2024年4月20日土曜日

教員も生徒も大切にするSEL

2月に『SELを成功に導くための五つの要素』を読んだ江濱悦子先生(東京都英語教諭)が書いてくれた現時点での取り組む状況を紹介します。

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2年間の大学院での学びを終え、久しぶりに学校現場に戻ってきました。大学院での自分と、学校現場での自分の中で、一番違うことは何か?と冷静に考えると、「学校現場には、めまぐるしい感情が伴っている」と感じます。学校現場では私たち教員はたくさんの感情と共に生活をしています。学校にはたくさんの「人」がいます。生徒だけではありません。保護者、同僚、管理職、専門スタッフ等、様々な場面で、その人、その状況に応じて適切なコミュニケーションが必要となります。私たち教員はそのような状況でコミュニケーションに失敗しないように、かなり気をはって一日を過ごしています。今だから比較できますが、大学院で過ごした一日と学校現場で過ごした一日の疲れ方、自分でも驚くほど違います!

SELを成功に導くための五つの要素』を読み終わって私が最初に思ったことは、私たち教員にこそ、このSEL★という考え方と実践が必要だということです。先生が疲れ切ったままでは、今私たち教員に求められている、個別の生徒の支援などできないからです。現実、学校が好き、子供が好き、教えることが好き、様々な理由で期待を大きく膨らませ教師になったのに、理想と現実のギャップで苦しんだり、もがいたり、体調を崩したり、そして離職する先生方が多いことに心が痛みます。 今、教員に必要なのは、生徒をエンパワー(人間のもつ本来の能力を最大限にまでひきだす『SELを成功に導くための五つの要素』p223)ために、教師自身がまず、エンパワーされることではないでしょうか? 私たち教員だって支援が必要です! どのようにすれば教師がエンパワーされるか? そのヒントが『SELを成功に導くための五つの要素』にはたくさん書かれています。その基礎となる方法は教師が自身の「教師としての感情の器を大きくすること」(p213)ではないでしょうか? この本には、不快な感情に向き合う、EQ★★の開発・感情の状態に対応する、感情の境界線を引くなど、学校の中で実践できる具体的な方法が満載です。実際、初任からこれらの方法を知っていれば、私自身もっとストレスを軽減できたと確信しています。

この本を参考に私が今年、実際実践していることを紹介します。私の今年の目標は、学校で先生方(もちろん最終的には生徒に良い影響を与えるため)にたくさんの選択肢を用意し、当事者意識をもってもらうことで、先生方をエンパワーすることです。この目標を達成する為に、本で紹介されているエンゲージ・ティーチングの計画表(参考p361)

を作成しました。その過程で学年の先生方と協働で、私たちが育てたい生徒像、どのような生徒に育ってほしいかを共有したり、共有を基に子供達の強みを鑑み、現状を確認しながら計画を立てました。この計画表を基に、常に自身の実践を振り返り、修正しながら自分の目標に向かいたい、と思います★★★。

この本の前提には、効果的な指導法★★★★は習得可能で、実践で向上でき、教師一人一人が自らにしかない才能に気づき、強みをいかし、生徒に良い影響を与え教育者としての経験値を向上させることができるという考え方(p19)があります。そして、教師として大事なことを自分に問い続けることができる貴重な本です。教師というのは、「常に『教師になり続ける』という存在である。・・・信念をもって突き進む学びのなかで、そして自らが築きあげたものへの深い内省のなかで、教師は自分が何者で、何をしようをしているのかを見いだし続ける(p17)」のです。

 

SELは、「感情と社会性を育む学び」ないし「社会性と情動の学習」のことで、本ブログのテーマです。

★★EQは「こころの知能指数」ないし「自分自身や周囲の人たちの感情を適切に察知し、うまく扱う能力」のことを指し、従来重視されてきたIQ(知能指数)よりも、人が成功するにはこちらの方が大切言われるようになってすでに30年が経過します。EQの中味(および、その身につけ方)については、https://selnewsletter.blogspot.com/2023/10/eq.htmlを参照してください。

★★★「今私たち教員が作った計画表に生徒の代表(学級委員)の目標とする生徒の姿を併せて、協働で更に進化したものを作成中です。生徒の目標も入れながら生徒が理想の姿を絵で表してくれる予定です」とのことなので、それが完成次第、再度紹介させていただきます。

