2023年5月6日土曜日

SEL実践(2)感情のハイゾーンとローゾーンを知り、話し合う

 前回に引き続き、私が勤務するGIFTSchool(幼児から中学生までが通う全日制のフリースクール)での試行錯誤や振り返りを紹介します。(2022年度の前期に週に1回45分間、3~5年生の45人のグループを担当したときのことです。活動の設定や指導は、私ともう一人の教員が協働して行ったものもあります。)

 子どもたちは、自分の感情をありのままに出しすぎたり、ときにはしまい込み過ぎてしまったりするものですが、自分の心が今どんな状態にあるかを自分で感じられるようにするための学習・練習はとても大切だと考えるようになりました。自分の感情を認めることは、自分自身を認めることでもあるし、自分にとって心地よい状態に向けて自己を調整するための出発点となるからです。そこで、『21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ著、ダイヤモンド社、2023年)の巻末付録として下向依梨さんによって紹介されていた、「レジリエンスゾーンを意識する」というワークを行いました。

 初めに、様々な感情の種類を学んだときのことを振り返り、子どもたちに「どんな感情であっても、それが湧き起こること自体は止められるものではなく、そう感じたことは否定しなくてよい。自分が何を感じているかを感じようとすることが大事」というメッセージを伝えました。次に、誰にでも気持ちが高ぶるハイゾーンと、落ち込んだり無気力になったりするローゾーンの繰り返しがあること、ずっとそれらの状態にあり続けることはきっと辛いので、自分のコントロールが効くOKゾーンに戻って来られるといいという話をし、レジリエンスゾーンのグラフの例(図1)を確認しました。そして、一人ひとりが前日の夜から登校するまでの間のことを思い起こし、心の調子のアップダウンを話してみようと伝えました。

21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ著、ダイヤモンド社、2023年)206ページより引用。

 私は、ホワイトボードに人数分のOKゾーンを書いておき、一人ひとりの話を聞きながら、心の調子を表す線とその上下のきっかけとなった出来事を加えていきました。子どもたちの話はどれも率直で、私自身が子どもへの理解を深めることにも繋がりました。例えば、人混みが苦手な子は、登校中に繁華街を通過するときに、がくんとローゾーンへ落ちます確かに登校時にいつも元気がないとは思っていましたが、その辛さがよくわかりました。

心の調子のアップダウンに、両親や兄弟との関わりが大きく影響する子もいます。また、ゲームが大好きな子は、上がるきっかけも下がるきっかけもゲームのことであると知り、私自身が経験したことがない世界もあることを改めて意識しました。みんなで聞くことで、話している人に起きたことやその人の感じ方を受けとめる時間になったこともよかったです。

最後に、ローゾーンからOKゾーンに向かうための工夫にはどんなものがあるかを尋ねました。意外とどの子もアイディアをもっていて、ゲームや工作など好きなことをする、音楽やヨガで気持ちを落ち着けるといった意見を共有し合うことができました。ある子が、グラフを記録しているときに「兄弟が旅行で居なくて寂しいという気持ちを、逆に一人っ子気分を楽しめてよいかもと考えた」と話したことで、「捉え方も大事だよね」と子どもたちの方から話題になりました。また、寝坊からスタートしていきなり落ち込んでしまったという子が、自分のグラフを見直しながら「いっぱい寝られてよかったと思えばいいかもね」、兄弟とけんかして落ち込んだ場面については「いったん相手と離れるようにすればよかったかもね」などと話し、気持ちの切り替え方について考えることができました。

この時間は、子どもたちが自分の体験を率直に共有し、グラフに表すことで感情の変化を認識しやすくするという方法を学ぶ機会になったと思います。初回は私が子どもたちの話を書き留めて図にしましたが、以後は子どもたちが自分で自分の感情の波を表すことができるとよいと考えていました。クラス全体の中でプライベートな話をすることについては、子どもや集団の様子によっては配慮が必要かもしれませんが、子どもたちの中にあるものを言語またはそれ以外の方法で表出させる機会をつくることはとても大切だと感じました。さらに、日常的に、レジリエンスゾーンのモデル図を参考にして自分や他者の感情の状態を認識したり、定期的に子どもたち自身が心の調子をグラフに表現して振り返ったりすることができるよう、実践を重ねたいと思っています。
執筆:浅野聡子

★今回紹介した事例に関連する情報には、『感情と社会性を育む学び(SEL)―子どもの、今と将来が変わる』の121~135ページには「感情の温度計」「 ストレスの対処法を教える」「90秒ルール」などが、『学びは、すべてSEL』の68~76ページおよび93~126ページには、「レジリエンス」「4色のゾーンを使った感情の認識」「衝動のコントロール」「満足の遅延」「ストレス・マネジメント」「コーピング(対処・対応)」などが紹介されています。また、わたし、あなた、そしてみんな - Google ドキュメント のなかにも「気持ち」についてアクティビティーが12個紹介されています。今回の事例に近いのは、「今日の私の感情起伏線グラフ」「フィーリング・チェック」「気持ちに耳を傾けよう」などです。

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