2023年12月16日土曜日

問題行動への対処法(日米比較)

 生徒の問題行動が発生した場合の対処の仕方に、大きな違いが出始めています。

 問題行動には、大きくは二つのタイプがあります。一つは、授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動で、もう一つは、加害・被害がある場合です。今回は、前者に焦点を当てて、紹介します。

 

    授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動の場合

■日本での典型的な対処手順:

・当該生徒から話を聞く。教師は基本的に複数対応。

・何が起こったか、なぜそれをやったのか、その結果どうなったのか、などの事実の確認。

・当該生徒が自分の非を認めたならば、今後の方向性を確認。今後、何をするか、あるいは何をしないか、ということ。

・当該生徒の保護者に連絡。

 

アメリカでの対処手順:

 アメリカも最近まで日本での流れに近い形で行われていました。それも、担任(教師)がする代わりに、教頭の部屋に生徒が送られる形で。教頭の役割は、校則に従って罰則を科すというものでした。

しかし、それでは生徒たちは問題を再発しますし、問題行動を起こさないためのスキルが身につきません。そこで取り組まれるようになった方法があります。行動面で問題をもつ子どもを支援するための「問題解決コラボレーション(Collaborative Problem Solving)」です。この方法は、行動に課題をもつ子どもたちは重要な思考スキルが足りないという前提に立っています。

 「この思考スキルは、読み・書き・計算などの学習領域に含まれるというよりは、感情をコントロールし、自らの行動の結果を予測し、それが他者にどんな影響を与えるか理解し、自分が困っていることを他者に伝えること、または周囲の変化に計画的かつ柔軟に対処することに関連しています。(中略)課題をもつ子どもたちは、人生の社会性・感情・行動の課題に対処するためのスキルを習得していないのです」(『教師と親のための子どもの問題行動を解決する3ステップ』、17ページ)

 まさに、SELのスキルの欠如と捉えているのです。それらのスキルを身につけられるようにすることこそが、真の対処法だと!

 この本のタイトルにあるように、本のなかで中心的に説明されているのは、共感する、問題定義、提案の3ステップについてです。

それは、すでにこのブログでも紹介したことのある「デザイン思考」

https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%80%9D%E8%80%83 や https://projectbetterschool.blogspot.com/2021/05/blog-post_16.htmlと、作家の時間や読書家の時間の中心的な教え方のカンファランス・アプローチ(その具体的な進め方は、「大切な友だち」https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.html)と同じとも言えます。

 なかでも、最初の「共感」がとても大切★であることが、これら3つのアプローチから分かります。この「最初のボタンの掛け違い」が起こっていると、その後のステップは、すべて徒労に終わる可能性が大です。

 授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動を抱える子どもへの対処法を探している方は、『教師と親のための子どもの問題行動を解決する3ステップ』(ロス・W.グリーン著、日本評論社、2013年)がおすすめです。

 

    共感については、本ブログで連載しました。https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=%E5%85%B1%E6%84%9F

2023年12月2日土曜日

SELのプログラムに関する問い合わせ2

 前回の齋藤さんからのご質問に関連して、アメリカでの実践について情報提供させていただきます。

 実践においての障壁や難しい点、失敗談やうまくいったことなど、現場の先生のご経験から学ばせていただければと思います。


SELプログラム

 前回の記事の通り、SELはプログラムとしてではなく、日々の学習のなかに取り入れていただくのが一番だと思います。もちろん授業内容に即して「取り入れる」ことが理想的だとは思いますが、数分でできるアクティビティもたくさんありますので、授業の初めや終わり、時間があるときにSELのアクティビティをできるようにしておくのもよいかもしれません。


 日々の学びに取り入れることが必要だと認識したうえで、SELのプログラムについていくつかの学区の情報についてみてみましたが、Healthの授業の時間を系統的にSELを学ぶ時間に当てているところが多いようです。子どもの学校では、7,8年生に週に2回Health(67分、45分)の時間があり、そこでSELについて学んでいます。先月は、『感情と社会性を育む学び (SEL)』にも紹介されているグリッターボトルを作り、マインドフルネスについて学んできました。


 たとえば、7年生の場合は、Healthの授業で、自己認識、ストレス対処、必要なサポートへのアクセス、マインドフルネス、健全な人間関係、聴く力、アンガーマネジメント、対立の解決、いじめ防止などがSELに関連した項目が取り扱われています。


 また、小学校では、アートの時間にSELを取り入れていることが多くなっています。自己表現と合わせて、自己認識についてふり返る機会が多くあります。


SELアンケート

 子どもたちの実態把握のため、学区全体で、毎年10月、1月、4月にSELに関するスクリーニングを行っています。こちらは、Panorama Educationのアンケートを利用しています。項目は、子どもたちのグリット、成長マインドセット、日々の感情や自己認識、自己管理、社会認識、共感する力、学校の安全性、多様性、所属意識などを測るものになっています。


 アンケート結果を基にして、子どもたちに必要なことを日々の時間やHealthの時間に重点的に教え、実践の時間をつくっているようです。そして、子どもたちのアンケート結果の変化を一年を通じて、もしくは学年を越えて毎年みていくことで、SELに関連したスキルの成長を評価しています。


 また、子どもたちと同時に教師自身の感情と社会性に関わるスキルを評価し、必要な支援は何か考えるためにアンケートも実践している学校もあります。