2023年10月28日土曜日

コミュニティー・サークルというパワフルな活動  ~共感13

 あなたは、コミュニティー・サークルというパワフルな活動をご存じですか?

 常時実践している先生は、身のまわりにいますか?

 (他にも、単なる「サークル」、あるいは「魔法のマイク」「シェアリング・サークル」「おしゃべりサークル」などの名称でも呼ばれています。) 生徒相互の共感、コミュニケーションを図るのに、とても優れた活動です。


 これをすることのメリットとして、ある教師は、

・すべての活動において、生徒同士の結束力が高まる

・普段の授業でも、積極的に発言するようになる

・リスクを取ることが増える

・個人的な考えや感情を共有することへの安心感と自信が増す

などを挙げています(『聞くことから始めよう!』239ページ)。これらは、彼が実践した結果獲得したことですが、彼は自分が教員研修で体験したことによって、そうしたメリットとは関係なく、生徒たちにも体験してもらいたくなってしまった、というのが本音のところのようです(同、230~231ページ)。

 

 サークルをする際の参加者の責任と期待には、次のようなものがあります。

・生徒は、発言するように促される。(ボールやぬいぐるみや枝などの物を手渡されることで、視覚的にその人のみが話せることを表す効果がある。)だからと言って、発言することを強制されない。発言せずに、パスすることができる。

・一人(=何か物を持っている者)だけが発言し、他の人は敬意をもって聴く。

・ファシリテーターにではなく、生徒は互いに話し合う。

 

 ちなみに、この活動でのファシリテーターの役割は、上記のような質問を紹介し、まずは自分からそれへの答えを発言することぐらいです。(目的によっては、サークルが終わった後の振り返りの進行役を担うこともあります。)

 

サークルを最初に導入するときのテーマは、次のようなものがあります(賛否が分かれたり人を傷つけたりすることのない安全なものであることが大切です。その場合、「正しい」答えがない質問を使うので感情的な負担も少なくなります):

・もし、あなたがすごい力をもっていたとしたら、それはどんな力で、なぜですか?

・もし、あなたが動物になれるとしたら、何を選びますか? どうしてですか?

・あなたの夢における休暇はどのようなものですか?

・あなたをもっともよく表す言葉は何ですか?

・もし、あなたがある島から出られなくなったとしたら、欲しいものは何ですか?

・あなたが好きな色は何色ですか? (『学びは、すべてSEL』201ページ)

 

 教科指導で使う場合は、例えば歴史の授業で使う場合は、次のような質問が考えられます。

 ・第二次世界大戦と聞いて、どのようなイメージがまず浮かびますか?

 ・あなたの家族や地域が第二次世界大戦の影響を受けたことを知っていますか? どんな影響でしたか? (『聞くことから始めよう!』238ページ)

 

 (これまでの自分たちの考えや思いなどを聞かれた経験がない場合や、対象年齢が上がるに従って)最初からみんなが積極的に発言することは期待できないので、数回はぎこちなくても続けることが大切です。徐々に、みんなが発言できるようになります。個人差もありますから、話す用意ができるまで待つ必要もあります。

 

 サークルは、授業の初め、真ん中、終わりで活用したり、①順番に発言する、②順番に発言しない、③金魚鉢方式(2つのサークルをつくり、内側の人だけが話し、外側の人は聞くタイプ)などの多様な方法もあります(『学びは、すべてSEL』202~210ページ)

 

なお、バリエーション(というか、サークルの発展形)としての「スパイダー・ウェブ討論」もお勧めで、そのやり方は『最高の授業』アレキシス・ウィギンズ著で詳しく紹介されています。教師役は話し合いのテーマを提供したら、その後は、サークルの外で観察しながら「蜘蛛の巣図」を描く役割を担います。生徒たちは最初の内はかなり偏った図になってしまう話し合いしかできませんが、繰り返し(5回~10回)行うことで本当の蜘蛛の巣図のようないい形を描く話し合いができることから、このネーミングになっています。また、サークルという形だと時間がかかると判断したときは、ペアや小グループでするのも効果的です(『私にも言いたいことがあります!』98~103ページ「さまざまな形態のペア・グループ活動」を参照)。

 

今回の記事を書くのに特に参考にしたのは、『学びは、すべてSEL』196~210ページ、『聞くことから始めよう!』228~240ページ、そして『生徒指導をハックする』第2章でした。

 

なお、毎月第2と第4土曜日にSEL便りのスピンオフとして書いてきた「共感」をテーマにした連載は今回で終わりにします。来週からは、毎月第1と第3土曜日に戻ります。

2023年10月21日土曜日

教育委員会が、SELの推進に大切な役割を果たしているアメリカ

その具体例としてカリフォルニア州のサンフランシスコの対岸に位置するオークランドの例を紹介します。(ちなみに、オークランドは、MLBの野球チームのアスレティックスと、NBAの強豪ゴールデンステイト・ウォリアーズの本拠地でもあります。)

 https://sites.google.com/ousd.org/ousdsel/home のサイトをご覧ください。

 SELを推進するための専用サイトです。(日本で、このようなサイトを教育委員会が運営するようになるまで、あと何年かかるのかな、と思ってしまいました! 評価やより生徒たちが前のめりに学べるような方法の紹介など、他のテーマでも教育委員会が情報発信できることはたくさんあります!)

