2025年1月19日日曜日

感情のラベリングと受けとめ

 子どもが小さいころ、怒りっぽいことに対してどのように接していいかわからず、そんなことで怒らないで!と何度となく言ってしまった経験があります。感情を抑えられない子どもは、ときに、怒っていることで怒られ、親としても怒ってしまったことを悔やみ、悪循環に陥りました。怒らないでと言われた子どもは、「怒り」の感情を悪いもの、感じてはいけないものだと思い、「怒り」を感じる自分も悪いと思うようになり、感情表現を避け、自己批判をするようになりました。


  感情には、これまでにさまざまな分類わけがされています。喜怒哀楽といった大まかなものから、2000を超える感情までいろいろなラベリング(名づけ)がされています。日本語でも、感情表現新辞典にはさまざまな感情が掲載されています。


 今回は、イエール大学のCenter for Emotional Intelligenceの分類、Mood Meter (下記表)を参照します。ここでは、感情は、ポジティブな度合いとエネルギーの度合いで分類されています。感情をラベリングすることには、次のような効果があります。


1.自分の経験を客観的にとらえ、どのように行動するべきかの指標となる

2.感情をラベリングし表現することで、ほかの人に理解されやすくなる

3.ほかの人の感情を理解することで、その人をサポートできるようになる

4.感情を共有することで、社会的つながりが深まる




 感情を表現する語彙を持っていることは、自分の感情にも人の感情にも向き合ううえで必要なことですが、それに加えて、私が学んだことは、

  1. 感情の善し悪しをジャッジしないこと、
  2. 好奇心をもって、感情のもとになることや感情に起因している行動に目をむけること、
  3. このましくない行動がみられたら、変えるべきは行動であり、感情ではないことを頭に入れること、です。


1)感情の善し悪しをジャッジしない

 感情には、表のようにポジティブなものやネガティブなもの、そのエネルギーの程度に違いはあっても、正しい感情や間違った感情はありません。また、ネガティブな感情とポジティブな感情など、同時に複数の感情をもっていることもあります。自分の感情も人の感情も、そのままに受け止めることが必要で、他人が評価するものではありません。「そんなことで怒らない」と責めてしまっていた私ですが、「そんなこと」であるかどうか感じているのはその感情を感じている人自身です。

 また、人はポジティブな感情をいいものとしがちですが、ネガティブな感情ー怒りや不安、悲しみ、は現状を改善したり、乗り越えたりするうえで必要なものです。不安があるから、新しいことにも計画的に注意を払って取り組める、苛立ちや怒りがあるから、職場の環境の改善へと取り組めることもありますし、危険への忌避行動にもつながります。

 さらに、ポジティブな感情でも、楽観的すぎたら準備不足になることもありますし、喜びのあまり興奮しすぎたら、周囲の迷惑となることもあります。

 同じ現象や状態に関しても一人ひとりの感じ方は違うことを頭にいれ、自分も人もありのままの感情を受けとめることが、自己肯定につながります。逆に、自分が感じていることを否定されることは、自己の根幹の部分の揺らぎにつながり、自己肯定感の低下につながってしまいます。


2)好奇心をもって、感情のもとになった出来事や行動に目をむける

 子どもの置かれている環境やそれまでの経験、性格が一人ひとり異なるように、毎日教室にはさまざまな感情をもった子どもがいます。学校に入学してきた小学一年生のなかには、新しい環境にわくわくしている子ども、緊張している子ども、いらいらしている子ども、前日眠れず疲れている子ども、同じ場所にいても感じ方はさまざまです。そのことを念頭に入れ、子どもは一律的にこう感じている・感じるべきと思うのではなく、想像力を働かせて接することが大切です。もし、今あなたが感じているべき感情はこれだ、というメッセージを送ってしまったら、そう感じていない子どもは、自分の感情が正しくないものだと思ってしまいます。

 また、苛立っている子どもに対して、どうして苛立っているのか、考えることも大切ですが、落ち着いている子どもにも目を向け、どうして落ち着いているのかについて、考えたり、話してもらうことで、そう感じていない子どもの助けになることもあるでしょう。たとえば、すでに教室に遊んだことのある友だちがいるから落ち着いている子もいれば、まったく知らない人の中にいて緊張や焦りが苛立ちになっている子など、同じようにみえる環境にいても、さまざまな要因があることがわかり、共感できる機会が増えるでしょう。


