2024年7月21日日曜日

夏休みの間のSELの実践~自分のEQを高める

 子どもたちを適切にサポートするためには、まずサポートする教師自身がEQやSQを培うことが必要です。教室での教師の感情は、ポジティブなものもネガティブなものも子どもたちに影響します。そして、大きなストレスを抱えている場合には、客観的な評価や適切な対応をすることが難しくなります。また、教職員のSELを促すことによって、研究では、下記のようなさまざまな効果があることが指摘されています。

  • 燃え尽き症候群(バーンアウト)の低下、同僚との信頼関係の向上

  • 忍耐力や共感する力が高まり、円滑なコミュニケーションの促進、安全に学べる環境の構築

  • 子どもの感情と社会性を育む学びのより効果的な実践

  • 子どもたちとの関係性向上、教室運営の改善、問題行動の低減

  • 学校風土への積極的な貢献


 教師がうまく自己管理をできる場合、子どもたちに向き合いうまく対応することができるとともに、子どもたちの自己認識や自己管理能力を高めるためのモデルとなることができます。夏休みの間に自分の感情と向き合い、EQを高めることで、自分自身の生活や二学期以降の学級運営、子どもたちのSELにポジティブな影響があることでしょう。




 今回は、自己認識と自己管理能力、共感する力を高めるアクティビティについてご紹介します。すべてのステップで大切なことは、感情を受けとめ、客観的に捉えること、自己批判をしないようにすることです。


1.感情を認識する

 一日、もしくは一時間でも、自分の感情に注意を向けましょう。待ち合わせに間に合わずに不安なときには、「今、不安を感じている」と、友人に会えて嬉しいときには、「今、嬉しいと感じている」と心の中でつぶやいてみましょう。自分の感情を批判せずに、そのまま受けとめ、気づくことが大切です。ノートや日記に書きとめて、自分の感情をふり返るようにするのもよいでしょう。一言で言い表せない気持ちや、表現できる言葉が見つからなくても、思いつくままに書きとめてみましょう。

2.身体的反応を自覚する

 次に、身体が感情に対してどのような反応をしているのかに着目します。たとえば、閉まりかけたエレベーターに乗ろうとして、誰かがボタンを押して待っていてくれたとき、自然と笑顔になっているかもれません。これは、「感謝」という気持ちに対する反応です。もしくは、上司に話すときに、肩に力が入り、胃がキリキリし、早口になるのは、「防衛反応と不安」を感じているからだと認識できます。身体は、感情に影響を受けるので、自分の身体の反応に注意を向けることで、有益な情報が得られ、どのようにふるまうか決めることができます。たとえば、上司と話す際に不安を感じる自分に気がついたならば、深呼吸をして、肩の力を抜いて、ゆっくり話すことで、落ちつくことができるかもしれません。自分の感情に気がつき、言語化することで、無意識の感情に基づく行動を減らすことにつながります。


3.好奇心をもつ

 自分の感情に気づき、言語化することができたなら、その感情について考えてみましょう。「自分はいつもこの不安を感じるのか?いつから始まったのか?ほかの上司と話すときはどうか?どうして不安を感じるのか?」と感じている感情について客観的に考えることで、感情に捕らわれる状態を緩め、対策を考えられるようになります。


4. 自分の感情を観察する

 私たちはポジティブな感情もネガティブな感情も経験しますが、感情そのものではありません。感情を感じている自分自身を俯瞰的に捉えることができれば、感情に左右される意思決定を避けることができます。感情には、強力で長く続くものも、軽く一時的なものもありますが、永続的なものではなく、多かれ少なかれ常に変化するものだということを頭に入れておくことが大切です。

 さらに、ある感情を感じることで、自分のなかでどのような考えが生まれているのか、感情と考えのつながりを観察することも有効です。客観的に感情を捉えられるように習慣を身につけておくことで、より合理的な意思決定ができるようになります。


5.自分の感情が他者に与える影響に気づく

 自己批判に陥らないように気を着けながら、自分の感情が他者にどのように影響しているのか考えましょう。ここでは、「興味深い!まったく考えたことがなかった。自分が__を感じているときに、Xはこんなふうになっている」というような客観的な科学者のような視点が大切です。たとえば、自分はAさんに会ったときには、笑顔で接し、嬉しく感じ、あいさつをすると、Aさんは、満面の笑顔で、リラックスした面持ちで自席につくことに目を向けることができます。また、自分が疲れていて面倒くさいと思いながら市役所である書類を取りに行くときには、職員は、目を合わせずに機械的な対応をした、といったことが挙げられます。他者への影響に気がつくことが目的のため、観察し、言語化することが大切です。


