2024年4月6日土曜日

新年度におすすめの活動

  教室内には、教師とひとりひとりの子ども、教師と子どもたち全体、子ども同士、それぞれの関係性が学級をつくります。新年度は、人間関係を構築し、深める絶好の機会です。成長途上にある子どもが人間関係を培うサポートをし、楽しい学校生活を送れるようにすることはもちろん、教師を信頼でき、安心して学習できる環境をつくることは、学業への取り組み方にも大きな恩恵があります。今回は、新年度活動に効果的な活動をいくつかご紹介します。


一人ひとりの子どもについて知るための活動

 子どもについてをよく知れば知るほど、教室で生徒のニーズを満たすことができるようになります。まずは、子どもの声を聞く機会をつくることが大切です。


「先生に_____を知っていてほしい」という文章を完成させる

 子どもに「先生に____を知っていてほしい」という文章を完成させてもらうと予想以上のことがわかります。子どもの答えには、「今年私のお父さんが死んでしまったことを知っていてほしい」といった深刻なものから、「大きい音に敏感なことを知ってほしい」といった学校生活に必要な情報、「○○のキャラクターが好き」のような趣味を知ることができるものとさまざまことが共有されるでしょう。子どもの感情や考え、置かれている状況を知る一歩になるとともに、子どもは、教師が自分のことを知ろうとしてくれていると感じることができ、新しい一年の関係を築いていく第一歩として効果的な方法です。

 これは、アメリカコロラド州の3年生の教師がはじめた活動で、彼女が日本で話した動画 あります


ランキング表をつくる

 これは、子ども自身にとっても自分の価値観と優先順位をふり返り、意思決定をする経験、そして、教師にとっては、子どもの現在抱えているニーズについてよく知ることができます。

 A4用紙の一枚には、一枚には1から12までの番号を書いた表、もう一枚の紙には、11の言葉:楽しむ、友だちをつくる、お金、物、見た目、家族、教育、ほかの人から尊敬される、健康、何かに秀でる、トラブルに巻き込まれないようにする、を書いた12マスの表を配ります。(白紙のA4用紙を二枚配り、子どもたちに表と言葉を書いてもらってもよいでしょう。)子どもは、12番目の空欄に自分にとって大切なものを足し、言葉の書かれたマスを切り取り、もう一枚の数字を書いた表に優先順の高いと思う順に並べます。

 子どもひとりひとり違うランキングができ、教師は子どもの志向を知ることができます。ほかの人と共有するのにためらいがない場合には、その順番に並べた理由とともに発表してもらったり、ほかの人のランキングをみたりすることで、自分との違う考え方をする人がいることを知り、さらに、自分と価値観の近いクラスメイトを見つけることもできます。


あいさつは一人ひとりの名前を呼んでする

 あいさつにクラスメイトの名前を含めるよう手本を示すと、子ども同士でも名前を呼んであいさつをしやすくなります。「おはよう、調子はどう?」と話しかけるのではなく、「〇〇さん、おはよう、調子はどう?」と聞くようにしましょう。名前を呼びあうことで、会話も促されます。ほかの人の名前を呼ぶのは、初めのうちは気まずく感じるかもしれませんが、教師が子どもたちの名前を呼んであいさつする場合、脳がその方法を認識します。自分の名前を耳にすると脳の特定の箇所、自己に関連づける働きをする内側前頭前皮質が活性化するとの研究があります。この領域は他者の所属意識や絆を育むことと直接つながっている箇所です。

 なお、アメリカでは、教師から子どもは姓ではなく名前(ファーストネーム)で呼ぶことが一般的で、子ども同士の間でも名前で呼び合います。学校全体での方針がある場合もあるかと思いますが、自己紹介の際に子どもたち同士の間でどう呼んでほしいか言ってもらうのもよいと思います。


クラス全体の活動


クラスの価値観を話し合い、契約を結ぶ

 価値観とは、何は正しくて何は正しくないかについての一般的な考えです。状況に応じて変わる規範とは異なり、価値観は一定のものです。そして、優先順位からは、自分が大切にしているものは何かがわかります。生徒と価値観について話し合い、クラス全体の価値観をつくり出しましょう。そして、意思決定が必要なときにはクラスの価値観を参考にすることが大切です。クラスの価値観を話し合ううえでは、一つの方法としてクラスで「契約」を結ぶことがあります。次のような質問を通じて話し合いを進めるのがよいでしょう。

  • 教師にどのように接してほしいか?