3)強い感情に起因するこのましくない行動がみられた場合、変えるべきは行動であり、感情ではない

 似た感情をもっていても、感情がどのような行動になって表れるかは人によって異なります。喜びのあまり走り回ってしまう子どもや、怒りのあまり物や人にあたってしまう子どももいます。また、子どもが怒って物にあったっているように見えても、実は悲しいことや疎外感が原因で行動をしている場合もあります。「一人になってすごく悲しいんだね」と感情のラベリングをしたり、「みんなに声をかけに一緒に行こうか」と行動を促したりすることが必要なときもありますし、「〇〇が嫌ですごくイライラしているんだね。このクッションに怒りをぶつけてみよう」と表現させることがうまくいく場合があるでしょう。


 自分の感情がわかる、わかってもらえたと思えること、もしくは理解しようとしてくれる人がいることが、理性的な行動をとることに最も必要なことである場合もあります。自分の感情も人の感情も受けとめながら、適切な行動をとれるように向き合っていくことが必要です。


 大人でも自分の感情をありのままに受けとめ、表現することは難しいものです。子どもならなおさらです。感情に正しいもの、正しくないものはない、ということを頭に入れるだけで、自分にも周りにも寛大になれるのではないでしょうか。


2025年1月4日土曜日

生徒のやる気を引き出すのはテストや成績ではなく、目標

 今回は、https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html の第4弾です。

 スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』のなかで次のように書いています(77ページ)。

よく教師は「生徒のやる気を引き出すのはテスト/成績だ」と主張しますが、私は、生徒のやる気は目標を達成することによって引き出されると考えています。(中略)実行可能な目標を設定すれば、自分の成長度合いが測れますし、自分自身の学習にオウナーシップ(自分事であるという意識・感覚)がもてます。そして、教師は、生徒のそうした選択に対して支援ができるようになるのです。

 サックシュタインは同僚のアイザック・ウェルズの考察として、「歩けるようになること」や「靴ひもを結べるようになること」などの例から、目標を設定するために不可欠な二つの特徴として紹介してくれています(80ページ)。

   具体的であること。

   達成するまでの段階が観察できること。

この点について、ウェルズは次のように補足しています(80~81ページ)。

生徒は、現在の自分の能力を「できたとき」のモデルと比べながら、自分自身でフィードバックを行います。一方、教師は、次のステップを明確にするために例を比較したり、モデルで示したり、単純に話をして、生徒が次に何をするべきかが分かるようなフィードバックを行います。

 生徒には、達成感が味わえるところに目標を設定すればメリットがある、と思ってほしいです。また、うまくできた事柄に注目し、目標に向かってどれくらい前進したのかが分かるようにすれば、努力した分だけ学習にきちんと反映されると、生徒も理解できるようになります。

 生徒の成長の記録はいろいろな方法(たとえば、チェックリスト、グラフ、スプレッドシート、ポートフォリオなど)で可能ですが、重要なのは、学んでいる最中に生徒自身がそれを見られること(理想は、生徒自身が自分の成長を示せるようにできること!)です。しかも、総括的な記録(成績)としてではなく、形成的な記録(成績には反映されない評価)としての位置づけで。

 そして、さらにウェルズは次のように結んでいます(83~84ページ)。

 何よりも重要なのは、生徒自身が納得できるまで学び続け、練習を続けるといった継続的な機会を提供することです。授業が終わったり、成績がつけられたことで学習は「終わった」と感じてしまうと、目標に対する自分の立ち位置がどこなのかにかかわらず、学びをやめてしまう恐れがあります。

 成績や、それに近いさまざまなマークや記号などは、年少の生徒にとってはご褒美になるかもしれませんが、年長の生徒にとっては決して学習意欲を高めるものではありません。

学習には、振り返り、再検討、再考察、修正が必要不可欠です。最終的な成果を理解して、目標を達成するための明確な道筋が見えていれば何度も作業に戻ろうとしますし、遊んでいるときと変わらないプロセスを踏みます。一番高いブロックタワーをつくるのも、(うん)(てい)をわたるのも、より難しい本を読むのも、成績ではなく目標が生徒にとっての学習動機となっているのです。

