SELのなかで自己管理は、「自分の感情と行動をコントロールし、目標を達成する」ことです。これには、目標を設定し、計画を立て、達成に向けて行動する経験を積み、目先の欲求に対して我慢する力や脳の実行機能(Exective function)を訓練していくことが大切です。
実現可能だと思える目標とそれに向けた計画、意欲がある場合、脳の学ぶ効率が最大限に高まります。そのためには、生徒自身が自分にとって意義のある目標を設定することが第一歩です。生徒自身に選択させることは、学びを自分のものと捉え、主体性を高めることに、そして、計画を実行し、目標達成に向かっていくことは、自己効力感を育みます。
今回は、一時間~一週間単位で目標設定からふり返りまで行うWhat I Need(WIN)という方法と、SMART Goalsという中長期的な目標を立てる方法をご紹介します。
What I NEED Time
What I Need(WIN)の時間では、目標を定め、自分で時間を管理することを経験します。たとえば、教師に質問や相談をしたり、終わっていない課題に取り組んだり、欠席したときの補習をしたりする時間です。さらには、学業的なことに限らず、生徒の興味関心、コンピュータのプログラミングやマインドフルネスの呼吸法を練習するなど、自己研鑽につなげる時間として使うこともできます。単に自習の時間とも捉えることができますが、制限のない自由な時間ではなく、目標設定や実行、ふり返りを含む意図的に計画された学びの時間です。
初めの5分~10分は、生徒にとって必要な日常的なスキル(ノートの取り方や、インターネットの使い方、教師にEmailを送るときのマナ―など)について教えるのもよいでしょう。ここでは、課題となっていることを乗り越えられるためのヒントを伝えることを目的とし、画一的な方法ではなく、ひとりひとりにとって最適な方法が見つかるようにさまざまな方法を紹介します。
サポートが必要な生徒には、その週に「面談するべき教員」のリストと面談可能な時間、場所、面談に必要な時間の長さ、優先度などが記入されたグーグルシートを共有します。生徒はそのシートを見て、もしくは、自分に価値のある時間の過ごし方を考え、残りの授業時間の目標設定フォームに記入します。WINの時間に何をするかとそれを行う理由、それぞれの課題に予測される所要時間、どのようなリソースが必要かを考え、記入します。
生徒はその後の時間で計画を実行します。終了時間5分前には席に戻り、目標を達成できたかどうかふりかえりシートに記入します。目標の達成に関わらず、次のWINの時間にどのような方法を使うかについて考えます。
SMART 目標
SMART Goalsの、SMARTは、次の意味です。
S: Specificー具体的 [達成したい/する価値がある具体的な目標] M: Measurable - 測定可能な [目標達成のための基準] A: Action Oriented - 行動志向の [目標を達成するための具体的な行動] R: Realistic - 現実的な [現状のリソースと制限を踏まえたうえでの実現可能なもの] T: Timely - 時宜を得た [妥当で集中力が切れない適切な期間設定]
娘の中学校では、学期の初めに健康目標を立てるために次のワークシートを使って行っていました。
まず、目標を決定し、ワークシートのSMARTの項目を考えます。その後、SMART目標を文章化します。(例「私のSMART目標は、______(S)です。_______となったら目標が達成できたことになります(M)。そのためには、_____の行動をします(A)。___の期間で達成できると思います(T)」)
次に、目標を設定する理由や、なぜその目標が大切なのかを書きます。そして、どのように目標を達成するのか具体的な行動計画を立てます。ここでは、何曜日の何時から何時まで、どこで何を行うのかということを記します。そして、目標が達成できると生活にどのような影響があるのかを選択します(満足感、ストレス軽減、自己肯定感の向上、体力向上、やる気の向上、人間関係の深まり、などから選択)。
最後に目標達成に向けて「私___は、この計画を遂行するために努力し、生活を変えることを誓います」宣言と署名をし、保護者からも署名をしてもらいます。
このSMART目標について、計画の調整や自分の行動をふり返る時間を定期的に設けます。
目標設定の期間に関わらず、これらのプロセスでは、生徒を評価するのではなく、生徒が自分でふり返るスキルを育めるようにすることが大切です。さらには、生徒が常に援助を求められる環境にすることが大切です。自ら必要なことを認識し、ほかに援助を求めることもスキルの一つです。必要なときに生徒が課題を共有したり、質問をしたり、目標達成に向けて計画の見直しやアドバイスをしたりすることを促すことも必要です。
また、目標が達成できたらどのようにして祝うか、ということを考えることで、目標に向けて肯定的で、探究する化学物質のドーパミンが放出されることにもつながります。
低学年でも、視覚的表現を用いることで、目標設定や、達成するための段階を考えたり、自分がどのあたりにいるかを認識したりすることができます。
参考資料
『感情と社会性を育む学び(SEL)』(マリリー・スプレンガ―著/大内朋子ほか訳、新評論、2022年)149-151ページ
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