2025年2月16日日曜日

目標達成に向けて適切な行動を実行する「実行機能」とSEL

  あれもこれもやりたいことはたくさんあるのに実現できない、やる気が出ずにいつまでもゲームをしたり動画を見たりしている、試験前日に焦って勉強を始めたが間に合わずにあきらめる、やらなくてはいけないことをどんどん先送りにしている、だれしもこんな経験はあるかと思います。これに大きく関わるのが実行機能(Executive Function)で、今回の投稿では実行機能とは何か、実行機能を育てるために教室でできる簡単な取り組みついて紹介します。

 実行機能(Executive Function)の発達はSELと深く結びついています。実行機能は、脳の前頭前野に位置すると考えられる目標に達成に向けて、思考、行動、情動を制御し、適切な行動を実行する機能の総称と定義されます。人間の自動的な反応を目的指向的にコントロールするシステムであり、効果的な問題解決や知識獲得への取り組みを規定する機能ともいえます。

実行機能には、主に下記の3つの要素があるとされており、一人ひとりの発達段階は異なります。

  • 優位な行動や思考を抑制する「抑制」

  • 課題や行動を柔軟に切り替える「切り替え」

  • ワーキングメモリに保持されいている情報を更新する「更新」


 また、実行機能は脳のさまざまな部位の活動によって影響を受け、感情やストレスとも関連が深いとされています。このため、刺激が強すぎたり弱すぎたりすることにより、実行機能がうまく働かなくなってしまうことがあります。感情やストレスをうまく調整しながら、実行機能がうまく働くための環境をつくることが大切です。


 目標に向けてやる気のない子、取り組めない子だと認識するのではなく、教師、そして子ども自身が目標達成のためのどの部分が苦手なのかを認識し、それをサポートしていくこと、障壁をなくす工夫を示すことが実行機能を育てることにつながります。たとえば、何かをやり遂げる場合の障壁となる段階には次のようなものが考えられます。一人ひとりの子どもによって苦手な側面は異なります。


  • 実現可能な計画を立てられていない

  • 途中で計画を修正することができない

  • 取り組み始めることが難しい

  • 取り組むことはできるが、続けることが難しい

  • 取り組み始められるが、途中でやめられなくなってしまい、時間の調整ができない


 実行機能がうまく働く環境を整え、実行機能をサポートする第一段階として、カリフォルニア州の教育セラピストは次のようなことを提言しています。


一日(授業)のはじめに、学ぶ意欲を測る

 空腹や疲れ、ネガティブな感情など、学びとは別の部分で子どもが学ぶ準備ができていないことはよくあります。子どもに自分の状態を見つめる機会を提供し、何が学びの障害となっているのか、なりうるのか認識してもらうことが大切です。


実行機能に関する言葉にする

 大人が頭のなかで自動的に計画を立て段階を経て行っていることでも、子どもは、目標達成までの過程を思い描けずに失敗してしまうことは多くあります。「この課題に取り掛かることが難しい。どうしたら取り掛かれるだろう」「成果物がどのようなものかイメージできない」「この課題に対しては、小さなタスクを設定して、時間をうまく使えるようにしよう」など、目標を達成するために通常必要なステップを教師が言葉にすることで、子どもたちが課題を実現可能なものとしてとらえやすくなります。


障壁を予測する

 だれもが過程のどこかでつまづくことを前提として話し、子どもに心の準備をさせることで、実際につまづくときの感情の揺れが小さくなり、自分に向けた否定的な心の声も少なくなります。課題に取り組み始める前に、どのようなことが難しいと思うかクラスでブレインストーミングをし、実際に起きたときの対処法も考えておくとよいでしょう。


実行機能のどの部分が得意なものからランクづけする

 子どもたちでグループやペアになって、得意な子どもからどのような方法やコツがあるか意見交換をする。


 実行機能を発達させるためには、どの部分が得意不得意かを認識し、自分に合う方法をいろいろと試していくこと、よく考えずにときには自動的に行動している選択に目を向けさせることで意識的に選択を行うことで、目標達成に向けたよい意思決定と行動につなげていくことが大切です。

2025年2月1日土曜日

生徒に学びの振り返り方を教える

 生徒が目標を設定し、学習に取り組んだ後(ないし、取り組んでいる最中に)、効果的に振り返られるようになるためには、取り組んできたこと(いること)やその過程を見直す機会が必要となります。

 『成績だけが評価じゃない』の著者のサックシュタインは、次のように書いています。少し長くなりますが、大事なことが書かれているのでそのまま引用します(84~85ページ)。

振り返りとは、学習に関する態度や性質/気質(disposition)★であると同時に、自己認識の核ともなる部分です。生徒には、「振り返り」とは何かを明確に伝え、なぜそれを行う必要があるのかについて説明します。生徒に対して「振り返り」という言葉を使うときには、それが意味している(期待されている)ことを全員が同じく理解できていなければなりません。

