2023年6月10日土曜日

絵本や児童文学には、心を動かし(共感し)行動を変える力がある! ~共感3

 共感連載の1と2で紹介した『共感力を育む』(ミシェル・ボーバ著)の第4章のサブタイトルは、「共感力を養うための読書」で、私が一番お気に入りの章です。その有効性は、ほかの章のほとんどでも絵本や児童文学(+映画やビデオ)が使われていることからも分かります!)

 以下、第4章からのメインポイントを紹介します。

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 「子どもにとって読書が重要だということを信じない親は稀だし、世間に広まっているデータもこの見解を指示している。読書力がある生徒はそれが足りない生徒よりも、学校生活がうまくいき、高得点を取り、試験にも合格する。・・・しかし近年、読書は子どもの頭をよくするだけでなく、親切にもするという、驚くべき追加の価値が発見されている」(113~114ページ)

 「読書によって子どもの人生やうまくいくし、共感力も身につく―これはとても簡単なことに思える。しかし、デジタル機器に追い立てられ、何事も高速で動く今日の社会(子どもたちも過密なスケジュールに追い立てられている!)にあっては、子どもに読書の習慣を身につけさせるのは簡単なことではない」(114ページ)

 「映画を見たり、すばらしい本を読んだりした後、非常に心を動かされてしばらくのあいだ身動きもできなかったことはないだろうか? 影響を受けたのは心だけではないと、今では分かっている。誰かの感情を認識すると、私たちの脳は同じ感情を実際に生成すると、データは示している」(119ページ)

 本を読んだり、いい映画を見たりする習慣をつけるためのコツは、「子どもの能力と興味に読む本や映画・ビデオを合わせると共に、それをすることが子どもにとって楽しく意味があるものにすること」としたうえで、「子どもの共感力を培うと同時に、認知的発達を拡大し、学力を高めるために、文学作品や映画を使う方法」(127~8ページ)を紹介してくれています。その主だったものは、

・本を身近に置く。

・読み物は子どもの好み(興味、関心、こだわり、テーマ)に合わせる ~ 教師や親が読ませたいものではなく!

・子どもの読書能力レベルに合わせた本を選ぶ。

・優れた情報源を見つける ~ 司書に教えてもらうだけでなく、自分で本を選べる力を身につけてもらう。選書能力があれば、生涯読み続けることは間違いない!

・読み聞かせはできるだけ長く続ける ~ http://wwletter.blogspot.com/2023/04/blog-post_14.htmlを参照ください。

・家庭映画会(学級や学校映画会も)をする。

・ブッククラブ(読書会)をする ~ 絵本でも、児童文学でも、小説でも、ノンフィクションでもできます(最後のは「共感」を養うにはそぐわないかもしれません)。詳しいやり方を知りたい方は、学校や家庭での(+職場や教員仲間との)ブッククラブのやり方が詳しく書いてある『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』がおすすめです。★

 これらをしやすくするためにも、第4章を中心に本全体で、たくさんの絵本、本、ビデオ、映画のタイトルが紹介されていますので(下のURLの「共感2」)、これまでに紹介したSEL用の本と一緒にご覧ください。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vS_cqoO1OnMIqJzMTAhIbd-UZZTNLZZY-STwjYf9UJg2XvCN5JHLg-PbphrteMzz_-a8F9eRmbce1Om/pubhtml

(※ なお、共感1と2以外のリストは、島根県立大学松江キャンパス・おはなしレストランライブラリーの司書、尾崎智子さんと内田絢子さんが作成してくれました。)

 

★このブッククラブ、やり方次第では、他のどんな方法よりも効果的かつ効率的な教員研修の方法です。そのためにも、ぜひ本プラス https://tommyidearoom.com/%e3%83%96%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%af%e3%83%a9%e3%83%96%e3%81%a8%e3%81%84%e3%81%86%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%95%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af/ を読んでみてください。 

2023年6月3日土曜日

PBLで世の中の難題の解決・改善に迫る(アプローチ2)

  「車椅子やベビーカーユーザーの優先/専用エレベーター問題」を含めて、世の中の複雑な問題を解決・改善するための2番目のアプローチとして紹介するのは、PBL(プロジェクト学習とプロブレム学習)です。

https://wwletter.blogspot.com/2021/08/wwrw.html および

https://wwletter.blogspot.com/search?q=PBL

https://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=PBL

 

