SELの5本の柱は、このブログ(https://selnewsletter.blogspot.com/)の右側に表記されている5つですが、それを図化したものはhttps://selnewsletter.blogspot.com/2023/03/sel.html#moreで見られます。
動画だと(日本語ではないですが)、https://www.edutopia.org/video/5-keys-successful-social-and-emotional-learning/で見られます。(このURL以外にも、「social-emotional learning 動画」などで検索すると、大量の動画が見られます。)
以下では、4冊の本でSELがどのように説明されているかを紹介します。
1)『感情と社会性を育む学び(SEL)』(マリリー・スプレンガ―著/大内朋子ほか訳、新評論、2022年)
「Social Emotional Learning (SEL)は、日本語に訳すと、感情に向き合い対応する力であるEQ(感情知性)と、社会性に関わる力のSQ(社会的知性)を育てるための学びです。本書では、この感情と社会性の学びをSELと呼び、そのスキルをSQ、EQと呼びます。
SELには、社会認識と人間関係の構築、維持、修復などの社会性(SQ)と、共感する力、自己認識、自己管理能力などからなる自分と他者の感情と向き合い対応していく力(EQ)を学ぶことが含まれます。これらの力は、学校を越えて、社会で必要な力、学び続けるために鍵となる力です。子どもたちにとっての社会である学校では、子どもたちが日々の生活を通じて、SQとEQを鍛えていくことが必要です。学習レベルが異なるように、EQとSQも一人ひとり異なります。EQやSQを子どもの特性や性格と捉えるのではなく、学力と同じように、現時点での子どものEQやSQをふり返り、目標を立て、それに向かって学べる環境をつくることが必要です。基礎的な認知能力である読み書きや計算がその後の学びに必要不可欠なように、EQとSQも学ぶために必要な基礎的なスキルとみなし、その発達に取り組んでいくことが大切です」(訳者まえがき、 i~iiページ)
2)『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』(スター・サックシュタイン著、中井悠加ほか訳、新評論、2023年)では、CASELの5本の柱の内容について、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/01/blog-post_22.html で読めます。なお、この本はSELと評価/成績とを関連付けた本なので、評価との関係を若干強調する形の説明になっています。
このCASELの5本の柱の説明以外に、この本では、
「SELの核となる能力は、学習するときを含めて、生きていくうえで不可欠となる「思考の習慣」として研究者が提示しているものとなります。それらはすべて教えられますし、教えられるべきものです。また、誰にも居場所があるクラスを築くために、すべての年齢層の生徒と接する際には不可欠な要素となります。◆注・「思考の習慣(Habits of Minds)」については、69ページの表2-4(https://bit.ly/3XZmfbhおよび『学びの中心はやっぱり生徒だ!』(べナ・キャリックほか著/中井悠加ほか訳、新評論)を参照してください。◆
二人の教育コンサルタントが著した『生徒の尊厳を大切にした居場所のある教室づくり(Belonging Through a Culture of Dignity)』◆注・この本は未邦訳のため、日本のニーズによりマッチしている『「居場所」のある教室・学校づくり』を参照してください。◆のなかで「尊厳の枠組み」が紹介されています。ひとたび生徒のニーズを見極め、帰属意識の高い文化を築き、教える側だけでなく、教える相手の尊厳が尊重できれば、生徒は力を発揮して、より評価が理解されるような学習環境が築けるのです。
本書では、第1章から第4章までにおいて「CASEL」の能力を取り上げ、その内容と、生徒の感情と社会性のウェル・ビーイング◆注・健康で幸福であり、肉体的にも精神的にも社会的にもすべて満たされた状態を言います。◆を促進しながら、子どもたちの学びをより良く評価するために学校がすべきこと、そしてそれらの能力との重なりを説明していきます」(11~12ページ)
そして、「居場所の感覚を高め、違いを認め合う」については42~44ページで、学習の過程で得ることが求められている(それが得られていないなら、教育の成果はあるのか、と問われてしまうほど大切な!)「思考の習慣」ないし「学習気質」については詳しく68~77ページで説明されています。なお、後者の「思考の習慣」については、日を改めてこのブログで詳しく触れたいと思っています。
3)『学びは、すべてSEL』(ナンシー・フレイほか著、山田洋平ほか訳、新評論、2023年)では、6~10ページにかけて次のように説明しています。
SELにはさまざまな定義があります。それらは、学校や職場、そして地域での良好な人間関係を可能にする社会的・感情的・行動的、および性格(キャラクター)のスキルに焦点が当てられています。
これらのスキルは、生徒の学業に影響を与えるにもかかわらず、学校教育においては明確な指導対象とはなっておらず、「ソフトスキル」や「個人の特性」と見なされている場合が多いです。しかし実際には、無自覚かもしれませんが、教師はSELを教えているのです。ある教師が次のように述べています。
「私たちがどのように教えるかは、私たちが何を教えるのかと同じくらい生徒に対しては影響があります★。教室における文化が帰属意識と精神面の安全を反映しなければならないのと同じく、教科指導においてもそれらの能力を体現し、強化すると同時に教科指導もそれらの能力によって高められます」
意識するかどうかにかかわらず、教師はまちがいなくこれらの価値観を生徒に伝えているのです★。
★まったくその通りで、この部分の認識が乏しいです。もし、意識や認識が乏しいままだと、負の価値観やメッセージが生徒たちに伝わる可能性が大なのに・・・・!
