SEL便り: 責任ある意思決定 の11回目(最終回)です。
『成績だけが評価じゃない』で紹介されているウェルビーイングの事例は、日本でいえば受験校的なエリート校の事例なので(それに当てはまる読者は、172~178ページをぜひ参照してください)、ここでは他の情報源から紹介します。
最近訳出された『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化)の185~188ページで伝統のある(しかし、それほど成績優秀校というほどではない)ブライトン・グラマー男子高校が生徒のウェルビーイングに重点を置いた学校と書いてあったので調べてみると、https://www.brightongrammar.vic.edu.au/learnwithus/boy-centered-learning/boysandwellbeing/ がすぐに見つかりました。
そこにはまず、「私たちは、生徒たちが気持ちよく過ごし、健やかに成長し、社会に前向きな形で貢献できるようになることを願っています。そのために、ブライトン・グラマーでの学びの過程を支え、卒業後の人生にも活かせるようなスキルと心構えを身につけさせることが重要だと考えています」と書かれています。このレベルなら、どんな学校でも考えている/言っていることかもしれません(考えていたり、言ったりするだけと、意思決定とそれに基づいた行動とは、まったくの別物です!)。
しかし、ブライトン・グラマーは考えるだけ/言うだけと違い、2015年から全校生徒(幼稚園児~高校3年生)を対象にPROSPER(繁栄)と名づけられたウェルビーイング・カリキュラムを導入しているのです。その中身(というか枠組み)は、ウェルビーイングに最適な要素を表す言葉のPROSPERの頭字語で表しています。
- P – Positive Mindset; Positive
emotions: ポジティブな心構え・前向きな感情
- R – Relationships:人間関係
- O – Outcomes
and achievement:成果と達成
- S – Strengths:強み
- P – Purpose
and Meaning :目的と意味
- E – Engagement:エンゲージメント
- R – Resilienceレジリエンス(回復力・しなやかさ)
すべての生徒は、このPROSPERの枠組みに沿ったウェルビーイング授業に参加し、社会的・感情的な理解やスキル(要するに、SELのスキル)を育んでいきます。
●小学校段階の取り組みは、次のものが中心です。
- 「You can do it」★1 – 整理整頓、粘り強さ、レジリエンス(困難を乗り越える力)、協調性といったスキルを育てるプログラム
- 構造化された遊び(Structured play) – 社会的な言語や行動を身につけるための遊び活動
- 「サークル・タイム(Circle Time)」 – 男子生徒が自分の気持ちを表現し、他者の気持ちに気づく力を養うための構造化された場 ~ これについての詳しいやり方は、『生徒指導をハックする』の第2章や、『SELを成功に導くための五つの要素』『学びは、すべてSEL』『聞くことから始めよう!』のなかでも「コミュニティー・サークル」として詳しく紹介されています。
- ライフ教育(Life education) – 生に関する教育 ~ 同じレベルで大切な「死の教育」も大切! https://thegiverisreborn.blogspot.com/2025/12/140141.html
- 「Still Cloud」 ★2– 初等部(小学校)全体で毎日休み時間後に行う10分間のマインドフルネス。集中力を取り戻し、心の落ち着きを育む時間
●中学校段階
- パーソナル・ディベロップメント(自己成長)プログラム – 「私は誰か?」といった問いや、思春期に直面する課題や変化を探究する。~ これには、オーストラリアで1980年代に開発された『わたし、あなた、そしてみんな』(https://www.eric-next.org/test/reflect_read.html#textsの6冊目)が参考になります。この本の「わたし」の部分だけを日本風にアレンジしたのが『人間関係を豊かにする授業実践プラン50: 自分を見つめ好きになる本 』でした。
- 「キャンプ・ファイア」 – 感情を表す言葉を育てるために、分かち合い・表現・気持ちを言語化する方法を学ぶ構造化された場。
- マンツーマン・コーチング – 学校生活、人生、その他の関心分野において目標を立てる方法を学ぶ。
- キャラクター・ストレングスの特定 – 自分の性格的な強みを見つけ、それを活かして目標達成につなげる方法を学ぶ。
●高校段階
- ポジティブ心理学 – 個人のウェルビーイング(心身の健やかさ)につながる要因を探究する。
- 尊重ある人間関係 – 他者、特に女性との関わりにおいて、職場・友人関係・より親密な場面で前向きかつ敬意あるふるまいを学ぶ。
- 固定的マインドセット vs 成長マインドセット – すべての活動において成長マインドセットをもつことで、自分の可能性を最大限に伸ばせることを男子生徒に教える。 ~「教える」というのは無理があると思います。『生徒指導をハックする』の第5章を参照ください。成績・評価を必然的に扱うというか、変えていく必要に迫られます! そうなると、『成績をハックする』『聞くことから始めよう!』『成績だけが評価じゃない』などを、まずは教師が自分たちのものにすることになります。
- キャリア・カウンセリング – 各生徒の関心や強みを探り、それをもとに進学や将来のキャリア選択に役立てる。
以上のブライトン・グラマーの情報から、発達段階に応じて、かなり体系化する努力をしていることが伺えます。個別のアクティビティーをバラバラに(イベント的に)するのか、それとも幼稚園児から高校卒業までを見据えたプログラムとして実践するのかでは、得られるものはだいぶ違ったものになります。似たような時間をかけるのであれば、後者でいきたいものです!
その際に大切なことは、『インストラクショナル・コーチング』の185~188ページで紹介されている「インパクト・サイクル」ないし「コーチングのサイクル」(それらは、探究ないし実践向上のサイクルとも言える)を回し続けることが鍵となります。
●他のオーストラリアの学校でのウェルビーイングへの取り組みに関する情報:
・https://www.aitsl.edu.au/research/spotlights/wellbeing-in-australian-schools
・https://www.teachermagazine.com/au_en/category/wellbeing
・https://studentwellbeinghub.edu.au/educators/
・https://wellbeingguide.acer.org/
★1 子どもの可能性を信じ、あなたは「できるよ」「あなたには力がある。だから一緒にその力を育てていこう」という教育理念を表すタイトル。
★2 「雲がゆっくり止まるように、心を静める10分間」という意味です。
関連情報:
https://www.bing.com/search?q=student+well-being&FORM=SSQNT1&PC=DCTS
https://www.aitsl.edu.au/research/spotlights/wellbeing-in-australian-schools オーストラリアの状況がまとめられている。
https://www.teachermagazine.com/au_en/category/wellbeing
https://studentwellbeinghub.edu.au/educators/
https://wellbeingguide.acer.org/
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