 どちらも、SELと(教科を統合する形で)問題解決学習を同時に実現する教え方・学び方です。教科をブツ切りに教えられるよりも、子どもたちははるかに喜ぶ(だけでなく、主体的かつ身につく)学び方です。

まず、次のSELPBLを比較した表をご覧ください。

 これだけでも、両者が密接な関係にあることがお分かりいただけると思います。いずれかを実践するということは、もう一方も同時にしていると言えそうです。★

 https://spencerauthor.com/the-powerful-combination-of-pbl-and-sel/★★のなかには、いくつかの見ごたえのある動画と聞きごたえのあるポッドキャストがあります。(最初に紹介した表も、そこで紹介されていたので知りました!)


 もう10年以上前になりますが、グーグルが2つのプロジェクト(プロジェクトOxygenとプロジェクト・アリストテレス)を通して、SELの重要性を証明しました。

プロジェクトOxygenは、理想のチーム・リーダーの資質を明らかにしたものです。8つの資質がリストアップされましたが、そのほとんどすべてが「ソフト・スキル」、つまりSELのスキルでした。一方、プロジェクト・アリストテレスは、2012年にGoogleが発表した企業向けリサーチです。プロジェクトの目的は、生産性の高い「効果的なチームの条件」を調査して、定義づけることでした。発見したことは、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも、「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めています。そして具体的には、次のような条件が大切だと!(これらも、ほぼすべてSELのスキルと言えそうです!)

1)心理的安全性 ~ 対人関係においてリスクある行動を取った時の結果に対する個人の認知の仕方。
2)相互信頼 ~ 相互信頼の高いチームのメンバーは、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げる。(これに対し、相互信頼の低いチームのメンバーは責任を転嫁する)
3)構造と明確さ ~ 効果的なチームを作るには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要になる。
4)仕事の意味 ~ チームの効果性を向上するには、仕事そのもの、またはその成果に対して目的意識を感じられる必要がある。
5)インパクト ~ 自分の仕事には意義があるとメンバーが主観的に思えるかどうかは、チームにとって重要である。

 ある意味では、ソフトウェア等を中心にした企業の多くは、プロジェクトで仕事を常に動かしていると言えます。その意味でも、その練習として学校にいる間にプロジェクトに取り組む形でプロジェクト学習に取り組むことは価値が大きいわけです。(もちろん、理由はほかにもたくさんありますが、なかでもその筆頭は、従来の学び方では記憶に残らない/身につかないのに対して、プロジェクト学習は生徒たちの主体性の度合いが比較にならないほど高いので、身につく/記憶に残るレベルも格段に高くなります。)なお、PBLとして知られるもう一つのプボブレム(問題解決)学習や、探究学習、デザイン思考は、基本的に同じです。いずれも、探究のサイクル、問題解決のサイクル、デザイン思考のサイクルを回し続ける形で学びます★★★。これらについて詳しくは、『あなたの授業が子どもと世界を変える』『だれもが科学者になれる!』『プロジェクト学習とは』『PBL~学びの可能性を開く授業づくり』を参照ください。どれも、サイクルが描かれる形で説明されています。


SELPBLの表の出典は、https://www.michaelkaechele.com/marriage-of-sel-and-pbl/

★★このサイトの運営者が『あなたの授業が子どもと世界を変える』の著者でもあり、その本の中で、このURLで紹介されている内容が詳しく紹介されています。

★★★1~2回、回す程度ではやらないのと同じです。繰り返し回して、習慣化することが大切です。それほど大切なものですから(ほかの多くのことを忘れても、これだけ身についていたら、世の中ではかなりのことが達成できるぐらいに!)。 なお、デザイン思考については、次回紹介します。 