 以上、目標設定と学習の関係に関する大切な点をまとめてくれているだけでなく、サックシュタインは、それを具体的な事例でどういう可能性があるのかを(これまた同僚の開発した方法として)紹介してくれています。それは、読解力を身につけるための目標設定を支援するための以下の手順です(78ページ)。

1.  はっきりとした目標達成のための基準を設定する。(「どうなったら目標達成と言えるのか?」)

2.  基準を伝えて行動に結びつける。(「目標を達成するためには何をしたらよいのか?」)

3.  証拠を集めてフィードバックをする。(「基準はどのような証拠に支えられて、どのようなフィードバックをすれば目標達成に役立つのか?」)

4.  個人の目標を設定する。(「自分は何ができるようになりたいのか?」)

5.  自分でモニタリングして振り返る。(「自分のでき(・・)はどうなのか? どのように改善したのか? 次は何をしようか?」)

 1を設定する際の参考になるものをお探しの方には、『読書家の時間』の第7章「評価」の「読書の達人への道 チェックシート」と、『理解するってどういうこと?』の資料編に掲載されているA「理解するための方法とは」、B「大切なことは何か?―幼稚園から高校3年生までの読み・書き内容」、EおよびF「学習指導要領国語科とライティングとリーディング・ワークショップ比較」、H「優れた学び手が使いこなしている思考法」がおすすめです。

また、上の手順は、ほかの教科領域にも応用できます。上記の資料Hが単に「優れた読み手と書き手」ではなく「学び手」になっているのはそのためです。

 さらに、上記の5段階をしたのちの6段階目として、現在の目標を再考したり、新しい目標を設定したり、成果物をもう一度確認したり、フィードバックを得るために改めて観察したり、さらには、自分自身でのモニタリングと振り返りの継続などが考えられます。★★


★これは、まさにドジャースの大谷選手が高校時代からやり続けていること!? そして、本書の第3章のテーマである「より良く学ぶために自己管理を促進する」と関連するというか、コインの裏表の関係にあります。目標が自分のものにならない授業や行事等が続きますから、教師が「自律」の必要性を強調せざるを得ない状況も続きます。

★★この点については、『イン・ザ・ミドル』の第8章「価値を認める・評価する」が参考になります。また、生徒中心の三者面談という可能性もあります。詳しくは、『「考える力」はこうしてつける』の第8章「自己評価」を参照ください。その際の具体的な問いは、次のようなものが考えられます。

2024年12月21日土曜日

生徒の成長マインドセットを育てる

 「成長マインドセット」を聞いたことがないという教育関係者は少なくなっていると思います。評価と成長マインドセットおよび、その反対の固定マインドセットは、とても密接に結びついています。

 そこで今回は、「評価で生徒の自己認識を育てる」https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html の第3弾として、②成長マインドセットを育てる に焦点を当てます。

 スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』のなかで次のように書いています(65ページ)。

従来の学校教育システムは固定マインドセットを強化してしまい、学習経験のあらゆる場面で生徒にある種のレッテルを貼りつけてきました。それによって生徒は、「得意」、「不得意」で評価してしまうという発想を容易に身につけてしまい、できないと教えこまれてきた分野の学習については、いとも簡単に取り組みをやめたり、嫌な気持ちや不安を抱いたりしています。

 この状態は、著者が活躍するアメリカよりも、入試や中間・期末テストで自分の能力を輪切りにさせられ続ける日本の方が、はるかに重症です。(この状態に対して、教師は無力なのでしょうか?)

 ちなみに、固定マインドセットと成長マインドセットをわかりやすく説明すると、次のようになります。「学校でうまくやっていくための才能は生まれながらにあるものだ、と生徒が考えているならば、その生徒は学びについて『固定マインドセット』をもっていることになります。一方、一生懸命に取り組めば誰でも学ぶことができると考えるのが『成長マインドセット』です。成長マインドセットをもつ生徒は、固定マインドセットの生徒よりも学校で現実にうまくやっていくことができます」(『感情と社会性を育む学び(SEL)』の107ページ)★

 下の表は、成長マインドセットと固定マインドセットの変化を表したものです★★。

 Kは幼稚園の年長組です。4年生以降の数字は、どうなると思いますか? また、これはアメリカでの数値ですが、日本で同じ調査をしたら、どのような数値になると思いますか?