 この中には、教師用のオンライン研修講座も提供されています。

 https://sites.google.com/ousd.org/ousdsel/implementation/sel-pd-resources

さらに、研究がSELを実践することの価値を証明していることも

https://sites.google.com/ousd.org/ousdsel/sel-research で見られるようになっています。

 

 もう一つは、アラスカ州のアンカレッジも、教育委員会のサイトのなかにSELのセクションがありました。https://www.asdk12.org/Page/6643

 そのなかには、具体的に教室や学校で取り組める活動も紹介しています。https://drive.google.com/file/d/1bRrGYwZoM9TMNK0IFR82e0ePeuMMP-Td/view

 さらには、保護者がSELに関連して出来ることhttps://www.asdk12.org/Page/6644も提供されています。

 

 もし、あなたが似たような情報を(国内外で)見つけられましたら、右側にあるメール・アドレス宛に、ぜひ教えてください。お願いします。

2023年10月14日土曜日

自分たちのストーリーを語り合う ~共感12

 夏休み前に、ストーリーを生徒たちが語る/書くことの大切さが書かれた本のブッククラブをしていました。一人ひとりがみんな、かけがえのないストーリーをもっているにもかかわらず、学校という場はそれらを共有する場にはあまりなっておらず、常に他の誰か(権威をもった人である場合が多い?)が語った/書いたものを聞いたり、読んだりする場になっています。それで、生徒たちは「自分が地域や世界に影響力をもちえる人間なんだ」という感覚★をもつことはできるでしょうか?

 そのためのベースが、「共感を大切にしたクラスづくり」だと言います。

 その際、互いに対して共感すると同時に、自分に対しても共感することを強調しています。つまり、自分のアイデンティティーや自分の居場所があるという感覚がもてることを意味します。

 文学作品の多くや、自分たちが体験しているストーリーの多くは、他者の視点に立てることの大切さや具体的な方法を紹介してくれます。

 ストーリーこそ(共感こそ)が、私たちを人間にしてくれるもの、といえます。

 (https://selnewsletter.blogspot.com/2023/09/blog-post_23.html も参照)

 ストーリーは、他の人の考え、思い、悩み、もがき、生活/生きざま、夢、そして思考のパターンなどを見せてくれるのです。

 https://digitalcast.jp/v/14170/ (日本語の字幕付きの動画)がおすすめです。

 ストーリーは、自分の周りの世界を見ることも促してくれます。しかも、自分の見方とは異なる視点で見ることや。見方を切り替えるのを容易にし、他の人が世界をどう見ているのか/体験しているのかを理解させてくれます。

 共感は、他の人がどう感じているかを知る能力です。他の人の苦痛、悩み、もがき(あるいは、困惑、戸惑い、苛立ち、驚き、喜び・・・)を感じ、それに対して何らかのアクションまでとることも含みます。

 (まさに、このブログで共感シリーズがスタートしたきっかけのhttps://selnewsletter.blogspot.com/2023/05/sel.html や https://selnewsletter.blogspot.com/2023/09/blog-post_16.html 等を参照)

 日本の国語で(ないし学校教育)で、この辺までしている事例はあるでしょうか? それとも、共感をしっかり扱ったうえで、アクション(行動)の部分とは分けたままでいいのでしょうか?

★これは、engagement, agency, ownership, empowerment, innovationなどの感覚と言い換えられます。日本の教育からはなかなか生まれないものばかりなので、日本語にすることが難しく、せいぜいカタカナにするのが精いっぱいの言葉ばかりであり続けています!

 

2023年10月7日土曜日

EQとは?

 以下は、May 17, 2010に、「ライティング・ワークショップ=WW=作家の時間」★のサイトに掲載した、WWの思わぬ(偉大な)おまけ = EQとライフスキル」というタイトルの記事のコピーです。(いまは、サイト自体が消されてしまい、アクセスしにくい状態なので、下に貼り付けます。)

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エンカウンター、PA(プロジェクト・アドベンチャー)、NLP( 神経言語プログラミング)、構成的グループエンカウンター、ドラマ教育、環境・人権・平和・開発・多文化理解・グローバル教育などのアクティビティーを使ってクラスづくりができることは、別項で触れましたが、実はWWをすることで、EQやライフスキルのほとんど(技能、態度、資質)が身につくことがわかってきました。

  というのも、上の各種プログラムを知らずに小学校低学年から高校まででWWを実践している先生たちに、下の表を見てもらい、どのくらいが身についているか聞いたのです。その答えは、「ほとんど全部」でした。 (なお、EQとは、「こころの知能指数」のことで、マルチ能力=MIの自己観察・管理能力と人間関係形成能力に相当します。)

従来の作文指導で、これらのどれだけが身につくでしょうか?

 この表は、『校長先生という仕事』の174ページから貼り付けました。その意味では、校長先生をはじめ学校のリーダーにはもっていてほしいスキルなわけです。それが、WWを教えたり、学んだりする中で身についてしまうのですから、一石二鳥どころか、一石三鳥、四鳥だと思われませんか? もちろん、人間誰しもがこれらのスキルをもっていれば、生きやすくなりますし、成功にも近づきます。

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 EQSELの違いについては、上記の表(EQ)とhttp://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html の図にある項目を比較していただくと、ほぼオーバーラップしていることが分かります。表の「自分自身のコントロール」は図の第2~4章に、表の「関係づくり」は図の第5~6章に。しかし、表の右側のライフスキルの項目と比較すると、さほど多くはありませんが、SELにはあって、EQにはないものがいくつかあることにも気づきます。

★ WW=ライティング・ワークショップについては、先週のSEL便り(https://selnewsletter.blogspot.com/2023/09/blog-post_30.html)をご覧ください。