2024年12月21日土曜日

生徒の成長マインドセットを育てる

 「成長マインドセット」を聞いたことがないという教育関係者は少なくなっていると思います。評価と成長マインドセットおよび、その反対の固定マインドセットは、とても密接に結びついています。

 そこで今回は、「評価で生徒の自己認識を育てる」https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html の第3弾として、②成長マインドセットを育てる に焦点を当てます。

 スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』のなかで次のように書いています(65ページ)。

従来の学校教育システムは固定マインドセットを強化してしまい、学習経験のあらゆる場面で生徒にある種のレッテルを貼りつけてきました。それによって生徒は、「得意」、「不得意」で評価してしまうという発想を容易に身につけてしまい、できないと教えこまれてきた分野の学習については、いとも簡単に取り組みをやめたり、嫌な気持ちや不安を抱いたりしています。

 この状態は、著者が活躍するアメリカよりも、入試や中間・期末テストで自分の能力を輪切りにさせられ続ける日本の方が、はるかに重症です。(この状態に対して、教師は無力なのでしょうか?)

 ちなみに、固定マインドセットと成長マインドセットをわかりやすく説明すると、次のようになります。「学校でうまくやっていくための才能は生まれながらにあるものだ、と生徒が考えているならば、その生徒は学びについて『固定マインドセット』をもっていることになります。一方、一生懸命に取り組めば誰でも学ぶことができると考えるのが『成長マインドセット』です。成長マインドセットをもつ生徒は、固定マインドセットの生徒よりも学校で現実にうまくやっていくことができます」(『感情と社会性を育む学び(SEL)』の107ページ)★

 下の表は、成長マインドセットと固定マインドセットの変化を表したものです★★。

 Kは幼稚園の年長組です。4年生以降の数字は、どうなると思いますか? また、これはアメリカでの数値ですが、日本で同じ調査をしたら、どのような数値になると思いますか?

 『成績だけが評価じゃない』の著者のスター・サックシュタインは、次のように書いて、具体的に成長マインドセットを育てる方法も提示してくれています(65~66ページ)。

教師として私たちは、すべての生徒に「自分には能力がある」ということに気づかせる責任があります。スキルのなかには、習得が難しくてより多くの練習を必要とするものがあるかもしれませんが、意欲的に取り組めば、その目標ですら達成できるようになります。(注訳)結局のところ、生徒に達成してほしいことがあるのなら、まずは「自分にはできる」と気づかせなければなりません。もし、生徒が「自分にはできない」といった固定マインドセットの言い方をしているのを耳にしたら、ていねいに優しく「やればできる」ことに気づかせて、その目標を支援するためのフィードバックを提供してください。このフィードバックは、小グループでのミニ・レッスンや直接指導、文書にした個別のフィードバック、一対一のカンファランス、生徒同士のピア・レビュー★★★のあとに教師も加わるなどといった方法で行えます。

 このあと、成長マインドセットを育てる際は、教師が使う言葉の大切さ、時間はかかっても繰り返し練習することの大切さ(勉強以外のスポーツなどの多くのことでは、それが当然のことと捉えられています!)、そして最後に「固定マインドセットにとらわれる瞬間は誰にでもあ」り、「進歩が見られず、手こずっているときに不愉快になったりイライラする場合があるけど、そのような感情から抜けだすためにも、『まだ分かっていないだけ』だと気づくことが大切」(66~68ページ)であることが強調されています★★★★。

 

★成長マインドセットに関するセクションは、上で紹介した2冊以外の本にも含まれています。『学びはすべてSEL』は60~63ページを参照(ここでは、「固定マインドセットをもつ人は、知性や才能を含む基本的な資質が変わらないし、変えられないという特性がある、となっています。才能だけが成功を生みだすと信じており、彼らは何か新しいものを習得するための努力を軽視しているわけです」と説明されています。また、特に63ページの図がわかりやすいので、下に貼り付けます!)、『SELを成功に導くための五つの要素』は121~122ページを参照してください(ここでは、「学習ゾーン」=ZPDとの関係で捉えられていますhttps://projectbetterschool.blogspot.com/2023/10/blog-post_15.html。残念ながら、日本ではまだこの捉え方も理解のされ方がとても弱いので、いい学びを子どもたちに提供できないままが続いています)。さらには、生徒指導にも成長マインドセットやSELが欠かせないのですが、残念ながら、それも弱いです。『生徒指導をハックする』の第5~7章https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794811691 を参照してください。