 また、もし何か動揺するようなことがあった場合にも、周りの人に、気がかりや悩みがあること、今、この場にしっかりと集中するように努めること、いつもよりも集中力を欠くかもしれないこと、を簡潔に伝えてみると、周囲への影響がどのように変わるか観察してみるのもよいでしょう。

参照:

Strengthening Adult SEL & Cultural Competence | CASEL District Resource Center

A Practical Guide to Setting Up Daily Teacher Reflection | Edutopia

5 Simple Lessons for Social and Emotional Learning for Adults | Edutopia


2024年7月6日土曜日

夏休み中のSEL

 SELは、学校の中だけで行われるものかというと、決してそうではありません。

 その際たるものが、夏休み前や夏休み中に行われるサマーキャンプなどの宿泊行事です。宿泊行事にはSELの要素がすでに含まれているか、含めやすいです。

 長年、宿泊合宿は「安全、仲間/居場所意識の醸成、心身面の成長」を目的に行われてきました。体力や様々なスキル面の成長や練習の機会だけでなく、コミュニケーション、仲間との協働、忍耐力ややり抜く力を磨くことも意識していたと思います。

 ぜひ、後者の観点から行事の内容を見直したり、プログラムの一部を委託していたりする場合は、https://selnewsletter.blogspot.com/2023/06/sel.htmlで紹介されている本を紹介したりすることができます。あるいは、https://casel.org/blog/sel-skill-building-at-summer-camp/★の情報を担当者で読んだり、提供したりしてもいいかもしれません。

 また、学校の責任でする・しないにかかわらず、博物館や美術館訪問も、参加者の展示にまつわる考えや物語を共有し合ったり、質問を出したりすることで、新しい意味や理解をつくり上げたり、自分や他者理解につながります。日本のそういった施設では対生徒のプログラムを実施しているところでも、まだSELの視点を踏まえているところは少ないと思うので、担当者に本サイトや上記の本やhttps://casel.org/blog/sel-skybridges-museums-as-partners-in-social-and-emotional-learning/などを紹介してあげるといいでしょう。

 他にも、子ども劇場などの活動(ということは、学芸会も!)は、オーディションの段階から、練習、リハーサルや切符のプロモーション、そして公演までのすべてのステップがSELのスキルに満ちています。子ども劇場や学芸会の関係者には、次の情報を読んでもらうといいかもしれません。

https://casel.org/blog/sel-steps-into-the-spotlight-theater-as-the-perfect-setting-for-social-and-emotional-growth/

 図書館や映画館なども他者理解や自己理解に役立つ機会があります。たとえば、ディズニー&ピクサーによる最新アニメーション映画「インサイド・ヘッド2」が、81()より日本全国の劇場で公開されます。(日本では20157月に公開された「インサイド・ヘッド(原題は、Inside Out)」ももちろんお勧めです。9歳の女の子の頭の中を舞台に、そこに住む「喜び」「悲しみ」「怒り」「嫌悪」「恐れ」の5つの「感情」を題材としており、擬人化されたそれらのキャラクターを主人公に据え、彼らが少女を幸せにすべく奮闘する様子が描かれています。)

 公立図書館では、司書にSELの本を紹介してもらえるようにお願いします。もし、紹介してもらえなかった場合は、その司書の名前を覚えておいて、数日後に「いろいろ調べてみたら、結構SEL関連の本が出ていることが分かりました」と、

https://selnewsletter.blogspot.com/2023/11/sel.htmlで紹介されている本や、

https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=SEL%E3%81%AE%E7%B5%B5%E6%9C%ACを紹介してあげてもいいかもしれません。特に、司書が興味をもつのは、

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vS_cqoO1OnMIqJzMTAhIbd-UZZTNLZZY-STwjYf9UJg2XvCN5JHLg-PbphrteMzz_-a8F9eRmbce1Om/pubhtml のリストだと思います。そして、(このリストがすべてを網羅しているわけではありませんし、常に新しい本も出続けているので)これらの分類で、他にもお勧めの本はないか尋ねてみるのです。

 さらには、遠くに旅行に行く必要はなく、身近な町や地域を親子で(あるいは、小学生高学年以上なら友だち数人で)探検してみるというアイディアもあります。

https://casel.org/blog/exploring-the-city-discovering-themselves/

 教師が学校の中だけですべてを担おうとせず、子どもたちの感情と人間関係を育むのは家族も含めて社会全体の責任ですから、情報を提供することで相応の役割を担ってもらうようにしていきましょう。

 

★翻訳ソフトやChatGPTを使うと、8割ぐらいの精度で日本語にしてくれますので内容は把握できます。(私は両方ともほとんど使わないので、両方とも同じレベルと思っていましたが、よく使っている人によると、翻訳ソフトの方が精度は上のようです。)