 『成績だけが評価じゃない』の著者のスター・サックシュタインは、次のように書いて、具体的に成長マインドセットを育てる方法も提示してくれています(65~66ページ)。

教師として私たちは、すべての生徒に「自分には能力がある」ということに気づかせる責任があります。スキルのなかには、習得が難しくてより多くの練習を必要とするものがあるかもしれませんが、意欲的に取り組めば、その目標ですら達成できるようになります。(注訳)結局のところ、生徒に達成してほしいことがあるのなら、まずは「自分にはできる」と気づかせなければなりません。もし、生徒が「自分にはできない」といった固定マインドセットの言い方をしているのを耳にしたら、ていねいに優しく「やればできる」ことに気づかせて、その目標を支援するためのフィードバックを提供してください。このフィードバックは、小グループでのミニ・レッスンや直接指導、文書にした個別のフィードバック、一対一のカンファランス、生徒同士のピア・レビュー★★★のあとに教師も加わるなどといった方法で行えます。

 このあと、成長マインドセットを育てる際は、教師が使う言葉の大切さ、時間はかかっても繰り返し練習することの大切さ(勉強以外のスポーツなどの多くのことでは、それが当然のことと捉えられています!)、そして最後に「固定マインドセットにとらわれる瞬間は誰にでもあ」り、「進歩が見られず、手こずっているときに不愉快になったりイライラする場合があるけど、そのような感情から抜けだすためにも、『まだ分かっていないだけ』だと気づくことが大切」(66~68ページ)であることが強調されています★★★★。

 

★成長マインドセットに関するセクションは、上で紹介した2冊以外の本にも含まれています。『学びはすべてSEL』は60~63ページを参照(ここでは、「固定マインドセットをもつ人は、知性や才能を含む基本的な資質が変わらないし、変えられないという特性がある、となっています。才能だけが成功を生みだすと信じており、彼らは何か新しいものを習得するための努力を軽視しているわけです」と説明されています。また、特に63ページの図がわかりやすいので、下に貼り付けます!)、『SELを成功に導くための五つの要素』は121~122ページを参照してください(ここでは、「学習ゾーン」=ZPDとの関係で捉えられていますhttps://projectbetterschool.blogspot.com/2023/10/blog-post_15.html。残念ながら、日本ではまだこの捉え方も理解のされ方がとても弱いので、いい学びを子どもたちに提供できないままが続いています)。さらには、生徒指導にも成長マインドセットやSELが欠かせないのですが、残念ながら、それも弱いです。『生徒指導をハックする』の第5~7章https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794811691 を参照してください。

★★この表の出典は、本になることを逃してしまった『親と教師のためのマインドセット入門』(仮題)の21ページです。この本を読んでみたい方は、pro.workshop@gmail.comにメールしてください。

★★★「文書にした個別のフィードバック」は、https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784762033278 の第7章。「一対一のカンファランス」は、教師と生徒の一対一で行う対話形式の指導のことです。ある意味、教える際のもっとも本質的な方法と言えるでしょう。興味をもたれた方はhttp://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.html。「生徒同士のピア・レビュー」は、同じ著者によるhttps://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794811936 を参照ください。

★★★★ まだ分かっていないだけ』を含めて、使う言葉の大切さについては、前述の『親と教師のためのマインドセット入門』(仮題)および、ピーター・ジョンストン著の『言葉が変わる、授業が変わる!』https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784623081295 と『オープニングマインド』https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784794811141 が参考になります。

2024年12月7日土曜日

形成的フィードバックで強みと課題を知る

 「評価で生徒の自己認識を育てる」の第2弾です。

 前回https://selnewsletter.blogspot.com/2024/11/blog-post.html 紹介した6つの可能性のうちの ①学習を通して生徒の強みや課題を認識し、感じることを表現するための方法 を紹介します。

