数年後、別の学校で入学したばかりの子どもは、どんなときに「ごめんなさい」と言うか、どんなふうに言えば気持ちが伝わるか、教室で友だちと練習しました。
一つめは、私がSELに深い関心をもつようになったきっかけで、二つめは、私がSELの実践を初めて目にし、効果を実感したときです。同じ内容を教えるにしても、子どもがどのように学ぶのかは、何を学ぶのかと同じくらい、もしくは、その後の学びや教室での態度に大きな影響を与えるという点でそれ以上に重要だと感じました。
SEL便り第1号となる今回の記事では、SELの定義と効果について簡単にご紹介したいと思います。
『SEL-感情と社会性を育む学び』には、さまざまな定義があります。広く受け入れられているものとしては、「感情のコントロール、目標設定と計画遂行、他者への共感、よい人間関係の構築と維持、責任ある意思決定のために必要な知識や態度、スキルを学ぶプロセス」だと言われます。(1)
SELには5つの相互に関係している資質があります(図1)が、これらには、上記の定義にあるように、知識を学び、態度を培い、スキルを育んでいくことが必要であり、そのためには実践や練習をする場や機会が不可欠なのです。
小学校に入学する時点では、すべての子どもたちが、学びたい、学ぶことができると希望をもって小学校に入学してくるというアメリカの研究結果があります。(2) この学びへの意欲はもっとも学業達成に影響のある要因のひとつで、つまり、子どもたちは学びに必要な大切なものを携えて入学しているのです。
一方、入学時点での学力レベルが一人ひとり異なるように、感情を表現したりコントロールしたりする力も共感力も社会性も一人ひとり異なります。これは、その子どもの性格や素質によるものもありますが、語彙や知識に触れる機会があったかどうかや模範となる人が周りにいたか、さらには練習する機会があったか、などそれまでの経験によって生じたものも少なくありません。
このような違いを考慮し、学習内容を教えるなかに、感情や社会性について学ぶ機会を提供し、学ぶ環境をつくることができれば、一人ひとりが今いる地点から大きく成長していくことができるでしょう。そして、学校内外で、そして社会に出てからも大きな効果を及ぼすでしょう。
SELの手法や実践例などをブログで紹介していくに先立って、今回は、SELの効果についてCASELのさまざまな研究のまとめ(3)をご紹介します。
学力向上。学びを深め、促進する
自己肯定感の向上
ストレスや不安、鬱への対処能力(メンタルヘルス)の向上
他者、学校への態度改善
18歳以降の幸福度の向上
さらに、米国内外の研究では、どのような背景の子どもにも効果的だが、さまざまな社会的文化的背景を考慮した場合には、SELの効果はより大きくなるとされています。また、特に小学校低学年でのSELの実践は、将来の公的援助の必要性や犯罪への関わりを低下するという結果もあります。
そして、CASELのアンケートでは、93%の教師が感情に関わるスキルや社会性は教えられるもので、学校がSELの実践を重視すべきだと考えています。
SELの一部は、日々の教室で、生徒同士のやりとりや教師と生徒のやりとりのなかで起きていることであり、そこから自然と学ぶ子どもたちも多くいることでしょう。しかし、SELを意図的に日々の学びに取り入れていくことで上に挙げたような大きな効果ー学校内外、そして長期的な影響ーがあり、子どもにとって大きな資産となるのではないでしょうか。