★★★★ここでいう「効果的な指導法」は、エンゲージ・ティーチングのことで「生徒たちが夢中で学べるように、教師が夢中で取り組める教え方」のことです。その具体的な方法については、『「居場所」のある学級・学校づくり』の第6章「生徒を惹きつける、生徒主体の授業が居場所の原動力」や、https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.html を参照ください。

2024年4月6日土曜日

新年度におすすめの活動

  教室内には、教師とひとりひとりの子ども、教師と子どもたち全体、子ども同士、それぞれの関係性が学級をつくります。新年度は、人間関係を構築し、深める絶好の機会です。成長途上にある子どもが人間関係を培うサポートをし、楽しい学校生活を送れるようにすることはもちろん、教師を信頼でき、安心して学習できる環境をつくることは、学業への取り組み方にも大きな恩恵があります。今回は、新年度活動に効果的な活動をいくつかご紹介します。


一人ひとりの子どもについて知るための活動

 子どもについてをよく知れば知るほど、教室で生徒のニーズを満たすことができるようになります。まずは、子どもの声を聞く機会をつくることが大切です。


「先生に_____を知っていてほしい」という文章を完成させる

 子どもに「先生に____を知っていてほしい」という文章を完成させてもらうと予想以上のことがわかります。子どもの答えには、「今年私のお父さんが死んでしまったことを知っていてほしい」といった深刻なものから、「大きい音に敏感なことを知ってほしい」といった学校生活に必要な情報、「○○のキャラクターが好き」のような趣味を知ることができるものとさまざまことが共有されるでしょう。子どもの感情や考え、置かれている状況を知る一歩になるとともに、子どもは、教師が自分のことを知ろうとしてくれていると感じることができ、新しい一年の関係を築いていく第一歩として効果的な方法です。

 これは、アメリカコロラド州の3年生の教師がはじめた活動で、彼女が日本で話した動画 あります


ランキング表をつくる

 これは、子ども自身にとっても自分の価値観と優先順位をふり返り、意思決定をする経験、そして、教師にとっては、子どもの現在抱えているニーズについてよく知ることができます。

 A4用紙の一枚には、一枚には1から12までの番号を書いた表、もう一枚の紙には、11の言葉:楽しむ、友だちをつくる、お金、物、見た目、家族、教育、ほかの人から尊敬される、健康、何かに秀でる、トラブルに巻き込まれないようにする、を書いた12マスの表を配ります。(白紙のA4用紙を二枚配り、子どもたちに表と言葉を書いてもらってもよいでしょう。)子どもは、12番目の空欄に自分にとって大切なものを足し、言葉の書かれたマスを切り取り、もう一枚の数字を書いた表に優先順の高いと思う順に並べます。

 子どもひとりひとり違うランキングができ、教師は子どもの志向を知ることができます。ほかの人と共有するのにためらいがない場合には、その順番に並べた理由とともに発表してもらったり、ほかの人のランキングをみたりすることで、自分との違う考え方をする人がいることを知り、さらに、自分と価値観の近いクラスメイトを見つけることもできます。


あいさつは一人ひとりの名前を呼んでする

 あいさつにクラスメイトの名前を含めるよう手本を示すと、子ども同士でも名前を呼んであいさつをしやすくなります。「おはよう、調子はどう?」と話しかけるのではなく、「〇〇さん、おはよう、調子はどう?」と聞くようにしましょう。名前を呼びあうことで、会話も促されます。ほかの人の名前を呼ぶのは、初めのうちは気まずく感じるかもしれませんが、教師が子どもたちの名前を呼んであいさつする場合、脳がその方法を認識します。自分の名前を耳にすると脳の特定の箇所、自己に関連づける働きをする内側前頭前皮質が活性化するとの研究があります。この領域は他者の所属意識や絆を育むことと直接つながっている箇所です。

 なお、アメリカでは、教師から子どもは姓ではなく名前(ファーストネーム)で呼ぶことが一般的で、子ども同士の間でも名前で呼び合います。学校全体での方針がある場合もあるかと思いますが、自己紹介の際に子どもたち同士の間でどう呼んでほしいか言ってもらうのもよいと思います。


クラス全体の活動


クラスの価値観を話し合い、契約を結ぶ

 価値観とは、何は正しくて何は正しくないかについての一般的な考えです。状況に応じて変わる規範とは異なり、価値観は一定のものです。そして、優先順位からは、自分が大切にしているものは何かがわかります。生徒と価値観について話し合い、クラス全体の価値観をつくり出しましょう。そして、意思決定が必要なときにはクラスの価値観を参考にすることが大切です。クラスの価値観を話し合ううえでは、一つの方法としてクラスで「契約」を結ぶことがあります。次のような質問を通じて話し合いを進めるのがよいでしょう。

  • 教師にどのように接してほしいか?