 スター・サックシュタインは、『成績だけが評価じゃない―感情と社会性を育む(SEL)ための評価』のなかで次のように書いています(54~55ページ)。

形成的な学びと総括的な学びは誤解されています。私たちは、総括的に示された学習成果(期末試験の成績や学期末の通知表など)を重視しすぎて、そこに至るまでの形成的なプロセスを軽んじてしまうといったケースがあまりにも多いというのが現状です。

形成的な学び(評価)とは、学びがどのように起こっているのかを明らかにすることです。つまり、生徒がどのように取り組んでいるのかを確認したうえで、より良い取り組みや、学びを可能にするために役立つフィードバックの提供機会を指しています★★

 形成的な営みは成績に含まない場合が多いため(たしかに、含むべきではありません!)、生徒は(教師も・訳者付記)「意味がない」と思って誤解するケースが多いです。しかし、形成的な営みのなかでこそ学びが生じていますので、もちろん「意味がある」のです。教室での学習環境を整えていき、教室を、自分には何がうまくできて、どのような点は改善すべきなのかを見極める場所であると、生徒自身が信頼感を抱く必要があります。★★★

 このあと56~62ページにかけて、形成的な学び/評価を取り入れるための方法がいくつか紹介されています。

・具体的な教え方としてのプロジェクト学習とワークショップの授業

・授業中に支援を受ける機会を公平に提供すること ~ この際、平等との違いを認識する必要があります! https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E5%B9%B3%E7%AD%89

・生徒のスキルや知識を形成的に評価できる課題づくり

・生徒と一緒に作るルーブリック

 これら(特に、ルーブリック)は、「それぞれの生徒が『今どこにいるのか』が理解できるように手助けして、次のレベルに行くための道筋を提供すれば、生徒は自己認識を高め、いま必要としているものが何かを主張するための力を身につけはじめます」(63ページ)。 3つ紹介されているルーブリックのうちの一つを掲載します。

 生徒と一緒に目標達成のための基準(=ルーブリック)をつくれば、授業で何が期待されているのかが明確になり、知らなければならないこと、やらなければならないこと、そしてより重要な、どうすればうまくいくのかについて不安感を減らせます。しかし、すべての生徒がすぐに学べるわけではありません。私たち教師が「期待していること」が何なのかを、可能なかぎり明確にすれば、生徒はより自信をもって学習に取り組むようになります(64ページ)。

 ルーブリックの価値は、もちろん評価の見える化にもありますが、最大の価値は、生徒たちがまだ学習している間に自己評価+自己修正・改善を可能にして、より高みに自分を押し上げることができることと言えます。これは、これまでの評価の捉え方にはなかったものではないでしょうか?

 

★ここでは「学び」が使われていますが、「評価」に置き換えられます。

★★換言すると、形成的評価とは、まさに「指導と評価の一体化」を実現した教え方・学び方ということになります。

★★★これが、学級づくり、授業、コミュニティーとしてのクラスの核だと思いますが、あなたは実現できていますか? まだの方や自信のない方は、本書『成績だけが評価じゃない』の第1章「信頼できるだけの人間関係を築いて学びをサポートする」、『「居場所」のある学級・学校づくり』、『「考える力」はこうしてつける』などが参考になります。

2024年11月17日日曜日

問題を想定し、感情と行動をコントロールする練習

  親であっても教師であっても、日々、自分の状態と向き合い、感情と行動をコントロールしながら過ごすことは難しいもので練習がいるものです。私たち大人は過去の経験から対応を学んでいますが、経験の少ない子どもの場合は、大人にとって小さく思える問題でも過剰に反応したり、大きなストレスを感じたりしてしまうが多くあります。そのために、その問題が起こる前に想定して、自分ならどのように感じ、どのように対応するか、考えておくことは、実際にその問題に直面したときの「練習」になり、感情が先走って行動してしまうことを抑えてくれます。

 感情をコントロールし問題に対処するために、ワシントン州の4年生の先生は、「問題の大きさ」について事前に考えるアクティビティを取り入れています。これは、実際に起こりうる問題について、自分たちにとってどの程度の問題なのかを子どもたちが話し合うものです。

