2024年6月15日土曜日

読み聞かせを、SELスキルの育成に活用する(+SELの絵本リスト)

 小学校では、生徒の聴解力、背景知識、語彙力、言語構造の理解など、さまざまな読み書き能力を高めるために、対話読み聞かせ★がよく使われています。しかし、読み聞かせは学業面での利点だけでなく、SELスキルの育成にも役立ちます。

実際、教師はSELをテーマにした本の読み聞かせを朝の会、国語の授業、教科横断的な学習に組み込むことができます。

読み聞かせは、SELスキルと国語の力を同時に向上させる

研究によると、SELは生徒の心の健康を支え、積極的な行動を増やし、学業成績を強化することが分かっています。SELはまた、学業と個人的な場面の両方で日常生活に応用できる実社会のスキルを生徒に身につけさせます。

SELに焦点を当てた読み聞かせは、教師と生徒が協力し合い、学級コミュニティーを築く機会となります。読み聞かせが促進する話し合いや質問は、生徒や教師が物語の登場人物や出来事と個人的なつながりを持ったり、クラスメートの多様な経験や背景、文化について学んだりするきっかけともなり、共感を育みます。

読み聞かせの焦点となるSELスキルを選ぶ

SELをテーマにした読み聞かせをするとき、最初にすることは、絵本を選ぶ前に、どのSELのテーマやスキルに焦点を当てたいかを決めることです。CASELフレームワークによると、SELには自己認識、自己管理、社会認識、人間関係スキル、責任ある意思決定の5つの能力があります。

これら5つの能力/コンピテンシーの中には、社会的・文化的アイデンティティー、共感力、帰属意識、忍耐力、自己調整力、長所を認識し多様性を認める能力など、より具体的なスキルの内訳が埋め込まれています。自分のクラスで何に重点を置くかを決める際には、「どのSELスキルが生徒の発達段階に合っているか? 生徒たちはどのSELスキルを伸ばすのにさらなるサポートが必要でしょうか? どのSELスキルが私たちの理想的なクラスのあり方に最も適しているか?」などについて考えます。

この答えから、読み聞かせのテーマがいくつか見つかるでしょう。例えば、生徒が仲間に対して思いやりのない態度をとっていることに気づいたら、共感と思いやりの育成に焦点を当てることができます。あるいは、生徒が声をかけたり、手を離したりすることに問題を抱えている場合は、自己規制や衝動のコントロールに焦点を当てるのがよいでしょう。

本の選択 ~ 最後のリスト参照

読み聞かせの計画

絵本を選んだら、簡単な計画を立てるとよいでしょう。読み聞かせの前、読み聞かせの最中、読み聞かせの後に実施する話し合いのポイントや考え聞かせ★、質問などをあらかじめ計画しておくのです。

読む前に、生徒に本の簡単な紹介をし、読み聞かせの焦点を定め(例えば、選んだSELスキルやテーマ、関連する理解のための方法★★を確認する)、重要な語彙を予習し、生徒の背景知識を活性化する質問をし、生徒が文章や登場人物について予想するように仕向けます。

読み聞かせをしている途中、25回の中断点を予め計画しておきます。その際、教師が考え聞かせをしたり、生徒の話し合いを促したり、本文や登場人物と関連づける機会を設けたりします。

読み終わった後、物語の文脈の中でSELについて私たちはさらに話し合い、最初の葛藤を特定し、登場人物が特定のSELスキルを使ってどのように葛藤を解決したかを確認します。その後、生徒をフォローアップの活動に導き、SELのコンピテンシーに沿った思考、学習、応用を広げます。

フォローアップの活動

フォローアップの活動には、特定のSELスキルについて、またそれが学校現場でどのように応用できるかについて、ペアか小グループまたはクラス全体で話し合うことが中心です。生徒は、個人的な経験や知識に基づいて、本の登場人物や出来事との関連性を共有することができます。

例えば、個人的な物語を書いたり、文章に反応して絵を描いたり、葛藤や問題を解決するためにどのように行動すべきかを話し合うのです。そうすることで、筋書きやテーマ、登場人物の特徴や成長など、物語の要素を理解するための具体的な読解力★★を身につけることができます。

上で紹介したアプローチを通して、読み聞かせは、公平性と生徒のアイデンティティー、文化、生活経験の表現を促進しながら、読み書きのスキルとSELを育む機会を同時に提供します

出典:https://www.edutopia.org/article/social-emotional-learning-read-alouds-can-support-literacy

 