  • クラスメイトにどのように接してほしいか?

  • 教師は生徒にどのように接してほしいと思っているか?

  • 守られないときにはどのように対応するか?

 生徒は一人ひとりが質問について考え、考えを共有し、それをもとに合意できるように契約を組み立てます。合意できる契約文書が作成できたら、生徒と教師が署名をし、教室に掲示します。この過程を経ることで、生徒同士の交流が促され、自分の声が届いていると感じるとともに、契約に沿って自分たちをモニターし始めます。上の4つの質問とその答えを下に書くことで契約とすることもできますし、お互いに尊重する、よく聴く、共感を示す、親切にするなど、クラスの価値観を示す行動を並べることをもって契約とするのもよい方法です。


規範づくり

 社会規範を理解し、それに従えることは、社会認識上重要なことです。「向社会的なふるまい」とは、他者に利するよい行動で、個人的利益(私利私欲)によって突き動かされないことを意味します。社会的なスキル、ないし、向社会的スキルは、多くの場合、教師が学校や教室で設ける規範を通じて培われます。

 規範は、すべての生徒が関わり参加していくなかでつくられるべきものです。教科や内容によって異なる規範が必要なこともあります。たとえば、国語の授業では、読むときの規範と書くときの規範が考えられます。「読んで学んでいるときは、自分たちはどのように見え、どのように聞こえるでしょうか?」と尋ね、自分たちについて言い表す形容詞を考えてもらうようにします。集中している、静か、電子機器がない(タブレット端末を使って読まない場合)、みんなが参加できる、落ち着いている、不安がない、夢中になっている、などが挙げられるでしょう。また、「グループワークでは自分たちどのように見え、聞こえるでしょうか?」と尋れば、子どもたちはグループで課題に取り組むのに最も重要な規範を決めることができます。お互いを尊重する、共有する(分かち合う)、用意ができている、パーソナル・スペース(個人の空間)を侵さないなどの規範が出てくるかもしれません。「教室のルール(決まり)」」と呼ぶよりも「規範」と言うことで、ただ何をすべきかを指示するのではなく、どのようにふるまうかを表現することができます。

 教室や学校ではいろいろな規範を取り入れられます。重要なことは、生徒が向社会的になれるような規範をつくり、使っていくことです。事前に何をすべきか、どのようにふるまうべきかがわかっていることは、学校内外で生徒の役に立ちます。 


契約も規範について学年の途中でふり返り、改訂するのがよいでしょう。


子ども同士の関係を深める


二重に輪になって1対1のコミュニケーションをする

 子どもたちに二重に輪をつくります。それぞれの輪は同数の子どもが必要で、内側の輪の人は外側に、外側の輪の人は内側に向かって並びます。学級が奇数の場合は教師も加わる、もしくは、外側の輪に二人一組をつくるとよいでしょう。教師は、子どもたちが知り合い理解を深められる質問をし子どもは、向かい合っているパートナーと答えを共有します。数分したら、内側の輪の子どもに右に3つ動いてください、などと指示を出し、異なるパートナーと話せるようにします。慣れてきたら子どもにお題や質問を出してもらったり、教師も答えたりするのがよいでしょう。

 まずは、リラックスできるように。「山が好きか、海が好きか」「お寿司で好きなものは何か」など簡単な質問から始めることをおすすめします。慣れてきたら、一人ひとりを知るために「将来の夢は何か」「怖いものは何か」「学校行事で一番思い出に残っていることは何か」など、個人的な質問をしていくのもよいでしょう。

 なお、各教科でもディスカッションや意見交換をするときにも同じように行うことができます。



 新年度に取り入れやすい活動をいくつか紹介しました。一年間のSELを充実させるためにもぜひ取り入れてみてください。


参照

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