 各グループにいろいろな問題を書いた紙の入った箱を入れておきます。

例えば、『クラスメイトが勝手に自分の鉛筆を使った』『がんばって終わらせた宿題を校庭に置き忘れてしまった』『祖父の体調が悪く入院した』のように、実際の生活のさまざまな場面で起こりうる問題です。書かれた紙を一枚ずつひき、一人ひとりがその問題について、1(小さな問題)~5(大きな問題)のなかで自分にとってその問題がどれくらいの大きさなのかを考え、理由を話します。

 鉛筆を勝手に使われたときのレベルは1とする子どもが多いかもしれません。しかし、ある子どもは、その鉛筆は引っ越した友だちにもらったとても大切にしていたものだったら、自分にとってはレベル3だと話します。また、宿題を置き忘れてしまった場合も祖父の病気も、一人ひとりのおかれた状況(宿題を忘れる頻度や教師との関係性、祖父との親密度など)によってとらえ方が異なることがあるでしょう。

 

 また、子どもたち自身に、実際に起きた問題や想定される問題を書いてもらって、それらについて話し合うのもよいでしょう。


 このアクティビティによって、問題に対する心構えができ、類似した問題が起きたときに感情をコントロールし、理性的に対応する準備となります。また、ある問題は、人によって捉え方が異なること――自分では小さな問題だと思っていても、相手にとっては大きな問題であったり、その逆であることもよくあること―を学ぶことができます。ある問題の大きさについて、ほかの人ととらえ方が異なる場合があることを認識しておくことで、実際に何らかの問題が起こったときに、自分にとっては大きな問題だと捉える理由を説明する必要があるときがありうること、もしくは自分がほかの人に起きている問題を自分が過小評価している可能性についても考えることができるでしょう。これは、人への想像力をめぐらし、ひいては共感する力を育てることにつながります。

 

 さらには、体調やそのほかのストレスなど、自分の状態によっては、小さな問題であっても、大きな問題として反射的に対応してしまうことがあります。そのような場合でも、問題の大きさについて一度考えることで、感情をコントロールしやすくなるでしょう。実際に起きた問題を取り上げて、自分の対応が問題の大きさと合致していたか振り返ることも感情をコントロールするよい練習になります。


参照 

https://www.edutopia.org/article/self-regulation-strategies-teachers-students

https://www.edutopia.org/video/learning-measure-size-problem/


2024年11月2日土曜日

「評価のなかで自己認識を育てる」

 表題とSELがどう関係するの、と思った方は少なくないかもしれません。

 上のタイトルは、ある本のなかの一つの章のタイトルですが、あなたは、これまでに「評価のなかで(生徒の)自己認識を育てる」ことを意識したことはありますか? とても大切なことなのですが、具体的にどうそれはできるのでしょうか?

 SELの活動を、評価を含めた既存の授業とは別にすることにはそれなりの価値はありますが、より大切なのはすでにしていること(ややらざるを得ないこと)をSELの視点を踏まえて実践していくことです。後者なら、一石二鳥(さらには三鳥、四鳥も!)が実現しますから。(それに対して、前者は付け足しにならざるを得ません。あまり効果的とは言えない道徳、特活、総合的な学習の時間等を使うなら話は別かもしれませんが・・・ここでの目的は、すべての教科領域での教え方と評価を考え直すことにあります。そうです、毎日していることです。)どういうことか説明していきます(ゴシック体は、『成績だけが評価じゃない―SELのための評価』スター・サックシュタイン著、新評論からの引用を表しています)。

教室で学んだり、それを評価されるという経験は、学習者としての自分だけでなく、より広い世界における一人の人間としてどのように見るかという、生徒の自己認識に大きな影響を与えます。教科指導とSELの統合を推進するCASELは、「自己認識」を次のように定義しています。

さまざまな状況を乗り越えて、自分自身の感情や思考、価値観が行動にどのような影響を与えるのかについて理解する能力のこと。また、根拠をもって確信したり、目的意識をもったりして、自分の強みや限界を認識する能力も含まれます。(53ページ)

 いま日本で行われている成績評価で、このような能力を生徒たちは身につけているでしょうか? そもそも、それを目的にしているでしょうか?