おすすめの本の候補

ようこそ!ここはみんなのがっこうだよ  アレクザーンドラ・ペンフォールド作 ; スーザン・カウフマン絵 ; 吉上恭太訳  鈴木出版 2020

みんなとちがうきみだけど  ジャクリーン・ウッドソン作 ; ラファエル・ロペス絵 ; 都甲幸治訳  汐文社 2019

ぼくはにんげん : おもいやりってだいじだね スーザン・ヴェルデ文 ; ピーター・レイノルズ絵 ; 島津やよい訳  新評論 2020

きみはたいせつ クリスチャン・ロビンソン作 ; 横山和江訳  BL出版 2021

しあわせのバケツ キャロル・マックラウド作 ; デヴィッド・メッシング絵  TOブックス 2019

ええやんそのままで  トッド・パール作 ; つだゆうこ訳 解放出版社、 2008

ふたりのサンドウィッチ ラーニア・アル・アブドッラーさく ; ケリー・ディプキオぶん ; トリシャ・トゥサえ  TOブックス 2010

いいこでねんね デヴィッド・エズラ・シュタイン作 ; さかいくにゆき訳  ポプラ社 2012

せかいはふしぎでできている! アンドレア・ベイティー作 ; デイヴィッド・ロバーツ絵 ; かとうりつこ訳  絵本塾出版 2018

きりんはダンスをおどれない : ポップアップ ジャイルズ・アンドレイさく ; ガイ・パーカー=リースえ ; たにゆきやく  大日本絵画 2009

しんぱいしんぱい ウェンベリー ケビン・ヘンクス作 ; いしいむつみ訳  BL出版 2001

3歳から読みきかせるしあわせのバケツ : 英語でもよめる キャロル・マックラウド、 カレン・ウェルズ作 ; ペニー・ウェバー絵  TOブックス 2012

ごきげんななめのてんとうむし エリック・カールさく ; もりひさしやく  偕成社 1998

いろいろいろんな日 ドクター・スース作 ; スティーブ・ジョンソン、 ルー・ファンチャー絵 ; 石井睦美訳  BL出版 1998

ええきもちええかんじ  トッド・パール作 ; つだゆうこ訳  解放出版社、 2009

しっぱい!とおもったけど  トッド・パール作 ; つだゆうこ訳  解放出版社、 2014

ぼくはぼく スーザン・ヴェルデ文 ; ピーター・レイノルズ絵 ; 島津やよい訳  新評論 2023

SELの絵本は、以上の他にもhttps://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vS_cqoO1OnMIqJzMTAhIbd-UZZTNLZZY-STwjYf9UJg2XvCN5JHLg-PbphrteMzz_-a8F9eRmbce1Om/pubhtml でテーマ別に分類したリストを見ることができます。

 

★「読み聞かせ」といっても、その方法は多様にあります。日本では、バリエーションが乏しく、小学校入学前の子どもを対象にした読み聞かせが、入学以降も使われている状況が続いています。目的が違えば、方法も変えなければならないのに(特に、学習の手段として使う場合は)! 対話読み聞かせは、読み聞かせをしながら聞いている対象と話し合いをもつ方法で、より参加型の読み聞かせになります。考え聞かせは、読み手が読み聞かせと同時に、読みながら自分が考えていることを披露する方法です。もちろん、絵本の最初から最後まで、対話読み聞かせや考え聞かせをしてしまっては効果的ではありません。どこでどれだけするかを事前に準備することが大切です。『読み聞かせは魔法!』(明治図書)の第2章で対話読み聞かせが、第3章で考え聞かせのやり方が紹介されています。また、小学生以上に対して行う読み聞かせについても第1章で紹介されています。

★★ https://wwletter.blogspot.com/の左上に「理解のための方法」「理解のための7つの方法」「優れた読書家が使っている方法」などを入力して検索すると「理解のための方法」Comprehension Strategiesを知ることができます。一方、より広範なreading skillについては、https://helpfulprofessor.com/reading-skills/で(英語の場合)75のスキルが紹介されています。そのうちの大半は日本語にも当てはまります。

2024年6月1日土曜日

教師の話すスキル、聴くスキル

 6月に入り、子どもも教師も新しい教室に慣れ、クラス全体の様子が安定してきたころではないでしょうか。一人ひとりの子どもたちの性格や特性を把握してきたころでもあるかと思います。

そんなときだからこそ、子どもたちに固定観念をもたずに接し、批判することなく耳を傾けること、対話していくことが大切になります。それが教師と一人ひとりの子どもの信頼関係や、子ども同士の関係を深めていくことにつながります。クラス全体や一人ひとりへの話し方、対応の仕方は、日々それに触れている子どもの感情認識やコントロールする力、子ども同士の関係性にも大きく影響します。



クラス全体への対応


1.声の調子、話し方

 