2023年5月27日土曜日

『共感力を育む――デジタル時代の子育て』(ミシェル・ボーバ著、佐柳光代・高屋景一訳、ひとなる書房、2021年)~共感2

  前回(先週)お伝えしたように、第2と第4土曜日は、「共感」をテーマにしばらく書いていきます。今回は、その2回目です。

 表題の本を訳された佐柳さんが、本への思い・こだわりを綴ってくれましたので紹介します。

本著の第1章から第9章まで、一貫して強調されている点を箇条書きにしてみる。

    人は生まれつき共感力を持っている。

    生まれつき持つ共感力が、その後の教育環境で失われることが多い。

    教育環境を整えることにより、共感力は育てていくことが可能である。

    スマホや電子媒体に長時間浸ると、共感力が育たない。

    電子媒体使用については、ルール(時間や場所等)を決め、賢く利用すべきである。

    共感力を持つ子どもは、自分自身も幸せな人生を送るし、周囲の人も幸せにする。

以上の点を、著者は最新の心理学的知見を紹介しつつ、共感力が発揮された実例を豊富に掲載し、読者に呼びかける。

・共感力を育む方法については、そのために役立つ推薦図書やビデオ、映画★、ゲームなどを年齢別に、具体的に挙げている。

・電子媒体の利用の仕方についても、家庭で実行できる具体的な提案がなされている。

本書は具体的な提案に満ちているので、幼児教育、学校教育、社会教育、家庭教育など、あらゆる場で活用できる。最近正規の科目となった「道徳」の授業の時など、生徒に紹介できるエピソードが全編を通して散りばめられている。道徳の中心は、何と言っても共感力に尽きると、私は思う。

世界の潮流は、あらゆる分野でAIの活用が進みつつある。その潮流に乗り遅れてはならぬと、文科省は「プログラミング教育」を小学校から必修化し、一人一人の生徒にタブレット端末を持たせてデジタル機器運用能力を高める方向に、教育の力点を置き始めている。

しかし、デジタル機器運用能力の基礎には、共感力が必須である。共感力なしの技術発展は、原子爆弾であり戦争であり、人種差別から起こる強制収容所に結びつく。

技術教育の前に、心の教育が叫ばれなければならない。共感力の重要性を本著で熱く説く原著者ボーバ氏は、そのためにアメリカ中、世界中を飛び回り、啓蒙活動を続けている。

本書を読んで伝わるボーバ氏の熱意が、私たち二人の訳者と出版社ひとなる書房を動かし、出版が実現した。多くの方々に手に取ってほしい一冊である。

 

★なお、この価値あるリストは後日、紹介する予定でいます。

2023年5月20日土曜日

「車椅子やベビーカーユーザーの優先/専用エレベーター問題」の解決は、SELが鍵! ~共感1

 ラジオのニュースを聞いていたら、「車椅子やベビーカーユーザーの優先/専用エレベーター問題」というのがあることを知りました。

 弱い立場にある人たちが、乗れない状態になってしまうので、それをサポートするために設置者たちはいろいろ努力をしているようなのですが、まったくうまくいっていないというのです。

 電車やバスの優先席は、それなりに定着しているようですが、この問題は問題解決の兆しが見えないらしいです。

 この問題が起こること自体、SELの観点でみると、共感とセルフ・アドヴォカシーを中心にSEL全般のスキルの欠如の問題と言えるのではないでしょうか?

 セルフ・アドヴォカシー(およびそれと対をなす自分以外の人によるアドヴォカシー)についてはhttps://projectbetterschool.blogspot.com/2023/03/blog-post_19.html を参考にしてください。そこでは、学習のなかでのことが中心に書かれていますが、学習以外の場面でも同じです。

 共感ないし共感力で、いろいろな本やネット情報で調べてみました★が、一番共感できた内容は、ミシェル・ボーバ著の『共感力を育む』で見つけることができました。その本の章のタイトルが、共感の中身を示してくれていますので、下に貼り付けます。(メインのタイトルだけでは分かりにくいところもあるので、サブタイトルもつけます。)


部 共感力を発達させる
第1章 共感力のある子は人の気持ちが分かる感情の読み取りを教える
第2章 共感力のある子は道徳的自己認識がある倫理的規律を発達させるには
第3章 共感力のある子はほかの人の必要が分かる視点を変え、ほかの人の立場を理解する
第4章 共感力のある子は道徳的想像力がある共感力を培うための読書
部 共感力の練習をする
第5章 共感力のある子は冷静を保てる感情を抑制し、自己コントロールを学ぶには
第6章 共感力のある子は親切を実行する思いやりを育むために、日常的にできる取り組み
第7章 共感力のある子は「あの人たち」ではなく「私たち」と考えるチームワークと協力を通して共感力を培うには
部 共感力に生きる
第8章 共感力のある子は断固たる態度をとる道徳的な勇気を高めるには
第9章 共感力のある子は変革をもたらしたいと思う利他的な変革者を育てるには