★★この表の出典は、本になることを逃してしまった『親と教師のためのマインドセット入門』(仮題)の21ページです。この本を読んでみたい方は、pro.workshop@gmail.comにメールしてください。

★★★「文書にした個別のフィードバック」は、https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784762033278 の第7章。「一対一のカンファランス」は、教師と生徒の一対一で行う対話形式の指導のことです。ある意味、教える際のもっとも本質的な方法と言えるでしょう。興味をもたれた方はhttp://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.html。「生徒同士のピア・レビュー」は、同じ著者によるhttps://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794811936 を参照ください。

★★★★ まだ分かっていないだけ』を含めて、使う言葉の大切さについては、前述の『親と教師のためのマインドセット入門』(仮題)および、ピーター・ジョンストン著の『言葉が変わる、授業が変わる!』https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784623081295 と『オープニングマインド』https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794811141 が参考になります。

2024年12月7日土曜日

形成的フィードバックで強みと課題を知る

 「評価で生徒の自己認識を育てる」の第2弾です。

 前回https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html 紹介した6つの可能性のうちの ①学習を通して生徒の強みや課題を認識し、感じることを表現するための方法 を紹介します。

 スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』のなかで次のように書いています(54~55ページ)。

形成的な学びと総括的な学びは誤解されています。私たちは、総括的に示された学習成果(期末試験の成績や学期末の通知表など)を重視しすぎて、そこに至るまでの形成的なプロセスを軽んじてしまうといったケースがあまりにも多いというのが現状です。

形成的な学び(評価)とは、学びがどのように起こっているのかを明らかにすることです。つまり、生徒がどのように取り組んでいるのかを確認したうえで、より良い取り組みや、学びを可能にするために役立つフィードバックの提供機会を指しています★★

 形成的な営みは成績に含まない場合が多いため(たしかに、含むべきではありません!)、生徒は(教師も・訳者付記)「意味がない」と思って誤解するケースが多いです。しかし、形成的な営みのなかでこそ学びが生じていますので、もちろん「意味がある」のです。教室での学習環境を整えていき、教室を、自分には何がうまくできて、どのような点は改善すべきなのかを見極める場所であると、生徒自身が信頼感を抱く必要があります。★★★

 このあと56~62ページにかけて、形成的な学び/評価を取り入れるための方法がいくつか紹介されています。

・具体的な教え方としてのプロジェクト学習とワークショップの授業

・授業中に支援を受ける機会を公平に提供すること ~ この際、平等との違いを認識する必要があります! https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E5%B9%B3%E7%AD%89

・生徒のスキルや知識を形成的に評価できる課題づくり

・生徒と一緒に作るルーブリック

 これら(特に、ルーブリック)は、「それぞれの生徒が『今どこにいるのか』が理解できるように手助けして、次のレベルに行くための道筋を提供すれば、生徒は自己認識を高め、いま必要としているものが何かを主張するための力を身につけはじめます」(63ページ)。 3つ紹介されているルーブリックのうちの一つを掲載します。

 生徒と一緒に目標達成のための基準(=ルーブリック)をつくれば、授業で何が期待されているのかが明確になり、知らなければならないこと、やらなければならないこと、そしてより重要な、どうすればうまくいくのかについて不安感を減らせます。しかし、すべての生徒がすぐに学べるわけではありません。私たち教師が「期待していること」が何なのかを、可能なかぎり明確にすれば、生徒はより自信をもって学習に取り組むようになります(64ページ)。

 ルーブリックの価値は、もちろん評価の見える化にもありますが、最大の価値は、生徒たちがまだ学習している間に自己評価+自己修正・改善を可能にして、より高みに自分を押し上げることができることと言えます。これは、これまでの評価の捉え方にはなかったものではないでしょうか?

 

★ここでは「学び」が使われていますが、「評価」に置き換えられます。

★★換言すると、形成的評価とは、まさに「指導と評価の一体化」を実現した教え方・学び方ということになります。

★★★これが、学級づくり、授業、コミュニティーとしてのクラスの核だと思いますが、あなたは実現できていますか? まだの方や自信のない方は、本書『成績だけが評価じゃない』の第1章「信頼できるだけの人間関係を築いて学びをサポートする」、『「居場所」のある学級・学校づくり』、『「考える力」はこうしてつける』などが参考になります。