アメリカで新年度が始まり一か月強が過ぎたころ、社会科の先生から保護者向けにEmailがありました。コミュニケーションの懸念と題したメッセージには、社会の授業で、アイデンティティ、価値観、思い込み、ステレオタイプ、偏見、特権、差別、人種差別、社会的弱者のためのサポート(allyship)について学んでいるとのことです。それぞれの言葉の定義と説明をしたあとのディスカッションでは、実際の経験を共有した生徒もいたこと、概ねよいディスカッションではあったものの、なかには、なかには間違って受けとめる生徒もいたと書かれていました。
自分の経験を話したことによる心理的影響など予見できないことがあるため、家庭でも何を学んでいるか子どもに聞き、何か問題があれば連絡をください、との旨が書かれていました。
州の社会科のカリキュラムは2018年の改訂によって、8年生(日本の中学二年生相当、多くのところでは、中学最後の学年)の社会科では、Civic education (公民/市民教育)へと重点がおかれるようになりました。子どもの学校では、Democratic Knowledge Projectによる“Civic Engagement in Our Democracy(民主主義と市民のかかわり”と題したカリキュラムを使っていますこのカリキュラムでは、1年を通じて、生徒が自分にとって何が大切なのか考え、自立しつつも他者と相互に貢献し合う、自信をもったチェンジメーカ―として社会に貢献していくことを目的としています。
全部で8つの単元に分かれており、さまざまな定義や民主主義社会の仕組みについて学びながら、常に自分についてふり返り、身の回りのコミュニティや社会にどのように関わっていくか考えていくことを重視したカリキュラムとなっています。
とりわけ、このカリキュラムの初めの「アイデンティティと価値観」単元では、それぞれの概念を学び、ストーリーを通じて、自分自身のアイデンティティと価値観について考えるとともに、歴史上の人物や現代の人物の個人の価値観やアイデンティティに触れ、人種差別や特権、それらを変えていくための活動、市民のかかわりといった社会的な現象について考えます。このなかで一人ひとりが自分が何に価値をおくのか、どういった人間なのか、コミュニティの一員としてどのようにありたいか、といったことについての自分自身のストーリーをつくり、希望者による発表で単元が締めくくられます。
まだ、カリキュラムの導入部分を終えたばかりですが、この数週間で、自分を軸に周囲とのつながりを考えるための問いやディスカッションに取り組んでいます。たとえば、
今年の目標は何か、成し遂げたいことは何か
目標を達成するためにクラスメイトや教師から必要なことは何か (子どもは、教師から必要なサポートとして、目標を達成する時間をつくるために宿題を減らしてください、と書いていました)
どんなときに自分の、学びがサポートされていると思うか、どんな環境がよいか
といったことから、徐々に自己認識を深めていきながら社会とのつながりを考えさせます。たとえば、生徒が向き合うことには次のものがあります。
自分が大切にしている価値観
自分の価値観が考え方や行動に影響を及ぼしていること
公民や民主主義について学ぶことはことの意義
権利をもつことの大切さや、人々がもつべき権利
最終的には、チェンジメーカーとなる市民・国民となるために必要なことや自分がどのように社会に貢献していきたいのか、そのために今どのような行動をとることができるのか、などといった課題について考えたり話し合ったりしていきます。
このカリキュラムのなかで、権利や自分の声が受け入れられない経験や、他者と異なり、批判されるかもしれない自分の価値観について共有することは、ときには勇気がいることです。中学の最後の年のカリキュラムであるということは、それまでにすでにそのような脆弱性を含めた自己について話すことのできる人間関係を築いている必要があるかもしれません。また、中学高校のさまざまな面では、ピアプレッシャーにより、自分の意志決定が大きく左右されてしまうことがあります。そのときのためにも自己認識を高め、社会問題について話し合い、社会を構成する一員としてどうありたいのか、どのように行動をするべきかを深く考える機会は大切だと思います。
また、親として、ティーンエージャーの子どもから積極的に学校で起きていることを聞く機会は少なくなってしまっていますが、今回、社会科の先生のメールにより何を学んでいるかを実際に目にすることができてありがたく思います。