 この本のいいところは、これら9つの力を練習して身につけるための方法が、具体的にたくさん紹介されていることです。目の前にいる子どもたちが、これらのどれかに欠けていると思ったら、ぜひ本を読んで試してみることをおすすめします。

 https://listfreak.com/list/20679 では、4つのステップ(観察し、感じ取り、考え、伝える)として紹介されていますが、あなたは共感を単に伝えるレベルで終わってしまっていいと捉えますか? それとも、(『共感力を育む』の第6章以降のように)行動を伴ったアクション・レベルで捉えますか?

http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.html で紹介しているSELの枠組みで見ると(図を参照)、なんと、共感は「社会的スキル」に含まれています。

 また、この同じ図の「アイデンティティーとエイジェンシー」のところ以外(?)★★は、「車椅子やベビーカーユーザーの優先/専用エレベーター問題」の解決に向けて当事者たちが必要なスキルが多く含まれていることが分かります。逆に、これらなくして、このような問題に遭遇したときにどのように対処できるというのでしょうか? それが、知識だけを優先する教え方から、これらのスキルも磨きながら学んだ方が、結果的に自分にとっても、社会にとっても、さらには知識の習得にも効果的だと欧米ではおよそ30年前に判断して取り組み始めたという経緯があるわけです。(ウ~ン、確かに、学校での教科の知識だけでは、「車椅子やベビーカーユーザーの優先/専用エレベーター問題」を含めて、世の中の多くの問題を解決したり、改善したりできる気はしません!)

 

SEL便りの二つの姉妹ブログ(WW/RW便り (wwletter.blogspot.com)PLC便り (projectbetterschool.blogspot.com))の左上に「共感」を入力して検索すると、たくさんの記事が見つかります。特に、前者の読むことや理解することに「共感」が欠かせないというか、主要な役割を果たしていることに気づけますが、国語の授業や読書している時に意識したことはありますか? なお今回、「共感」でいろいろ調べたことで、「共感」に目覚めてしまいましたので、SELで書き進むのとは別立てで、共感で連載をスタートすることにしました。いつまで続けられるかは定かでありませんが、これには第2と第4土曜日を当てることにして、タイトルの最後に「~共感+No」と付けます。今回が、その1回目でもあります。

★★よく考えてみると、自分こそがこの問題を改善できる主体者であるという意識(エイジェンシー)や、そう簡単に解決・改善策が得られて、問題がなくならないことを踏まえると、「忍耐力とやり抜く力」や「レジリエンス」も欠かせないと思いました!

2023年5月6日土曜日

SEL実践(2)感情のハイゾーンとローゾーンを知り、話し合う

 前回に引き続き、私が勤務するGIFTSchool(幼児から中学生までが通う全日制のフリースクール)での試行錯誤や振り返りを紹介します。(2022年度の前期に週に1回45分間、3~5年生の45人のグループを担当したときのことです。活動の設定や指導は、私ともう一人の教員が協働して行ったものもあります。)

 子どもたちは、自分の感情をありのままに出しすぎたり、ときにはしまい込み過ぎてしまったりするものですが、自分の心が今どんな状態にあるかを自分で感じられるようにするための学習・練習はとても大切だと考えるようになりました。自分の感情を認めることは、自分自身を認めることでもあるし、自分にとって心地よい状態に向けて自己を調整するための出発点となるからです。そこで、『21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ著、ダイヤモンド社、2023年)の巻末付録として下向依梨さんによって紹介されていた、「レジリエンスゾーンを意識する」というワークを行いました。

