4月16日のNHK総合テレビ「クローズアップ現代」で、感情をうまく表現できないことが社会問題をつくりだす原因になっており、それには「感情リテラシー」を育む教育の実践が鍵ではないかと紹介がありました。大阪のある小学校では、それを年間通して取り組んだところ、校内暴力が激減したそうです。「子どもたちを暴力や犯罪から守るために大切なことは何か」を考える番組でした。
まさに、この同じ現象に欧米では30年~40年前に遭遇し(というよりも、問題自体はもっと前からあったのを、切実な問題として認識したのがそのころ!)、SELの普及に動き出しました!
それは、「生徒たちは、カバンと教科書だけを持って教室に来るわけではありません。生徒一人ひとりが精神的・感情的・身体的に異なる状態で登校しており、学ぶことに対する準備や意欲も異なっています」(『感情と社会性を育む学び(SEL)』の76ページ)という認識です。これに対して、日本の教育界は、授業や学校は感情・精神面や人間関係とは切り離した認知・知識面だけに絞って行われるべきという旧来の考え方が主流になっていないでしょうか?★
感情や社会性と日々の暮らしのなかで私たちがしていることはすべて切り離せないという理解にたてると、「教室において生徒が何らかの問題行動を起こすときには、何かしらの感情が働いてその行動を起こさせているのです。よって、問題行動の原因となっている感情や気持ちを特定するためにサポートしていくことが必要となります」(同上、76~77ページ)。
先のNHKの番組で急増する闇バイトに関わる若者たちが抱えていた問題も、上記の状態とまったく同じであることが紹介されていました。学校でも、学校以外でも、自分の感情や気持ちおよび社会性について学んだり練習したりする機会が提供されていなかったことが明らかにされていましたし、練習さえすれば、誰でも身につけられるスキルであることも明確に示してくれていました。そして、そのために、番組では次のような具体的な3つの方法が紹介されていました。
●激怒・烈火のごとくなどの言葉を怒りの感情の大きいと思う順番に並べていく「言葉のバブル」。これによって、怒りにも多様な感情があること、人によって感じる感情の強さが違うことを学ぶ。
●話し手が一つの感情を表す言葉を特定して、その時に起こった出来事を聞き手に話し、聞き手は似たような感情の中から話し手が選んでいた感情を当てる「感情のグラデーション」(『学びは、すべてSEL』の89~96ページでは、「感情の輪」として紹介)。
●多様な感情を表すムードメーターを分かりやすく色分けした「きもちことばマップ」の作成。番組で紹介されていたのは、授業で扱われていた絵本『スイミー』の主人公の感情を言葉で表すことを学ぶ事例(『学びは、すべてSEL』の97~98ページには『ポピー:ミミズクの森を抜けて』を扱った事例が紹介)。
上記の番組では「感情リテラシー」に焦点を当てていましたが、『感情と社会性を育む学び(SEL)』では、「感情は(私たちが気づかない場合にも)行動を決定づけるものであり、不適切な行動につながることもあります。さまざまな状況で自分自身の感情を認識し、感情を特定する力が『自己認識』です。この自己認識は、『あなたは悲しそうだね。お人形をなくしてしまってとてもがっかりしているね』などというように、第三者がその人の感情を認識し、表現するためのサポートをした結果、育まれるものです」(同上、77ページ)
感情リテラシーを高めるだけでは限界があるからです(下に示すように、出発点ではありますが)。SELでは、自己認識を次の5つのものとして捉えています。
感情を特定する――自己認識は、自分自身の感情を名づけ(言語化し)、分類することからはじまります。
自分を正しく認める――これには、自分自身について客観的な見方をすることが必要で、周囲からのフィードバックと自分自身の振り返りによって、自分について客観的な見方ができるようになります。
自分の強みを認識する――自己認識を育むためには、一人ひとりに特有の強みと弱みを認識してもらい、強みを伸ばし、弱みに対応していくことが大切です。
自信をもつ――自分自身の強みを認識し、発揮できるようになると自信が育ちます。自信をもつことは、自己認識を強めるために不可欠です。
自己効力感を示す――自己効力感とは、自分は目標を達成できると信じられる状態です。自己効力感を得るには、成長マインドセットが必要です。
