2025年3月15日土曜日

生徒がセルフ・アドヴォカシー★をできるようにする

  https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html から始まった連載の最終回です。生徒が自己認識をもてた際の行きつく先の一つが、これだと著者のサックシュタインさんは位置づけています。

 最終的には、生徒自身が必要とする支援の主張ができるようになってから学校を卒業してほしいと思っています。この目標を達成するためには、まずは自分ができることと助けを必要とすることが何なのかについて、見極められるように教える(練習する)必要があります。また、生徒との関係性を高めれば彼らの決断を支えられますし、彼らがより質の高い質問をすれば、自分が本当に必要としている手助けが得られるでしょう。

評価とは、生徒が知っている事柄とできることを理解し、その情報を使って、生徒が成長を続けるためにカリキュラムの調節を行ったり、より的を絞った学習経験をつくりあげることです。的確にセルフ・アドヴォカシーができるようになれば、生徒自身が必要とするものを深く理解しますし、学習者としての自信がもてるような協力関係を教師との間で築けるようになります。(『成績だけが評価じゃない』の98~99ページ)

日本の教育界は「自立」ではなく、「自律」を重視する傾向が顕著にありますが、そのなかに「生徒自身が必要とする支援の主張ができるようになる」は含まれているでしょうか?

また、日本において「評価」をこのように理解している教師はどれくらいいるでしょうか? 評価とは何か、何のために評価するのかということを根本から問い直し、学習や支援にリンクさせる必要があるのではないでしょうか?★★

 そして、次のようにも書いています。

すべての生徒が、注視してもらったり、必要なときに支援が受けられる権利をもっています。時間を公平に使うという考え方のなかには、生徒に必要なものを提供したり、彼らが過ごしている場所で彼らに会ったりすることも含まれるべきです。

(現状では)あまりにも多くの生徒が、特別な支援を受けようとしなかったり、セルフ・アドヴォカシーの方法を知りません。どのような理由であれ、「助けてもらうことは悪だ」と感じさせたり、対話のなかにおいて提供されるべき情報に触れていなかったり、彼らを尊重しない方法で強制するといったことがない環境整備が重要となります。必要とすることをはっきり表現できるような環境をつくれば、生徒はエンパワーされ(人間のもつ本来の能力を最大限にまで引き出され)、何事に対してもうまくできるようになる機会が得られます。(同上、100~101ページ)

 学校での学びと評価を、早く以上のことが実現するように転換する必要があります。

 これまでの7回の連載(=本の第2章)のまとめとして、サックシュタインさんは次のように書いています。

 人間としての、また学習者としての自分自身を知ることになる「自己認識」は、成長するにおいて欠かせない要素です。自分のことをよく知れば知るほど適切な判断ができるようになり、人生の方向性を決めるような困難な経験に対してもポジティブになれます

 生徒に自己認識のツールを提供し、彼らが言うことに耳を傾ければ、学習空間における公平性が高まります。生徒の学習経験はそれぞれ異なっていますので、私たちは授業やそのほかの時間を使って、少しずつ違ったものを提供する必要があります

生徒が学習についてどのように感じているのか、どこで苦労しているのかを共有したり、彼らが必要とする支援の主張機会が多ければ多いほど、さらに上手な主張ができるようになるでしょう。自己認識を高められれば、今後の学習に対する取り組み方だけでなく、自己効力感を高めてくれることにもつながるのです。(同上、103ページ)

 下線を引いた部分は、すべてSELとの関係で捉えることができるのですが(しかも、日々の授業や生活のなかで)、あなたはそれらのどのくらいをすでに意識したり、実践したりしていますか? 一番長い下線の部分は、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』と関係しています。

原書では「self-advocate」となっています。主に障害者支援や特別支援教育の分野で知られている言葉で、自らの特性を認識したうえで、必要とする支援を求めて主張できるように指導する場面において使われています。教育以外の分野では、ハンディーを抱える人が自分のニーズを主張できるようにすることを意味します。

★★その際の大切な基準は、「それが生徒(と教師)の学びを促進するのに貢献しているか」ではないでしょうか? もし、それに貢献していないもの(通知表や指導要録など)は葬り去るべき筆頭にあがることでしょう。

2025年3月1日土曜日

授業を通して、学習気質★が身につけられるようにする

今回は、https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html の第6弾です。

スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない』のなかで次のように書いています(68ページ):

学習目標が達成できる学習者の具体的な特徴を生徒に知ってもらうことは、成長マインドセットを身につけるうえにおいてとても重要です。目標が達成できる学習者は、普段どのような行動をとっているのでしょうか? 生徒がそのような行動を実践して、自分自身のものにするために、どのように指導すればよいのでしょうか? その一つの方法が、教科の学習や感情と社会性(後者はSELのこと)の成長に直接関係している「学習気質」の力を利用することです

 この後、サックスシュタイン氏は、同僚のブルームバーグ氏が書いた論文を引用しながら、4種類の「学習気質」とブルームバーク氏個人「学習気質」に関する体験談を紹介してくれています。

 そのなかで一番分かりやすいのは、すでに日本語にもなっている「学習気質」を「思考の習慣」と同じものと捉えるアプローチです。これは、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』で紹介されている二つの柱の一方です。考え出した本人が紹介していますから、『成績だけが評価じゃない』で紹介されている内容よりも詳しくもあります。16種類の「思考の習慣」は、https://bit.ly/3XZmfbh で見られます。

 あなたは、これらは大切だと思いますか?

