2024年1月6日土曜日

子どもたちとの信頼関係を築くために

 日々の教室のなかで、子どもとの関係性を深めていくことは、SELの5つの要素のすべてに関わる基本となるものです。『感情と社会性を育む学び(SEL)』でも子ども一人ひとりとの時間をつくり関係を深めていくさまざまな活動が紹介されていますが、子どもたち一人ひとりとの時間をとることが難しい場合も多くあります。子どもたち一人ひとりとの信頼関係を築く前提となるのは、教師と子どもたち全体との関係性、教室の文化です。心地よい教室をつくり、信頼関係を育んでいくために、教師から子ども全体への言葉や態度、教室全体での働きかけの根本となることについて紹介します。


「無条件の肯定的関心」

 

 「無条件の肯定的関心」とは、心理学用語で、他者を評価せずにありのままに受け入れることです。そして、『あなたを気にかけている。あなたには価値がある。価値を証明する必要はないし、何があっても私があなたに価値があると思うことが変わることはない。』という心構えをし、態度をとることです。他者から気にかけてもらえるのは何かの見返りとしてではなく、その人自身に価値があること、何か失敗したり苦しんだりすることがあってもその価値は損なわれることはないということを言葉や態度で示していくことは、子どもたちの自己肯定感を育むために欠かせません。

 

 受け入れられるときに、条件がついていないものが「無条件の肯定的関心」です。これは、「あなたがこうであるから、私はあなたが好きだ」「あなたがこんなときはよいが、こんなときは悪い」というように自分の判断や評価に基づく、つまり条件のある受容とは対をなすものです。すべての場面で、人々が「無条件の肯定的関心」を実践することは現実的ではありません。ただし、「無条件の肯定的関心」という概念を念頭に置くことで、日々の子どもたちへの言葉や態度が変わってくるのではないでしょうか。「それは違う!いけない」と反射的かつ正直な態度を、「そうなのか」といったん口に出して無条件に受け入れるだけでも、相手は「自分の話を聴いてもらえた」と感じ、自分も相手も、理性的に考える一歩となります。そして、「私はいつでも、どんな状況でもあなたを気にかけている」というメッセージを子どもたちに送り続け、子どもたちも「いつでも気にかけてくれる人がいる」「話を聴いてもらえる」と感じることができれば、教室内の人間関係の基礎となります。


 子どもに対して肯定的な言葉を意識的に使うことやありのままに受け入れることは、難しい課題に取り組む子どものやる気を高めるという研究結果や、肯定することは、成長マインドセット(2023/7/2 マインドセットとSEL を参照)を促したり、気持ちを落ち着かせたり、問題解決能力を高めたりする効果があるという研究結果もあります。


 ありのままの自分を認めてくれる大人の存在は、子どもたちの自己肯定感や感情を受け入れいることにつながり、そして、それは、自己管理や社会認識を育むために必要不可欠なものです。「無条件の肯定的配慮」を念頭においた言葉がけをしながら接していくことが、教師と子どもたちとの信頼関係を築くこと、ひいては、教室での豊かな人間関係の基礎となります。



先入観をもたずにそのときどきの子どもと接する


 同一の能力をもつラットについて、一匹はとても賢いラットで、もう一方は知的に劣るラットだと言われた場合、賢いと言われたラットが実際に賢明な行動をとるようになる、という実験結果があります。ラットを迷路に入れ、数週間の行動を記録すると、とても賢いと言われたラットが早く迷路をクリアできるようになるのです。これには何が影響しているのでしょうか。それは実験者の対応です。実験者は、それぞれのラットに異なる対応を取りました。とても賢いとされたラットは、もう一方のラットより丁寧に扱われ、それがラットのストレスや学びに影響を与えたのです。この実験からは、先入観をもったりレッテルを貼ることが、日々のやり取りや学びに大きな影響を与えることがわかります。


 人間の場合も同じです。勉強ができない、リーダーシップがない、問題行動をよく起こすなど、日々先入観をもって接していると、その通りの行動を起こすことがあります。子どもたちの成績やこれまでの行動などの記録は、参考になるものですが、子どもたちの未来を決定するものではありません。子どもによって、声かけや求める基準が異なっていませんか。一人ひとりの状況に合わせた対応をしていくことは大切ですが、「あなたはこうだ」との固定マインドセットのメッセージを送ってしまっていませんか。「今はまだできないけれど、すべての子どもたちに学ぶ力がある」という成長マインドセットの視点からも、過去のデータにとらわれすぎずに子どもと接していくことが大切です。


 日々の教室での言葉がけや態度は、その言葉や態度が向けられている子どもだけでなく、周りの子どもや教室全体にも影響します。子どもをありのままに肯定し、否定的な先入観をもたずにその場その場の態度や行動について働きかけることが、よい関係を築くことにつながります。


参照

https://www.edutopia.org/article/building-rapport-students

https://www.cultofpedagogy.com/unconditional-positive-regard/


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