これらに関連した具体的な方法(活動/アクティビティーの事例)がたくさん、『感情と社会性を育む学び(SEL)』(特に、第3章の「自己認識を育てる」、『学びは、すべてSEL』(特に、第3章の「感情調整」)、そして『SELを成功に導くための五つの要素』(特に、第6章の「感情の器を大きくする」)で紹介されています。特に、最後の『SELを成功に導くための五つの要素』は、教師が自らもSELを体験しながら生徒たちにも同じことを提供していくように書かれていますので、研修として教員間で取り組める活動が豊富に掲載されています(もちろん、それらのほとんどは生徒たちもできる活動です)。
それらの中から(今回は『SELを成功に導くための五つの要素』に限定して)、いくつかを紹介します。最初の数字は、掲載されているページ数です。
•221: 今、何を感じているのかが分からない場合は、「感じる気持ち」や「体の感覚」を意識してみる。これは、自分の感情を理解するための助けとなる。例えば、次のように自問してみるとよい。「私の喉は締めつけられるような状態か? 腸がねじれるような状態か? 顔は熱いか? 呼吸は苦しいか? この校舎から今すぐ走って出ていきたいと思っているか?」など。感じているものを見つめるという行為は、自分の知恵とつながり、いったん立ち止まるのに役立つ。そして、多くの選択肢があることに気づける。
●232: 生徒と一緒に、感情を表す言葉(383ページを参照)をつくる。分類として、ワクワク、悲しい、怖い、幸せ、怒り、穏やか、などを設定する。次に、各分類に関係する言葉を思いつくかぎり挙げてもらい、生徒にブレインストーミングしてもらう。そして生徒に、自分や他者のどのような感情を心地よく、または不快に感じるのかを、1段階から5段階のスケールで評価してもらう。
●232: すべての学年で、その日の教室の感情状態に関する意識を高めるための方法として、「天気予報」(381~2ページを参照)を使って一日をはじめる~ 上記の2つは、『SELを成功に導くための五つの要素』の232ページ。
●382: 感情の輪
・生徒に白い紙と鉛筆を配る。
・配られた紙を半分に折って、上部と下部に分ける。上部には円を描き、その円を四分割する。
・四分割したそれぞれの場所に、感情を表す言葉を一つずつ書き入れる。書き出す言葉は、自分が今まさに感じているものにする。
・紙の下部には、上部に書いた四つのうちから二つを選び、「私は〇〇〇と感じています。なぜなら△△△だからです」と書く。生徒には、この文は自分が希望しないかぎり、教師も含めてほかの人とは共有しないことを伝えておく。
これを使った活動例:
1)クイックサークル ~ 各生徒が、現在「感情の輪」のなかにある気持ちを一つだけ共有し合う。
2)二人組で深く聴く活動 ~ 活動をしてみてどのように感じたかや、自分の書いた文章などの内容について、何でもよいので1~2分で話す。
★感情や社会性と認知・知識の2つを切り離しているだけでなく、行動(アクション)も切り離しています。「動かないで学ぶ」という問題もありますが、それよりもSELが5本の柱の一つに位置づけている「責任ある意思決定」であり、『学びは、すべてSEL』のなかでは他者尊重、勇気、倫理的責任、市民の責任、社会的な正義、サービス・ラーニング、リーダーシップなどを含めた「公共心」(第6章)の部分です。これを身につけたり、練習したりするには、教室の中はもちろん、学校の中や学校の外でも「責任ある意思決定」や「公共心」を練習する必要が不可欠なことを意味します。
さらには、この図(https://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html)を見ていると、第2章のアイデンティティーとエイジェンシー(=人間性?)の部分も弱いというか、手つかずのような気がします? そして、第3章と第4章もでしょうか?
感情を含めたSELの欠如は、人間関係の問題を含めて多様な社会問題を引き起こしているだけでなく、生徒たちがよく学べない原因にもなっています! 両方の問題を改善・解決するために、認知・知識面と、感情や社会性や行動や人間性を統合する形の学びが求められています。
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