 どのくらいを、あなたの授業を通して生徒たちは身につけられていると思いますか?

 もし、まだあまり身につけられていないが、これらのほとんどは大切だと思う場合は、ぜひ『学びの中心はやっぱり生徒だ!』を読んで、それらを生徒に身につけてもらうステップを歩み始めてください。


 ブルームバーグ氏の「学習気質」に関する個人的な体験については、次のように書かれています(72~74ページ)。 

 (高校時代に)私が音楽を学んでいたころは、協奏曲のような難しい曲でも我慢して演奏できるようになるまで努力していましたが、幾何学の問題になると、一転してすぐに諦めていました。今にして思えば、当時の教師が私のことを受け入れてくれなかったり、「私にはできる」と信じてくれなかったことが原因だったのでしょう。

私にはできたはずなのです。もし、幾何学の教師が音楽の教師と話をする機会があれば、音楽の勉強において何年も困難に耐えて成功を収めていた私の姿を知ったことでしょう。私には、学習気質をつないでくれる「橋」が必要だったのです。

(中略)

歪んだ学習アイデンティティーをもっていると、うまく学ぶための力を低下させてしまい、困難な状況に置かれたときにうまく対処できません。多くの生徒は、自分の知識やスキルをある特定の場面では示せても、別の問題や新しい問題を解決するためにそうした知識やスキルを活用(応用/専門用語では、転移)するのが苦手です。

  (中略)

 ネガティブな学習アイデンティティーは、自分は相手にされていないと感じたり、疎外感を抱いたり(中略)と感じるような不公平な授業実践と学校方針によって強められてしまいます。たとえば、従来の成績評価では、失敗と成功のギャップを解消するために必要とされるフィードバックは生徒に提供されていません★★。

私が高校生だったころ、数学が苦手なのだという思いが、日々の授業における成績評価によってどんどん強くなっていきました。私が受けていたのは、小テストや課題、期末テストなどでした。

  (中略)

 もしかすると今、あなたの学校には、成績によって選別され、レッテルを貼られているシステムのなかにいるために「失敗した」と感じている生徒がいるかもしれません。そして、「苦手」意識や劣等感をもってしまっているでしょう。解決策が必要です!

 

 ブルームバーグ氏は、このような体験を通して、次のような結論を導き出しています(75~76ページ)。

問題を解決して、日常生活や仕事上での困難を乗り越えられるような回復力がある生涯学習者になれるように生徒を指導する、もしこれを目標とするのなら、生徒のなかに核となる学習気質を育てる必要があります。そして、思慮深く、自らについてよく理解し、必要な気質や関連する知的思考パターン(あるいは「思考の習慣」)の使用方法を知っている必要があります。そうすれば、困難は乗り越えられるのです。

生徒に学習デザインのプロセスに参加してもらい、学びの核となる学習気質の育み方をともに考えれば、生徒自身が納得し、オウナーシップ(当事者意識)が生みだせます。

生徒が学習のデザインプロセスに参加すれば、目標を達成してきた人はどのように考えて行動したり、感じたりしているのかについても学べます。気質に関する学習経験を一緒にデザインすることは、幼稚園から高校までの学校教育から高等教育、人生、そして職業面での成功体験において必要となる活用・応用力を育むためにも不可欠なのです。

 ウ~ン、これを実現するためには、ひたすら教科書をカバーする授業を教師ががんばって行い、教え終わった後にテストをし、点数や成績を生徒に知らせる方法は役立ちません。ぜひ、本書やサックシュタインさんの他の本や『学びの中心はやっぱり生徒だ!』を参考にしてください。

 

★この本では「学習気質」と訳しましたが、dispositionは他にも、「人となり、態度、性質、性向、特徴」などとも訳せます。

ちなみに、キャパシティー(capacities)は「その人の能力」や「その人ができること」を、dispositionは「その人の態度や性質/気質、さまざまな他の状況へのアプローチ(対応)の仕方」を指します。 

知人の中学校で英語を教えている先生が外国人のネイティブの先生に両者の違いを尋ねたところ、次のような例をわかりやすく示してくれたそうです。

「一緒にティーム・ティーチングをしていると、日本人のA先生の授業はすべて時間管理されていて、生徒に○○分と設定して、その時間どおりに授業が進んで行きます(キャパシティーの例)。一方、B先生は○○分と設定しても、生徒の様子をみて、フレキシブルに変えます(ディスポジションの例)。」

 なお「学習気質」は、文科省が大切にしている「主体的に学習に取り組む態度」とは似て非なるものです!(https://wwletter.blogspot.com/2023/11/blog-post.html を参照)

★★残念ながら、これがテストや通知表の実態と言えます!