2026年4月18日土曜日

学校で「機能するチーム」をつくる鍵 ― 感情的知性(EQ)

あなたは、EQを知っていますか? IQは聞いたことがあると思いますが、1996年に日本でも発売されたダニエル・ゴールマンの『EQこころの知能指数』で一躍有名になりました。IQよりもEQの方が実社会でのパフォーマンスをより正確に予測すると主張されていました。この記事は、『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんが2015年の6月29日(アメリカでは夏休み中)に書いた記事です。

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チームとして何ができるか、どんな対話が生まれるかを最も左右するのは、メンバーのEQかもしれない。

 

 私は、チームづくりについての最大の発見のひとつをこれから共有しようと思います。この理解のおかげで、これまでの私なら決して思いつかなかったような行動を、グループで働くときに取れるようになりました。そしてこれは、教育者同士が協働し、共に学び、学校を変えていくための「効果的なチーム」をつくる鍵のひとつでもあると感じています。

おそらくあなたもEQという言葉を聞いたことがあるでしょう。自分がどんな感情を経験しているかを認識し、それを扱うための戦略をもち、他者の感情を読み取り、適切に反応する力のことです。チームリーダーの EQは非常に重要ですが、実は チーム全体としての集合的なEQ” というものも存在します。研究者によれば、これこそが「高いレベルで機能するチーム」と「平均的なチーム」を分ける決定的な要因なのです。

 

なぜ「チームとしてのEQ」が重要なのか

チームのEQは、そのチームが何を成し遂げられるか、どんな対話が生まれるか、そしてメンバーが会議にどんな気持ちで参加するかを左右する、最も重要な要因かもしれません。しかし、個々のメンバーの EQが高いからといって、チーム全体の EQも高くなるとは限りません。グループは、集まった瞬間に独自の性質を帯びるからです。

 

グループの EQ が低いときに見られる兆候

  • 話しているときに、メンバー同士が目を合わせない。
    話し手が特定の一人やリーダーだけを見る。
  • メンバーがテクノロジーや周囲のことに気を取られ、注意が散漫になる。
  • 話し合いの最中に、互いの発言を遮る。
  • 誰かが意見や視点を共有すると、最初の反応が「反論」「懐疑的な質問」「挑戦」になる。
  • 会議の進め方やプロセスについての質問が、何度も繰り返し出る。
  • 重要ではあるが、その場にふさわしくない、対立を生みそうな話題を持ち出す。
  • メンバー同士をけなしたり、攻撃したりする。
  • 一人の意見・混乱・反対・感情によって、会議全体が乗っ取られてしまう。
  • 他者(保護者、管理職、教育委員会など)への責任転嫁が多い。
  • 会話が、チームのコントロール範囲外のことばかりに向かう。
  • 個人の思い込みが「事実」として語られる。例:「うちの子どもたちには無理だよ」

 

グループのEQが高いときに見られる兆候

  • 誰かが話しているとき、メンバー全員と目を合わせようとする。また、メンバー同士が互いの意見を言い換えて確認する。
  • 新しいアイディアが出ると、まず興味好奇心が向けられる。
  • 「私はもうたくさん話したので、このテーマでは他の人の意見を聞きたいです」といった発言が自然に出てくる。
  • メンバー同士が互いに共感を示す。さらに、チーム外の人に対しても共感的である。
  • 会話の焦点が「解決策を探すこと」に向いている。
  • 誰かが感情的になっているように見えると、メンバーがそれに気づき、声をかける。例:「今どんな感じですか?少しつらそうに見えます。」
  • 話し合いの最中に、プロセスについてフィードバックをし合う。例:「ちょっと急ぎすぎて、全員の意見を拾いきれなかった気がします。他の人はどう感じましたか?」
  • 会議の最後にも、プロセスについてフィードバックをし合う。例:「最初の対話はとても助かりました。もっと次のステップを整理する時間があればよかったです。次回そこに時間を取りたいと思う人はいますか?」
  • ユーモアが適切に使われ、場の雰囲気やメンバーの気持ちに気づくきっかけになる。
  • メンバーが、前向きに捉えられることを見つけようとする。
  • チームへの貢献や行動に対して、メンバー同士が感謝を伝え合う。

