2025年8月2日土曜日

ストレスの管理

 SELの2本目の柱である「生徒が己管理/コントロール能力を身につけることの大切さ」の4回目は、ストレス管理です。

ストレスの管理について、『成績だけが評価じゃない』の著者のサックシュタインさんは、

生徒は、学習が成績に直結するかどうかにかかわらず、授業中に不安を感じたり、集中できない場合があります。また、パニック発作やそのほかの不安障害に苦しんでいる人は、ベストを尽くせません。どのような生徒がこの問題に悩んでいるのかを知り、彼らに恥ずかしい思いをさせないでストレスの管理をし、意欲的であり続ける方法を提供するシステムを用意する必要があります。さまざまな状況に対応できる安心安全で、柔軟な教室環境の実現を目指しましょう(同上、133ページ)。

 ◆このシステム構築に役立つ本として、①生徒の「不安な心」をサポートし、教師も生徒も安心できる学校をつくるためのヒントになる『不安な心に寄り添う』、②私たちのなかに約半分はいる内向的な人の最高の力を引き出す『静かな子どもも大切にする』、そして③いかに生徒のやる気を引き出すかではなく、生徒は挫折するのが当然という逆転の発想から考え出した『挫折ポイント』(3冊とも、新評論)がおすすめです。

と書いて、その大切さは強調していますが、その後の具体的な事例として紹介しているのは、①カウンセラーとソーシャル・ワーカーの活用と、②グループワークと個別学習への柔軟な対応に特化しているので(これらのテーマに関心のある方は、要チェックです!)、ここでは他の本からの事例を紹介します。参考にするのは、『学びは、すべてSEL』(以下、『学びは、すべて』と略す)と『感情と社会性を育む学び(SEL)』(以下、『SEL』と略す)の2冊です。(特に後者は、脳の機能との関連でストレスを捉えています。そして次のように書いています。日常的に教室では、ストレス反応システムが調節不全となっている生徒に直面します。とはいえ、ストレスやトラウマを経験しながらも調節不全に陥っていない生徒もいます。脳が一人ひとり違うように、ストレスに対する耐性もそれぞれ異なっています。逆境や困難、日常的なストレスに効果的に向きあうためには、誰かとつながりをもつことが必要です(最後には、いつも人間関係に行きつきます!)」123ページとしたうえで、「生徒がストレスと向きあえるようにサポートするには、どのようにしたらよいのでしょうか? 生徒がストレスに対処できなければ「学び」は生まれません。クラス全体でストレスを認識し、管理することができるように取り組んでいく必要があります」(129ページ)としています。

 ストレスと聞くと、悪いイメージしかないと思いますが、『学びは、すべて』では「快ストレス」と「不快ストレス」の2種類が、『SEL』では「良好ストレス」「負担ストレス」「毒性ストレス」の3種類が紹介されています。

 「快ストレス」ないし「良好ストレス」は、生徒が何かの競技大会や発表の準備をしているときに経験するもので、子どもの発達には欠かせないものです。人生の浮き沈みを乗り越えるには、脳に適度なストレスが必要」(同上、126ページ)とされ、快いと感じたり、やる気を刺激したりするストレスのことです。

一方、「不快ストレス」ないし「負担ストレス」は、家族の死などといった困難な状況に対して顕著な反応を示すもので、生徒にとってなす術(すべ)のないものです。この種類のストレスはしばらく続くケースがありますが、深い人間関係のもとに成り立つサポートがあれば回復できます。」(同上、126ページ)

 毒性ストレスは、不快/負担ストレスの最も重く、危険な形です。その対処法としては、専門の大人のサポートが必要なことを意味しますから、教室で対処できるものではありません。下手に対処しようとしたら、危険ですらあります。

 そこで、主な対象となるのは、「不快ストレス」ないし「負担ストレス」ということになります。それらへの対処法をいくつか紹介します。

   予測可能性――日課、スケジュール、決まった手順(同上、130~4ページ)

 習慣があることで、クラスは退屈になってしまうでしょうか? そうはなりません。予測できることは、生徒に【ゆとり】を与え、新しいことを学ぶための環境を整えます。もちろん、毎日繰り返してまったく同じことを行えば教師も生徒も退屈になり、その退屈さがストレスの原因となります。そのためにもバランスが大切です。習慣や決まった手順があると、挑戦したり、新しいことやちょっと変わったことをするための余裕が生まれ、教室での経験が楽しいものになります。注・これを授業に取り入れているのが『作家の時間』や『読書家の時間』、『社会科ワークショップ』などです。授業の時間の使い方はほぼ決まっています。ミニ・レッスンではじまり、生徒が「ひたすら書く・読む・探究する」時間を一番多く確保したあと、最後は振り返り/共有の時間となります。作家や研究者の多くが決まった日程で仕事をしているのも、そのほうが独創的な仕事ができるからです。

   90秒ルール(同上、134~5ページ)