SELのニーズに対処するための取り組みは、1983年の研究にまでさかのぼれます。その研究では能力(コンピテンス)を、「ニーズに対する柔軟で適応力のある反応をつくりだしたり、調整したりする力、および環境のなかで機会を生みだして活用する力」と表現しています。言い換えれば、有能な人々には適応力があり、適切な方法で状況に対応し、所属するコミュニティーのなかでチャンスを求めるということです。こうした力を、私たちは生徒に望んでいるのではないでしょうか。つまり学校は、これら一連のスキルが身につくように力を注ぐべきなのです。
年々、SELに対する考え方は進化してきました。1997年にSELが一連の能力で構成されていると示されましたが、別の研究者たちが以下の能力としてSELを説明しています。
•感情の認識と管理
•前向きな目標の設定と達成
•他者視点の理解
•生産的な対人関係の確立と維持
•責任ある意思決定
•対人関係の諸問題の建設的な処理
そして2005年、教科指導とSELの統合を推進することを目的として1994年に設立された非営利団体「CASEL(Collaborative for Academic, Social,
and Emotional Learning」が、相互に関連する五つの認知・感情・行動の能力を次のように定義しました。
•自己への気づき(自己認識)――自分の感情、価値観、行動を内省する能力
•他者への気づき(社会認識)――別の視点から状況を眺める能力、他者の社会的および文化的規範を尊重する能力、多様性を称える能力
•対人関係スキル――仲間や教師、家族、その他の集団との前向きなつながりを築き、維持する能力
•自己のコントロール(自己管理能力)――動機づけ、目標設定、計画遂行、自制心、衝動のコントロール、およびストレス対処法の使用を含む一連のスキル
•責任ある意思決定――自他の幸福を考慮した選択を行う能力
また、最新の書籍では、「ウォレス財団」のモデルによってSELの三領域が定義されています。
・認知の調整(自ら考えや行動を観察して、適切に修正する)――注意力や集中力を自らコントロールする「注意制御」、不適切な反応を抑制する「抑制制御」、「ワーキングメモリ(短期記憶)」と「計画性」、および柔軟に物事を考える「認知的柔軟性」
・感情の機能――感情の認識と表現、感情と行動の調整、および共感または他者の視点を取得
・社会的・対人関係スキル――社会的手がかりの理解、葛藤解決(いじめ問題など、対人関係上のトラブル解決)、および向社会的行動(ほかの人々や社会に貢献する自発的行動)
こうしたSELの捉え方の進化を踏まえて、この本の著者たちは、http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html の図に見られる「統合したSEL」の枠組みを考え出しました。
4)『SELを成功に導く5つの要素(仮題)』(ローラ・ウィーヴァ―ほか著、高見佐知ほか訳、新評論、2023年)では、
SELプログラムは学力向上にも役立ちます。学力とSELの統合を目的にして1994年に設立された非営利団体「CASEL(Collaborative for Academic, Social,
and Emotional Learning)」は、SELを次のように説明しています。
「SELは、子どもと大人が人生を意味あるものにするために必要となるスキルを身につけるのを助けるプロセスであり、自分自身や周りの人、そして仕事に対して、効果的かつ倫理的にかかわっていくために誰しもが必要とされるスキルを養ってくれます」(図1-5参照)
27万人近くの幼稚園児から高校生までを対象とした研究のメタ分析(2011年までに発表された213本の研究が対象)では、この主張を大きく裏づける結果が出ました。SELプログラムに取り組む生徒は、SELスキル、態度、行動に大幅な改善が見られ、学力が11パーセント上昇したことが分かりました。また、ある研究グループは、2006年に発表した論文のなかで次のように結論づけています。
「生徒のSELの発達を促すことは、学力向上の基盤づくりに役立つだけでなく、学習者にとって安全で思いやりがあり、包括的な環境を整えるための基盤づくりにも役立つ。それは、社会的責任をもつ市民であるための、普遍的な人間性(人を思いやる、善悪の判断ができる、人を尊重する)を育む環境である」(44~45ページ)
著者によって、SELの捉え方やCASELの5本の柱の解釈の仕方に微妙な違いがあります。CASEL以外のSELの柱ってありますか? また、SELのより分かりやすい説明をご存じの方は、pro.workshop@gmail.com宛に教えてください。