 

グループにとってのさらなるメリット

EQの高いチームは、メンバー個々の気分だけでなく、チーム全体の雰囲気も上手に扱う方法をもっています。その気分のマネジメントは、必ずしもリーダーが担う必要はありません。むしろ、誰でも必要に応じて、雰囲気やコミュニケーションの流れ、人間関係の調整に関わる権限を自然に引き受けられることが、感情的知性(EI) の高いチームの特徴です。

多くの場合、メンバー同士がこうしたやり取りを調整する方法は、心地よく、適切に感じられます。EQの高いチームでは、仕事やチームの関係性をよりよくするための気づきや観察、提案が歓迎されます。たとえば、誰かが話しすぎているとき、別のメンバーが軽い調子でこう言うかもしれません。「はいはい、ジェームズ! そのアイディアが大好きで、すぐに取りかかりたいって気持ちはよくわかったよ。熱意はありがたいけど、ほかの人の意見も聞きたいから、ちょっと口をチャックしてね!」そして EQの高いチームなら、ジェームズは笑いながら口をチャックするジェスチャーをして、他の人の話を聞く側に回るでしょう。

チームにEQという概念を持ち込むことは、私たちがグループをどうファシリテートするかに大きな影響を与え、チーム内のさまざまな課題に対処する助けにもなります。ただし、目的は単に気持ちよく過ごすことではありません。チームがEQを育てるのは、互いの感情のスイッチを押し合うのではなく、互いの思考を押し広げる対話ができるようにするためなのです。

 

出典:https://www.edutopia.org/blog/key-effective-teams-schools-emotional-intelligence-elena-aguilar

 

 皆さんは、怒涛の年始を過ごされた(まだ、現在進行軽でしょうか?)ばかりかと思います。日本は、春休みが年度替わりの時期になっているので、欧米の夏休みと比較して極めて短いのが特徴です。ひょっとしたら、それが毎年同じことをせざるを得ない理由かもしれません。いかんせん、準備の時間が短すぎますから。授業も含めて、何事も準備が占めるウェートは大きいですから。でも、今回紹介する内容や次回紹介する予定の内容(=連載中の「責任ある意思決定」の最終回)などは準備の時間が不可欠な内容に思えます。

2026年4月4日土曜日

学校レベルでの責任ある意思決定: その5教え方 ― 生徒中心の授業をつくる

 新年度が始まります。その意味では、今回のテーマ(過去2回のテーマと合わせて)を考えるにはまたとないタイミングなのですが、日本の新年度は(欧米の夏休み明けと違って)忙しすぎます。おそらく、それが授業の改善をもたらさない最大の理由なのでは、と思わせるぐらいです。

 SEL便り: 責任ある意思決定 の10回目です。

 どういう授業を日々行う(=教え方をする)かは、カリキュラムと評価の仕方(他にも、学習環境や教師と生徒の関係を構築するか)★と並んで、学校レベルでの責任ある意思決定の大事な柱です。(しかし、この大事な責任と意思決定を放棄してしまっている学校が、あまりにも多すぎることがとても残念です!)

 『みんな羽ばたいて』の第7章「教え方」は次の引用で始まっています(同、283ページ)。

一体、どこの世界で、30人を前にして、何かを「教える」なんてことが意味をなすのだろうか? みんな、同じことを学んでいるのだろうか? 誰がそれをいい考えだなんて思っているのだろうか? みんな、同じ内容を同じように学ぶ準備はできているのだろうか? 彼らの才能は、一斉指導で輝くのか? それとも、単に何かを説明する際の簡単な方法でしかないのだろうか? とりあえず、教科書内容を「カバーする」ために?★★

 つまり、教科書をカバーする教え方は、生徒たちにとってはもちろんのこと、教師にとっても「教え方」と言えるようなシロモノではないということです。

 とはいえ、「授業に決まったレシピはありません」(同、286ページ)と書いた後に、次のように整理してくれています。

それにもかかわらず、幼稚園から大学に至るまで、質の高い授業の原則と実践は驚くほど共通しています。生徒に焦点を当てる教師は、授業を計画し、実施し、振り返り、そして継続する際に、共通した問いを自らにするものです。(中略)生徒中心の授業を行っている教師に共通した問いと、慣例と誤解に基づいた実践を拒否することは、本書でたびたび触れてきた次の四つの哲学的な主張に裏打ちされています。