 教室内ではとくに、落ちついて、批判的に聞こえないようにはっきりした声で話すことが大切です。子どもたちの家庭はさまざまで、子どもたちの話し方やコミュニケーションの取り方は一人ひとり異なりますが、適切な話し方で自己管理することを表現していくことが必要です。教師が、子どもに耳を傾けながら状況を把握していることを伝えることで、安心できる、大事にされているといった心理的安全性を確保できるとともに、落ちついた状態をみせることで、感情をコントロールする手本となることができます。

 

 常に冷静さを保つことは大人でも難しいものです。だれしもイライラしたり、不快に思ったりといった感情をもちますが、それを感情のコントロールを学ぶ途上にある子どもたちの前でどのように表現するか、教師自身の感情のコントロールと声の調子の訓練が必要になります。練習が必要な場合も多いでしょうが、練習することで目の前の子どもたちにとって適切な声の調子を保つことにつながります。

 また、別の活動に移行するときや注意を促す際には大きな声を出す必要もあるでしょう。怒鳴ることなく、冷静に対応すること、大声を出すのではなく、別の手段(ベルを使うや事前に合図を決めておく)を講じることも有効です。   


2.平等に対応する

 

 子どもが意見を言ったときや質問をしたときに、「いい考えだね!」「よい質問だね」というコメントをすることはよくあることだと思います。しかし、子どもたちのなかには敏感に反応する子どももいて、教師の自分への対応をよく記憶しています。自分の発言に対して、ほかの人の発言と同じ対応をとられなかったときー前に発言したクラスメイトは肯定的なコメントをもらったのに、自分はそうでなかったときーその子どもが次に発言する確率は高くなるでしょうか。 

 

 教師と子どもたちとの関係性が深まる前に評価を含めるコメントをすると、それがポジティブなものであっても、クラス全体の発言のしやすやや、心理的安全性の確保に影響します。発言してくれたこと、質問をしてくれたことの行為自体を認め、感謝すること、子どもたちに同じ対応をとり、コミュニケーションをしやすい環境をつくっていくことが大切です。


一人ひとりの子どもへの対応

 

 一人ひとりの子どもと接するときには、相手を理解するために敬意をはらいながら耳を傾ける聴くスキルが大切です。


 感情面のサポートについての研究でも、子どもが何かを相談しにきたり、不満を表したりするときに、批判することなく子どもの感情を認めること(例:「辛いね。傷ついてイライラするのは当然だと思う」)がのぞましいとされています。

 肯定的な発言においても、下記のように「どう感じるべきか」を意見し、子どもの感情を認めていないときが多くあります。

✖「明日にはよくなるよ!」ー感情を無視する

✖「そんなに気にすることじゃないよ」ー感情を却下する

✖「過剰反応だね」ー感情を批判する


 ただし、子どもの感情について完全にわかると伝えることも裏目にでることがあります。完全に子どもと同じ状況や感情を経験することは不可能です。自分はあなたのすべてをわかることができると言い切ってしまうと、子どもではなく話を聴いている相手側に注意が向けられてしまうことになります。似たような状況や過去の経験からその感情を想起し、共感することは大切ですが、子どもの独自の状況や立場を尊重して、「あなたの状況や体験を完全にわかることはできないけれど、動揺するのは無理ないことだよ」と子どもの感情を認めて受け入れることが、子どもの共感と関係性を育むことに繋がります。


 また、感情をコントロールする方法をシェアし、次にどうしたらいいかを話し合うことが有効です。このときに、「○○するべきだよ」と押しつけるのではなく、ある感情に圧倒されてしまっているときに、隣に座って子どもに寄り添うことが大切です。そして、その感情がずっと続くものではなく一時的なものであることを学べるように共にふり返る機会をもつことも重要です。


 子どもとのコミュニケーションでは、耳を傾け、敬意をはらい理解しようとする態度を示していたか次の点でふり返るのがよいでしょう。

  • コミュニケーションを丁寧に行い、その子どもにどれだけ集中していたか

  • 適切なアイコンタクト、表情、声の調子、言葉遣い、ボディーランゲージで、自分の感情を表現したか

  • 話し手の伝えたいことを理解したか


 日々のコミュニケーションのすべてを理想通りに行うことはできませんが、気をつけるポイントを頭に入れて、ふり返ることで、どんどんよいコミュニケーションがとれるようになります。そして日々の積み重ねが子どもたちとの関係性を築き、子どもたちの感情と社会性を育む力へとつながるでしょう。


参照:Providing Students With Emotional Support | Edutopia

   『感情と社会性を育む学び(SEL)』(新評論 2022年)