新年度が始まります。その意味では、今回のテーマ(過去2回のテーマと合わせて)を考えるにはまたとないタイミングなのですが、日本の新年度は(欧米の夏休み明けと違って)忙しすぎます。おそらく、それが授業の改善をもたらさない最大の理由なのでは、と思わせるぐらいです。
SEL便り: 責任ある意思決定 の10回目です。
どういう授業を日々行う(=教え方をする)かは、カリキュラムと評価の仕方(他にも、学習環境や教師と生徒の関係を構築するか)★と並んで、学校レベルでの責任ある意思決定の大事な柱です。(しかし、この大事な責任と意思決定を放棄してしまっている学校が、あまりにも多すぎることがとても残念です!)
『みんな羽ばたいて』の第7章「教え方」は次の引用で始まっています(同、283ページ)。
一体、どこの世界で、30人を前にして、何かを「教える」なんてことが意味をなすのだろうか? みんな、同じことを学んでいるのだろうか? 誰がそれをいい考えだなんて思っているのだろうか? みんな、同じ内容を同じように学ぶ準備はできているのだろうか? 彼らの才能は、一斉指導で輝くのか? それとも、単に何かを説明する際の簡単な方法でしかないのだろうか? とりあえず、教科書内容を「カバーする」ために?★★
つまり、教科書をカバーする教え方は、生徒たちにとってはもちろんのこと、教師にとっても「教え方」と言えるようなシロモノではないということです。
とはいえ、「授業に決まったレシピはありません」(同、286ページ)と書いた後に、次のように整理してくれています。
それにもかかわらず、幼稚園から大学に至るまで、質の高い授業の原則と実践は驚くほど共通しています。生徒に焦点を当てる教師は、授業を計画し、実施し、振り返り、そして継続する際に、共通した問いを自らにするものです。(中略)生徒中心の授業を行っている教師に共通した問いと、慣例と誤解に基づいた実践を拒否することは、本書でたびたび触れてきた次の四つの哲学的な主張に裏打ちされています。
四つの哲学的主張は太字で、その中の項目は2~5つ紹介されているものから厳選したものを紹介します(これだけでも価値があるので、287~289ページをぜひチェックしてみてください)。
① 授業と教え方(=学び方)において、意思決定の中心にいるのは生徒です。
・生徒は、聞いた知識を単に「保存」するのではなく、一人ひとりが異なる方法で学習します。理解を表現する方法も、物事を理解する方法も、一人ひとりの生徒は違います。教師はクラス単位で教えるかもしれませんが、すべての学習は究極的に個人的なプロセスなのです。
② 授業の目標は、一人ひとりの生徒が教科内容の学び/感情と社会性の学び(SEL)を最大限に発揮するために必要とされる機会と支援を確実に得られるようにすることです。
・単にすべての生徒に教科内容を教えればいいわけではありません。目標は、一人ひとりの生徒が確実に学ぶことです。
③ 効果的な生徒中心の教え方は、必然的に知識や教科内容、評価、コミュニティーの三つを大切にします。
・より効果的な学びと、より効果的な教え方をサポートするための評価(これは、前回のテーマだった「形成的評価」)を活用します。
④ 生徒中心の効果的な教え方を行う教師には、以下の特徴があります。
・自分が教えている分野の専門知識、および生徒の教科内容の学び/感情と社会性の学び(SEL)を支援する教え方を学び、教師として成長しようとしている。
これら四つを押さえた教え方にはどんなのがあるかご存じですか? たとえば具体的な方法を挙げるとすれば、ライティングとリーディング・ワークショップ(作家の時間と読書家の時間)https://wwletter.blogspot.com/2010/05/ww.html、PBL(プロジェクト学習とプロブレム学習https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=PBL)などがあります。
欧米では、ハッティ―の学びの見える化の影響もあり、過去10年ほどExcellence
in Teaching and Learning (教えることと学ぶことの質的向上)を実現するための方法として、「High Impact Teaching Strategies」「High-Leverage
Practices」「Evidence-Based Practices」などが紹介されています。その例の一つが、オーストラリアの
https://www.education.vic.gov.au/Documents/school/teachers/support/high-impact-teaching-strategies.pdf であり、アメリカではhttps://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF の動きがあります。詳しくは、『インストラクショナル・コーチング』を参照ください。
★この点に関して、『みんな羽ばたいて』では、次のように書いてあります。「授業とは、すべてが一体となる場です。もっといえば、固い決意をもった教師が、すべてを一体化させるために最善を尽くすという場です。教えるということは、哲学、生徒と学びに対する信念、教師の役割に関する考え、コミュニティー構築の計画、カリキュラム設計、そして評価が融合し、よりよい未来に貢献するために過去と現在から学ぶという、人間特有の能力に基盤を置いた実写ドラマさながらの場なのです。ある研究者は、『学びに最も大きな影響を与えるのは、教室での日々の生活体験であり、それは、教師が何を教えるかよりも、どのように教えるかによって決まる』」と述べています(同、283~4ページ)
このいい例は、https://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlや、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.htmlで紹介されている本からイメージをつけることができます。
★★これは、教育を革新するために情報をhttps://www.teachthought.com/で発信している テリー・ハイクの言葉です。この引用に近い内容のものを紹介します。「学びは、一人の教師(たとえ、それが最高の教師であったとしても)の掌(てのひら)に収まりきるものではありません。『学ぶ』とは、本来、大人や生徒一人ひとりが未知の内容に夢中になり、自分のニーズや興味関心に従い、自分が納得できる形で意味を理解していくというダイナミックな経験だからです」(『一斉授業をハックする』3ページ)。その本で詳しく解説されている教室内に複数の学習センターを設けて、生徒たちに選んでもらう形の授業実践は、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』で紹介されている20ぐらいの効果的な教え方の筆頭に位置づけられています。