2025年7月5日土曜日

プロジェクト学習

SELの2本目の柱である「生徒が自己管理/コントロール能力を身につけることの大切さ」の初回では「時間の管理」を扱いましたが、2回目はプロジェクト学習です。『成績だけが評価じゃない』の著者のサックシュタインさんは、プロジェクト学習(Project-based Learning。以下、PBL)を、

「生徒が現実世界に存在する、個人として意味のあるプロジェクトに主体的に参加する学び方・教え方」1のことです。生徒が興味をもつ探究課題に深く取り組むことを求める「本物の学習体験」2を促進して、授業をサポートします。

 PBLは、自己管理能力やそのほかのSELの核となる能力を伸ばしながら、必要な学習スキルや内容知識を生徒が身につける最適な方法です(『成績だけが評価じゃない』の117ページ)。

と説明しています。

 PBLは、探究学習(https://x.gd/ATFao)やデザイン思考(https://x.gd/yV0dj)と基本的に同じもの(あるいは、とても似たもの)と捉えられます。この教え方だと、教科で押さえるべき知識面と、自己管理能力を含めたSELの核となるスキルを分けることなく一緒に身につく形で教えることができるという大きなメリットがあります。

 彼女はまた、『Rigorous PBL by Design(生徒が主体的に取り組むPBLの設計)』という本を引用しながら、PBLの特徴を次のように紹介してくれています。

 「優れたPBLをどのようにデザインすれば生徒が内容の理解を深め、最終的には知識を応用・活用できるのか。従来のようなやり方で授業を行い、簡単な試験やテストで評価するのではなく、生徒を巻きこみ、その過程で生徒が何を知っているのか、何ができるのかを実際に見取る教え方がPBLです。PBLには、継続的なフィードバックと問題解決が構造的に組み込まれているからです」(同上、117~8ページ)

そしてさらに、

問題解決型のアプローチの利点を指摘し、PBLを「21世紀にふさわしい成果に対応し、21世紀に必要とされる仕事に関連する行動を真似られ、現実世界の問題を実際に解決する機会を生徒に与えられる教育手段」と表現しています。

現実の問題を解決する機会を生徒に提供するだけでなく、取り組みたい問題を生徒に選ばせることもできます。これには、市民としての意識や社会的スキルを育むためのサービス・ラーニング4といった機会も含まれます(同上、118ページ)。

 中等学校の社会科教師のチャリティー・パーソンズ先生は、PBLを実践するポイントを以下のように整理しています(同上、119ページ)。

     生徒の生活に結びつける。

     現実世界の問題や複数の視点に結びつける。

     教室に探究者のコミュニティー★5をつくる。

     本物の評価★2を行う。

     生徒に考えさせたい質問を提案したいという教師の熱意を認めたうえで、生徒が主導権をとる。

この最後の点について参考になるのが、『たった一つを変えるだけ』ですので参考にしてください。サックシュタインさんは、プロジェクト学習について次のようにまとめてくれています(同上、120ページ)。

パーソンズ先生が提案するように、PBLは学習と評価のプロセスに生徒が参加するという素晴らしい方法です。生徒が授業中にプロジェクトに取り組んでいるとき、必要に応じて教師は手助けをしたり、生徒の生活や興味関心に結びつくスキルや内容を身につけるための実地経験も与えられます。また、プロジェクトは長期間にわたって行われるため、時間の管理や目標設定のスキルを磨く機会ともなります。

 通常の教科書をカバーする授業とは、生徒たちの取り組みはまったく違います! なにしろ、自分たちが教科書に合わせるのではなく、自分たちがしたいことに取り組むのですから!★6 そこでは、もはや授業時間という捉え方も存在しなくなります。生徒たちが主体的に取り組み始めたら、もはや授業時間というくくりは意味のないものになってしまいますから。生徒たちはいつでもどこでも考え続けたり、実験したり、書き続けたり、読み続けたりするようになるわけです。

 

★1・アメリカでPBLの普及でもっとも有名な団体がまとめた本が『プロジェクト学習とは』ですので参考にしてください(https://www.pblworks.org/what-is-pbl)。

★2・「本物の学習体験」とは、実際の生活や社会で直面するような現実的な問題場面での解決方法を考えることです。そのなかで生徒を評価するときは「本物の評価」と言います。「真正の」と訳されることもあります。教科書をカバーして、テストでその記憶力を測るような、学校(あるいは、授業)のなかだけで完結する学習体験を「偽物の学習体験」や「偽物の評価」と位置づけることで際立たせています。

★3・PBLには、ここで紹介されている「プロジェクト学習(Project-based Learning)」と「プロブレム学習(Problem-based Learning)」の2つがあります。両方とも略すとPBLとなり、その方法も、現実に存在する問題を扱って解決するという点でもまったく同じです。プロブレム学習については、『PBL~学びの可能性をひらく授業づくり』(北大路書房)を参照してください。

★4・ボランティア活動のように、教室で得た知識を地域社会において社会貢献活動を行うことです。学習者と地域社会が連携し、双方に利益がもたらされます。日本で行われているボランティア活動、キャリア教育、職場体験などとは大きな違いがあるので、それを明らかにすることで日本でも今後取り組むべき展望が見えてきます。

★5・教室のなかに「学習者のコミュニティー」ができることは、教科書教材を扱っている限りはなかなかハードルが高いです。主役は、教材であって自分たちではないことを、教師も生徒たちも薄々感じているからだと思います。それに対して、自分たちが主役と思えると、まったく違った「(教師も含めて)みんなで「よりよい学習者」になっていくコミュニティー ~ 共に助け合い、教え合い、学び合い、刺激し合う「学習者仲間」として存在している」関係が構築されるのです。https://wwletter.blogspot.com/2010/05/ww.html

 学校においては、教師集団がこれをモデルで生徒たちに示し続ける存在である必要がありますが、それを実現できている学校はどれほど日本に存在しているでしょうか?(それは、「校内研修」という枠組みで捉える限りは到底できるものではありません! 本文の最後に書いたような「授業」という枠組みから脱することができるような工夫をしないと、継続して共に助け合い、教え合い、学び合い、刺激し合う「プロの教師の学習者集団」を構築することはできません。それは、やらされてするもの(というより、仕方なくそこにいるもの)ではなく、やりたくて仕方がないから、やらなければ他の仕事に支障をきたすから、するものです。)

★6・文科省も、この大切さというか価値を知っているので、「総合的な学習の時間」を設けました(残念ながら20年を経て、風前の灯火状態ですが)。それではまずいと、今度は「総合的な学習(探究)の時間」と言い始めています。しかし、それらの関連であまりお勧めできるような情報に出会ったためしがないので、今号では普通ではあまり目にしない多数の本を紹介しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