 ストレスを経験しているときには、脳と身体を浄化するために90秒かかるという「90秒ルール」は、生徒に教えるなかでもっとも大切なルールといえます。この一分半の間に何が起こるかが重要です。負の感情をどこにも放つことができずにストレス要因が留まる場合には、自分自身が消耗します。

 この90秒間に建設的な方法で対応すれば、ストレスに対抗することができます。そうするために、私は生徒に簡単な対処法を教えています。頭文字をとって「CBS」と呼んでます。「Count(数を数え)」、「Breath(深呼吸をし)」、「Squeeze(握る)」です。

数を数えると脳が落ちつき、ストレスを起こす【きっかけ】となったこと以外に注意を向けやすくなります。そして、きちんと深呼吸をすることによって心拍数が下がり、体内をめぐっているストレス反応物質が減ります。90秒の最後に、ストレスボールや小さなぬいぐるみなど(もしくは、自分の手でも)、生徒にとって握りやすいものを握ることで落ちつきを取り戻しやすくなります。

他にも、③声の調子/話し方と④セラピー犬の事例が『SEL』の136~8ページでは紹介されていますので、興味をもたれた方はご覧ください。

 そして、同書の153ページには、様々な想定される状況と望ましい対応の仕方が表の形でまとめられているので紹介します。                                      

 『SEL』では、「生徒をサポートする前に、教師自身がストレスに対応しなければなりません」ということで、263~6ページで、この点についても言及されています。詳しくは、『教師の生き方、今こそチェック!』がお勧めです。

 

 もう一冊の『学びは、すべて』では、第3章の感情調整のなかに「ストレス・マネジメント」と「コーピング(対処・対応)」が含まれています。

 前者の事例の一つとして、「ストレスを感じているときにするべきトップ10」(『学びは、すべて』の122ページ)があります。これは、チャート(模造紙)にこのテーマで生徒が具体的な方法を順次追加していくという活動です。

「最初に挙がったものは主に呼吸、ストレッチなどでした。年間を通して、勉強でストレスを感じているときは、先生や家族、または友人と話すなどといった項目を追加していきました。これは、自分たちの周りにある支援のネットワークに気づいたことを示しています」

この事例を紹介した先生は、ストレス解消のための呼吸やストレッチの時間を設けたり、その経験について考え聞かせ注・読み聞かせのバリエーションで、読む代わりに、自分の頭のなかで考えていることを語って聞かせる方法です。詳しいやり方は『読み聞かせは魔法!』の第3章を参照ください。を行ったりして自ら手本を示しています。

 ストレスと不安のマネジメントを目的とした望ましいコーピング・スキルをいくつか紹介します。

   気晴らし(同上、124~5ページ)

教室や学校外で生徒が使える「健康的な気晴らしリスト」を作成します。そのなかには、自転車に乗ったり、近所を散歩したり、水を飲んだりする、手と手首の柔軟性を高めるための指のエクササイズをするなど、生理面における状況を変えるといったことを目的としているものがあります。また、ペットと一緒にいる、本を読む、音楽を聴くなど、精神面での気晴らしに役立つものもリストアップしています。

   人との交流(同上、125~6ページ)

 上のリストの一環とも位置づけられますが、「私たちは、生活のなかで話ができる人のリストをつくりました。両親、友人、兄弟、私(自分自身)……。この年齢になると、自分のことを心配してくれる人が周りにいることを思い出すだけで状況が好転する場合があります」

話すのに最適な人が自分自身というときもあります。一一年生に英語を教えているサミュエル・イトウ先生は、アリストテレスと古代ギリシャ語の「カタルシス(精神面における浄化)」という言葉の由来について生徒たちに教えています。

   ジャーナルを書く(同上、126ページ)

 「それは、ジャーナル注・日記が個人的な記録であるのに対して、ジャーナルは、自分が考えたこと、発見したこと、疑問に思ったことなどの記録です。さらに、交換することも可能ですので、学びの手段としても効果的です。興味をもたれた方は『増補版「考える力」はこうしてつける』(第6章ジャーナル)、『シンプルな方法で学校は変わる』(二九~三五ページ)、『感情と社会性を育む学び(SEL)』(九六~九九ページ)、『自然探究ノートーネイチャー・ジャーナリング』を参照してください。現在では、ブログやフェイス・ブックなども含まれるでしょう。を書くことです。私は、自宅の本棚に置いてある23年間のジャーナルを撮った写真を生徒たちに見せています」

イトウ先生は、地元のリサイクルショップで購入した全ページが空白になっているジャーナルを大量に保管しており、興味がありそうな生徒に与えると同時に、今は「ジャーナリング・モバイルアプリケーション」の使用を模索しています。このようなアプリはパスワードで保護されていますので(鍵付きの日記よりも優れている)、写真やビデオを含めることもできます。

 

なお、このテーマで書くにあたって情報収集をしていたなかで、以下の情報も見つけました。https://www.smartbrief.com/original/how-to-help-elementary-students-cope-with-stress 興味のある方は、ぜひ翻訳ソフトや生成AIを使って訳してみてください。

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