 『成績だけが評価じゃない』の本の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」には、次のように書かれています。

教師として私たちは、成績をあまり気にせず、生徒自身についてまちがった見方をしないように努めなければなりません。まずは、生徒自身が期待されている学習目標をしっかりと理解して、その目標を達成するための段階的なレベルについても理解できるようにする必要があります。そして、これがもっとも大切なことですが、私たちが伝えなくても生徒自身が「今どのレベルにいるのか」について認識できるようにしなければなりません53~54ページ)

 教師として最も気にしていることが成績ではないでしょうか? 私たちが成績で生徒を間違って見てしまわないようにすることは大事ですが、それ以上に大切なのは生徒自身が成績で自分自身を間違って見てしまわないようにすることです。

 生徒が目標を理解して取り組むことは大事ですが、その後に書かれている「これがもっとも大切なことですが、私たちが伝えなくても生徒自身が『今どのレベルにいるのか』について認識できるようにしなければなりません」は、果たしてどのくらいできているでしょうか?

 生徒が今いるところを理解すること(現状の把握)と、自分がどこに向かっていけばいいのかを理解していること(目標)とのギャップを埋める手段を考えるプロセスが、評価(自己評価、相互評価、教師による評価)やフィードバックと言えるのですが、あなたはそれらをどのくらいしていますか? なお、それは学習が終わって成績も付け終わった後ではなく、学習中に行われなければならないものです。

 『成績だけが評価じゃない』の本の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」では、次の6つの点について詳しく紹介されています(番号と下線はありませんが、分かりやすくするために付けました。引用は54ページです)。

学習を通して生徒の強みや課題を認識し、感じることを表現するための方法を教える手順について紹介していきます。また、②適切な支援や練習の機会さえあれば、どんなことでも達成できると肯定的に思えるようになる「成長マインドセット」という思考方法について、加えて③生徒たちが学習目標を設定する際のサポート方法についても考えたいと思います。

さらに、④振り返り方法を教えることで生徒が自己認識を深め、より良い自己評価をする様子についても触れます。そして、⑤学習気質とは何か、生徒自身の気質を自覚すれば学習者としてのアイデンティティーをより伸ばしていけるようになるのかについても探究していきます。

最終的に、⑥生徒がこれらを理解しはじめると、私たちはより良いフィードバックや指導が行えるようになり、生徒はそのプロセスを通して、より上手に「セルフ・アドヴォカシー」(自分の必要とする支援を自ら求める/主張すること)ができるようになります

①~⑥は、全部大切だと納得しますか?

 いいこと尽くめだと思いませんか?

 これらのどれは、すでにやれていますか?

 これらのなかで、自分がすぐにでも取り組みたいものはありますか?

 分かりにくい文章や言葉はありますか?

 ⑤の「学習気質」が唯一なじみにない言葉かもしれません。

 ChatGPTは、以下の説明を提供してくれました。

 「learning dispositions」とは、学習に対する態度や傾向を指します。具体的には、学ぶ意欲、好奇心、自己調整能力、忍耐力など、学習者がもつ特性や習慣を含みます。これらの要素は、学習の成果や進展に大きな影響を与えるため、教育や育成において重要視されています。つまり、単に知識を得るだけでなく、学ぶこと自体を楽しむ姿勢や、挑戦を乗り越える力などが含まれるということです。

 文科省も、観点別評価の「主体的に学習に取り組む態度」という言葉で明確に示しているのかもしれませんが、その中身やその測定方法や、それを身につけるための方法は、果たしてどれほど教師に理解され、かつ実践されているでしょうか?

 https://wwletter.blogspot.com/2023/11/blog-post.htmlですでに触れたように、教材ありき/教科書をカバーする一斉授業で、生徒が「主体的に学習に取り組む態度」≈学ぶ意欲、好奇心、自己調整能力、忍耐力、学ぶこと自体を楽しむ姿勢や、挑戦を乗り越える力などを示せる割合はどのくらいあるでしょうか?

 ChatGPTの回答にあるように、「これらの要素は、学習の成果や進展に大きな影響を与えるため、教育や育成において重要視されています」は、教材ありき/教科書をカバーする一斉授業で果たしてどれほど大事にされているでしょうか?