  • クラスメイトにどのように接してほしいか?

  • 教師は生徒にどのように接してほしいと思っているか?

  • 守られないときにはどのように対応するか?

 生徒は一人ひとりが質問について考え、考えを共有し、それをもとに合意できるように契約を組み立てます。合意できる契約文書が作成できたら、生徒と教師が署名をし、教室に掲示します。この過程を経ることで、生徒同士の交流が促され、自分の声が届いていると感じるとともに、契約に沿って自分たちをモニターし始めます。上の4つの質問とその答えを下に書くことで契約とすることもできますし、お互いに尊重する、よく聴く、共感を示す、親切にするなど、クラスの価値観を示す行動を並べることをもって契約とするのもよい方法です。


規範づくり

 社会規範を理解し、それに従えることは、社会認識上重要なことです。「向社会的なふるまい」とは、他者に利するよい行動で、個人的利益(私利私欲)によって突き動かされないことを意味します。社会的なスキル、ないし、向社会的スキルは、多くの場合、教師が学校や教室で設ける規範を通じて培われます。

 規範は、すべての生徒が関わり参加していくなかでつくられるべきものです。教科や内容によって異なる規範が必要なこともあります。たとえば、国語の授業では、読むときの規範と書くときの規範が考えられます。「読んで学んでいるときは、自分たちはどのように見え、どのように聞こえるでしょうか?」と尋ね、自分たちについて言い表す形容詞を考えてもらうようにします。集中している、静か、電子機器がない(タブレット端末を使って読まない場合)、みんなが参加できる、落ち着いている、不安がない、夢中になっている、などが挙げられるでしょう。また、「グループワークでは自分たちどのように見え、聞こえるでしょうか?」と尋れば、子どもたちはグループで課題に取り組むのに最も重要な規範を決めることができます。お互いを尊重する、共有する(分かち合う)、用意ができている、パーソナル・スペース(個人の空間)を侵さないなどの規範が出てくるかもしれません。「教室のルール(決まり)」」と呼ぶよりも「規範」と言うことで、ただ何をすべきかを指示するのではなく、どのようにふるまうかを表現することができます。

 教室や学校ではいろいろな規範を取り入れられます。重要なことは、生徒が向社会的になれるような規範をつくり、使っていくことです。事前に何をすべきか、どのようにふるまうべきかがわかっていることは、学校内外で生徒の役に立ちます。 


契約も規範について学年の途中でふり返り、改訂するのがよいでしょう。


子ども同士の関係を深める


二重に輪になって1対1のコミュニケーションをする

 子どもたちに二重に輪をつくります。それぞれの輪は同数の子どもが必要で、内側の輪の人は外側に、外側の輪の人は内側に向かって並びます。学級が奇数の場合は教師も加わる、もしくは、外側の輪に二人一組をつくるとよいでしょう。教師は、子どもたちが知り合い理解を深められる質問をし子どもは、向かい合っているパートナーと答えを共有します。数分したら、内側の輪の子どもに右に3つ動いてください、などと指示を出し、異なるパートナーと話せるようにします。慣れてきたら子どもにお題や質問を出してもらったり、教師も答えたりするのがよいでしょう。

 まずは、リラックスできるように。「山が好きか、海が好きか」「お寿司で好きなものは何か」など簡単な質問から始めることをおすすめします。慣れてきたら、一人ひとりを知るために「将来の夢は何か」「怖いものは何か」「学校行事で一番思い出に残っていることは何か」など、個人的な質問をしていくのもよいでしょう。

 なお、各教科でもディスカッションや意見交換をするときにも同じように行うことができます。



 新年度に取り入れやすい活動をいくつか紹介しました。一年間のSELを充実させるためにもぜひ取り入れてみてください。


参照