とは、他者の感情を共有したり理解したりすることで、それは三つ(感情的共感、認知的共感、感情の制御)★★で構成されています。三つのうち一つでも欠けると、学ぶ環境を阻む要因になることがあります。(182ページ)

と書いています。

 これらのうちのどれかが育っていないと、グループワークがうまく機能しなかったり、いじめが起こったりといった形で症状が現れます。さらに、本では「人に共感することが難しい生徒には、ほかにもさまざまな症状が現れます。たとえば、人を思いどおりに操ろうとする、嫉妬、過ちを認めない、権利意識、他者の視点で考える能力の欠如などです。これらのどれ一つとっても、健全な学びの環境をつくるものはありませんが、(本書で提示している)関係修復のアプローチをうまく実践することができれば、これらのすべてを成長へと導くことができます。幸いなことに、共感力は生まれつき備わっている能力ではありません。共感力は、筋肉を鍛えるように、正しい方法によって育成することができるのです」(184ページ)と述べています。

 そして、この本では、共感力を育むための方法として、「ボディー・ランゲージ」「感情を表す表現(=アイ・メッセージ)」「リフレクティブ・リスリング(聞き返し、ないし丁寧な聴き方)」の3つが具体的な事例と共に紹介されていますので(188~196ページ)、ぜひ試してみてください。

★学校内で起こることは、ある意味で学校外で起こる多様な問題行動の縮図的な位置づけにあると言えることを考えると、それへの対処法も、変わらなければならないことを意味します。つまり、その場しのぎの解決(の見せかけ)ではなくて、学校を卒業した後も十分に起こりえる問題への克服の仕方を生徒たちが学ぶ機会と捉えたアプローチです。その第一歩が「共感」という位置づけです。

★★これら3つについて、ここでは触れませんが、「3つの共感」でネット検索すると情報が得られます。

2023年7月1日土曜日

マインドセットとSEL

  今回は、マインドセットと教室での取り組みを紹介します。

 子育てに悩み、育児書や心理学の本に目を向けるようになったときに、出合ったのが「成長マインドセット」と「固定マインドセット」の言葉です(『Mindset: The New Psychology of Success』(Carol Dweck, 2006, Random House、邦訳『マインドセット――「やればできる!」の研究』今西康子訳、草思社、2016年)。


 マインドセットは、自分自身やほかの人の行動と態度に影響を与える一連の思考様式のことです。「成長マインドセット(growth mindset)」は、能力は可変的なもので、人は学び続ける(努力する)ことで成長できるとする考え方です。一方の「固定マインドセット (fixed mindset) 」は、生まれもった能力を超えて成長することはできないとする考え方です。日々の子どもの褒め方やフィードバックの仕方が子どものマインドセットに影響します。成長マインドセットを育むには、結果に注目するのではなく、子どもの努力や、取り組み方、粘り強さを認めることや建設的なフィードバックを行うことが大切です★。


 このマインドセットは、SEL、とりわけ自己認識【自分の感情を特定する、自分の価値や強み、成長すべきところを認識する】と自己管理【自分の感情と行動をコントロールし、目標を達成する】と深く関わっています。そして、成長マインドセットに根ざした教室では、子どもたちが安心して学べ、お互いに認め合い、共感する機会も増えるでしょう。


校では具体的にどのように成長マインドセットを育もうとしているのか小学校4年生の算数の取り組みを紹介します。


 年度初めの授業では、だれにでも算数ができる、好き、得意になれるというメッセージを伝えます。(年度初めでなくとも2学期のスタートとしてもよいと思います)

 算数に取り組むことの重要性をイラストを描いて、そのなかに自分も含まれることをイメージさせます(図1)。

図1

算数ができる人には、どうやったらなれるか?

ステップ1: (どんな種類でも)算数をしてみる

ステップ2: 人間であること大切にする

図2

 そして算数に取り組むうえで大切なことについて一緒に考えます。図2では、算数の授業での規範となる7つの点を挙げています。

  1. みんなが高いレベルの算数を学ぶことができる
  2. 間違えることは大切
  3. 疑問をもつことはとても大切
  4. 算数とは、 創造力を働かせ、論理的に考えること
  5. 算数とは、いろいろなことを結びつけ、コミュニケーションをとること
  6. 算数の授業は学ぶ場であり、できることを示す場所ではない
  7. 早く問題を解けることよりも、深く学ぶことが大切

 これらを算数のノートの一番初めの目にするところや、よく見返すところに貼ったり、もしくは掲示物で子どもたちが常に思い起こせるようにします。


 さらに日々の授業で、成長マインドセットに根ざした声のかけ方や褒め方や建設的なフィードバックを行うこととともに、子どもたちが自分にかける言葉を変えていくことが必要です。

 上のシートでは、固定マインドセットに基づいた発言や考えを成長マインドセットに変える練習をしています。たとえば、

  • 『私は算数は苦手だ』→『(苦手だから)練習しよう』『まだ分からないことがある』

  • 『できる問題だけしていればいいや』→『難しそうだけれど挑戦してみよう』

  • 『あの子はあんなにできるのに、私は全然できない』→『あの子はあんなにできるようになったのだから私もやってみよう』

といったように、自分自身への言葉を成長マインドセットのものへと変える練習をします。


 このように、成長マインドセットを育むために、日々の声のかけ方やフィードバックに気をつけることとともに、明示的に話す機会や、自分のマインドセットをふりかえり成長マインドセットを練習する機会を設けることで、成長マインドセットに根差した教室をつくっていくことができます。

 「成長マインドセット」の環境を作っていくことは、「学び、成長したい」という、子どもが本来もっている思いを受け入れて伸ばしていくものです。教師や親がよいと思って伝えるメッセージの伝わり方も子どもや状況によって異なってきます。どんな場合でも、考え方も性格も能力も変わることができるという「成長マインドセット」の考え方を念頭に置いて、それを促す環境づくりを実践していけば、そこが安心して安全に学べる場となります。


 そのような成長マインドセットの環境で学ぶ効果は、教科面の学力の向上にとどまりません。成長マインドセットを通じて、現時点の自分を前向きに受け入れることができるようになることで、自己受容が促されとともに、自分の感情や考え方に向き合ったり行動をふりかえったりする機会は、感情や社会性に関わるスキルの成長を促してくれるでしょう。人はだれでも成長できる、一人ひとりが今いる地点から感情や社会性に関わるスキルを伸ばしていけると考えることは、SELを実践していくうえの土台となります。


★この点についてより詳しく知りたい方は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/06/blog-post_21.htmlの「けっかがこわくて チャレンジできなかったりする」の下に紹介されている2冊の本がおすすめです。