 単に「振り返り」とは何かを明らかにしておくだけではなく、そのなかで気づいたことの先にある次のステップを生徒がはっきりと認識できるようにすることが大切です。苦労したことやうまくいったことがはっきり分かるようになったら、「さて、次はどうしようか?」と問いかける必要があるのです。つまり、苦労したことで学習者としての自分はどうなったのか? 自然任せではできない事柄をやり遂げるための忍耐力をどのようにして身につけるか? さらには、どうすれば「自分自身の振り返りを振り返る」ことができるか? といった問いかけです。

 生徒に効果的な振り返りをしてもらうためには、まず振り返りを行うプロセスについての「足場かけ」を行う必要があります。ルーブリックと目標達成のための基準を用いた形式的な課題のように、振り返りを教え、練習し、具体的なフィードバックによって評価される必要があります。

私の経験では、ほとんどの生徒が、振り返りには学んだ内容をある程度特定することが含まれていると理解しています。一方、学習経験についてよかったことや、気に入らなかったことを共有する機会だと勘違いしている生徒も少なくありません。共有すること自体は悪くはありませんが、私がここで取り上げたいのはそういう意味ではありません。生徒は、以下の三点について書く(いたり、発表したりする)必要があるのです。

(1)課題で求められていることについての自分の理解

(2)自分がどのように課題を完成したかの説明

(3)ルーブリック(評価基準)に照らしあわせて、課題をどのレベルで完成できたのかについての振り返り

 

取り組んできた学習のなかから取り出した証拠を使って、自分がこれまでどのように学んできたのかについて理解している事実を示さなければなりません。とくに三番目については、生徒がもっともフィードバックを必要とする部分です。

 ここまで読まれて、あなたがこれまでに捉えていた「振り返り」の理解や実践と同じですか? それとも違っていましたか? どんなところは修正しよう/できると思われましたか?

 このあと、サックシュタイン氏は、生徒や卒業生の振り返りに関する取り組みや感想の実例を5つ紹介してくれています。生徒の実際の振り返りの記録や、それを体験した人たちの声ほど大切なものはないからです。あなたは、このように「振り返り」に関して生徒たちの声を聞いた/求めたことはありますか? 簡単なことですから(たとえ、卒業生であっても!)、すぐに尋ねてみてください。その際、大切なのは本音で応えられる状況をつくることです。本音が言えない/書けないと、振り返りの意味はほとんどありませんから。

 そしてサックシュタイン氏は、振り返りについて、次のようにまとめています(94~95ページ)。

 振り返りの目的は、生徒が設定した目標を取り上げて、使った方法について説明し、それがどのようにうまくいったのか(あるいは、いかなかったのか)、またその理由について論じながら、はっきりと具体的に自分の学びについて語ることです。

このような情報が最適となるデータ収集につながり、現在やこれからの学びを強化するフィードバックhttps://selnewsletter.blogspot.com/2024/12/blog-post.htmlを可能にします。また、生徒の声を尊重して、それぞれの生徒が適切なペースで進んでいけるような、情報提供に関する評価を今後開発する際にも役立つでしょう。

 振り返りについての『SELを成功に導くための五つの要素』(89~90ページ)からの情報も紹介します。

 この本の著者たちは、ロビン・ジャクソンの「振り返りは、私たちの思考や行動をよい方向に変えるためにもっとも効果的な方法です」をまず紹介しています。ちなみに、これは約100年前にジョン・デューイが言っていたことと同じです。

「振り返り」(本書のなかでは「自己を見つめる」とされています)というのは、以下のようなことができる力を養うことです。

(1)自己の内面へと目を向け、自分の思考や行動、またそれらを引き起こすきっかけ(トリガー)が何であるのかに気づくこと。

(2)気づいたことを振り返ること。

(3)意志に基づいて行動を選択すること。

(4)必要に応じていつもの行動を変えること。

 日本ですでに広範に起こっている「振り返り疲れ」https://note.com/daisukesensei/n/n57c6eeb73208のなかで行われているのは、これら4つのうちのどれでしょうか? 4つすべては行われているでしょうか? あまりにも、(2)だけで捉えていないでしょうか? 残りの3つをしっかり押さえるには、どうしたらよいでしょうか?

他の関連情報:①https://wwletter.blogspot.com/2023/11/blog-post.html

       ②『「考える力」はこうしてつける』 ~ 本全部が振り返りに関する本と言えます。原書のサブタイトルは、Developing Strategies for Reflective Learningですから。別な言い方をすると、「指導と評価の一体化」を実現するための本です。

 今回は、https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html の第5弾です。

★これについては、次回の第6弾で詳しく紹介します。