この「学習気質」も含めて、①~⑥については、次回以降に詳しく説明していきます。

2024年10月20日日曜日

中学の社会科の授業でのSEL

  アメリカで新年度が始まり一か月強が過ぎたころ、社会科の先生から保護者向けにEmailがありました。コミュニケーションの懸念と題したメッセージには、社会の授業で、アイデンティティ、価値観、思い込み、ステレオタイプ、偏見、特権、差別、人種差別、社会的弱者のためのサポート(allyship)について学んでいるとのことです。それぞれの言葉の定義と説明をしたあとのディスカッションでは、実際の経験を共有した生徒もいたこと、概ねよいディスカッションではあったものの、なかには、なかには間違って受けとめる生徒もいたと書かれていました。

 自分の経験を話したことによる心理的影響など予見できないことがあるため、家庭でも何を学んでいるか子どもに聞き、何か問題があれば連絡をください、との旨が書かれていました。


 州の社会科のカリキュラムは2018年の改訂によって、8年生(日本の中学二年生相当、多くのところでは、中学最後の学年)の社会科では、Civic education (公民/市民教育)へと重点がおかれるようになりました。子どもの学校では、Democratic Knowledge Projectによる“Civic Engagement in Our Democracy(民主主義と市民のかかわり”と題したカリキュラムを使っていますこのカリキュラムでは、1年を通じて、生徒が自分にとって何が大切なのか考え、自立しつつも他者と相互に貢献し合う、自信をもったチェンジメーカ―として社会に貢献していくことを目的としています。


 全部で8つの単元に分かれており、さまざまな定義や民主主義社会の仕組みについて学びながら、常に自分についてふり返り、身の回りのコミュニティや社会にどのように関わっていくか考えていくことを重視したカリキュラムとなっています。

 

 とりわけ、このカリキュラムの初めの「アイデンティティと価値観」単元では、それぞれの概念を学び、ストーリーを通じて、自分自身のアイデンティティと価値観について考えるとともに、歴史上の人物や現代の人物の個人の価値観やアイデンティティに触れ、人種差別や特権、それらを変えていくための活動、市民のかかわりといった社会的な現象について考えます。このなかで一人ひとりが自分が何に価値をおくのか、どういった人間なのか、コミュニティの一員としてどのようにありたいか、といったことについての自分自身のストーリーをつくり、希望者による発表で単元が締めくくられます。


 まだ、カリキュラムの導入部分を終えたばかりですが、この数週間で、自分を軸に周囲とのつながりを考えるための問いやディスカッションに取り組んでいます。たとえば、

  • 今年の目標は何か、成し遂げたいことは何か

  • 目標を達成するためにクラスメイトや教師から必要なことは何か (子どもは、教師から必要なサポートとして、目標を達成する時間をつくるために宿題を減らしてください、と書いていました)

  • どんなときに自分の、学びがサポートされていると思うか、どんな環境がよいか


といったことから、徐々に自己認識を深めていきながら社会とのつながりを考えさせます。たとえば、生徒が向き合うことには次のものがあります。

  • 自分が大切にしている価値観

  • 自分の価値観が考え方や行動に影響を及ぼしていること

  • 公民や民主主義について学ぶことはことの意義

  • 権利をもつことの大切さや、人々がもつべき権利


 最終的には、チェンジメーカーとなる市民・国民となるために必要なことや自分がどのように社会に貢献していきたいのか、そのために今どのような行動をとることができるのか、などといった課題について考えたり話し合ったりしていきます。


 このカリキュラムのなかで、権利や自分の声が受け入れられない経験や、他者と異なり、批判されるかもしれない自分の価値観について共有することは、ときには勇気がいることです。中学の最後の年のカリキュラムであるということは、それまでにすでにそのような脆弱性を含めた自己について話すことのできる人間関係を築いている必要があるかもしれません。また、中学高校のさまざまな面では、ピアプレッシャーにより、自分の意志決定が大きく左右されてしまうことがあります。そのときのためにも自己認識を高め、社会問題について話し合い、社会を構成する一員としてどうありたいのか、どのように行動をするべきかを深く考える機会は大切だと思います。


 また、親として、ティーンエージャーの子どもから積極的に学校で起きていることを聞く機会は少なくなってしまっていますが、今回、社会科の先生のメールにより何を学んでいるかを実際に目にすることができてありがたく思います。


参照:Democratic Knowledge Project https://curriculum.democraticknowledgeproject.org/course/civics-8