 四つの哲学的主張は太字で、その中の項目は2~5つ紹介されているものから厳選したものを紹介します(これだけでも価値があるので、287~289ページをぜひチェックしてみてください)。

     授業と教え方(=学び方)において、意思決定の中心にいるのは生徒です。

・生徒は、聞いた知識を単に「保存」するのではなく、一人ひとりが異なる方法で学習します。理解を表現する方法も、物事を理解する方法も、一人ひとりの生徒は違います。教師はクラス単位で教えるかもしれませんが、すべての学習は究極的に個人的なプロセスなのです。

     授業の目標は、一人ひとりの生徒が教科内容の学び/感情と社会性の学び(SEL)を最大限に発揮するために必要とされる機会と支援を確実に得られるようにすることです。

・単にすべての生徒に教科内容を教えればいいわけではありません。目標は、一人ひとりの生徒が確実に学ぶことです。

     効果的な生徒中心の教え方は、必然的に知識や教科内容、評価、コミュニティーの三つを大切にします。

・より効果的な学びと、より効果的な教え方をサポートするための評価(これは、前回のテーマだった「形成的評価」)を活用します。

     生徒中心の効果的な教え方を行う教師には、以下の特徴があります。

・自分が教えている分野の専門知識、および生徒の教科内容の学び/感情と社会性の学び(SEL)を支援する教え方を学び、教師として成長しようとしている。

 これら四つを押さえた教え方にはどんなのがあるかご存じですか? たとえば具体的な方法を挙げるとすれば、ライティングとリーディング・ワークショップ(作家の時間と読書家の時間)https://wwletter.blogspot.com/2010/05/ww.htmlPBL(プロジェクト学習とプロブレム学習https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=PBL)などがあります。

 欧米では、ハッティ―の学びの見える化の影響もあり、過去10年ほどExcellence in Teaching and Learning (教えることと学ぶことの質的向上)を実現するための方法として、「High Impact Teaching Strategies」「High-Leverage Practices」「Evidence-Based Practices」などが紹介されています。その例の一つが、オーストラリアの

https://www.education.vic.gov.au/Documents/school/teachers/support/high-impact-teaching-strategies.pdf であり、アメリカではhttps://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF の動きがあります。詳しくは、『インストラクショナル・コーチング』を参照ください。

 

★この点に関して、『みんな羽ばたいて』では、次のように書いてあります。「授業とは、すべてが一体となる場です。もっといえば、固い決意をもった教師が、すべてを一体化させるために最善を尽くすという場です。教えるということは、哲学、生徒と学びに対する信念、教師の役割に関する考え、コミュニティー構築の計画、カリキュラム設計、そして評価が融合し、よりよい未来に貢献するために過去と現在から学ぶという、人間特有の能力に基盤を置いた実写ドラマさながらの場なのです。ある研究者は、『学びに最も大きな影響を与えるのは、教室での日々の生活体験であり、それは、教師が何を教えるかよりも、どのように教えるかによって決まる』」と述べています(同、283~4ページ)

 このいい例は、https://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlや、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.htmlで紹介されている本からイメージをつけることができます。

★★これは、教育を革新するために情報をhttps://www.teachthought.com/で発信している テリー・ハイクの言葉です。この引用に近い内容のものを紹介します。「学びは、一人の教師(たとえ、それが最高の教師であったとしても)の掌(てのひら)に収まりきるものではありません。『学ぶ』とは、本来、大人や生徒一人ひとりが未知の内容に夢中になり、自分のニーズや興味関心に従い、自分が納得できる形で意味を理解していくというダイナミックな経験だからです」(『一斉授業をハックする』3ページ)その本で詳しく解説されている教室内に複数の学習センターを設けて、生徒たちに選んでもらう形の授業実践は、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』で紹介されている20ぐらいの効果的な教え方の筆頭に位置づけられています。