 初めに、様々な感情の種類を学んだときのことを振り返り、子どもたちに「どんな感情であっても、それが湧き起こること自体は止められるものではなく、そう感じたことは否定しなくてよい。自分が何を感じているかを感じようとすることが大事」というメッセージを伝えました。次に、誰にでも気持ちが高ぶるハイゾーンと、落ち込んだり無気力になったりするローゾーンの繰り返しがあること、ずっとそれらの状態にあり続けることはきっと辛いので、自分のコントロールが効くOKゾーンに戻って来られるといいという話をし、レジリエンスゾーンのグラフの例(図1)を確認しました。そして、一人ひとりが前日の夜から登校するまでの間のことを思い起こし、心の調子のアップダウンを話してみようと伝えました。

21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点』(ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ著、ダイヤモンド社、2023年)206ページより引用。

 私は、ホワイトボードに人数分のOKゾーンを書いておき、一人ひとりの話を聞きながら、心の調子を表す線とその上下のきっかけとなった出来事を加えていきました。子どもたちの話はどれも率直で、私自身が子どもへの理解を深めることにも繋がりました。例えば、人混みが苦手な子は、登校中に繁華街を通過するときに、がくんとローゾーンへ落ちます確かに登校時にいつも元気がないとは思っていましたが、その辛さがよくわかりました。

心の調子のアップダウンに、両親や兄弟との関わりが大きく影響する子もいます。また、ゲームが大好きな子は、上がるきっかけも下がるきっかけもゲームのことであると知り、私自身が経験したことがない世界もあることを改めて意識しました。みんなで聞くことで、話している人に起きたことやその人の感じ方を受けとめる時間になったこともよかったです。

最後に、ローゾーンからOKゾーンに向かうための工夫にはどんなものがあるかを尋ねました。意外とどの子もアイディアをもっていて、ゲームや工作など好きなことをする、音楽やヨガで気持ちを落ち着けるといった意見を共有し合うことができました。ある子が、グラフを記録しているときに「兄弟が旅行で居なくて寂しいという気持ちを、逆に一人っ子気分を楽しめてよいかもと考えた」と話したことで、「捉え方も大事だよね」と子どもたちの方から話題になりました。また、寝坊からスタートしていきなり落ち込んでしまったという子が、自分のグラフを見直しながら「いっぱい寝られてよかったと思えばいいかもね」、兄弟とけんかして落ち込んだ場面については「いったん相手と離れるようにすればよかったかもね」などと話し、気持ちの切り替え方について考えることができました。

この時間は、子どもたちが自分の体験を率直に共有し、グラフに表すことで感情の変化を認識しやすくするという方法を学ぶ機会になったと思います。初回は私が子どもたちの話を書き留めて図にしましたが、以後は子どもたちが自分で自分の感情の波を表すことができるとよいと考えていました。クラス全体の中でプライベートな話をすることについては、子どもや集団の様子によっては配慮が必要かもしれませんが、子どもたちの中にあるものを言語またはそれ以外の方法で表出させる機会をつくることはとても大切だと感じました。さらに、日常的に、レジリエンスゾーンのモデル図を参考にして自分や他者の感情の状態を認識したり、定期的に子どもたち自身が心の調子をグラフに表現して振り返ったりすることができるよう、実践を重ねたいと思っています。
執筆:浅野聡子

★今回紹介した事例に関連する情報には、『感情と社会性を育む学び(SEL)―子どもの、今と将来が変わる』の121~135ページには「感情の温度計」「 ストレスの対処法を教える」「90秒ルール」などが、『学びは、すべてSEL』の68~76ページおよび93~126ページには、「レジリエンス」「4色のゾーンを使った感情の認識」「衝動のコントロール」「満足の遅延」「ストレス・マネジメント」「コーピング(対処・対応)」などが紹介されています。また、わたし、あなた、そしてみんな - Google ドキュメント のなかにも「気持ち」についてアクティビティーが12個紹介されています。今回の事例に近いのは、「今日の私の感情起伏線グラフ」「フィーリング・チェック」「気持ちに耳を傾けよう」などです。

2023年4月15日土曜日

SEL実践 (1)  感情の種類を知る

SELの実践にいたるまで

私は、10年ほど公立小学校で教員をしていました。退職する年に学年を組んだ同僚が、子どもたちが感情を表す機会をつくったり、担任としてそれを受けとめたりすることを大切にする指導を行っていたことが、SELへの関心のきっかけとなりました。『ちゃんと泣ける子に育てよう 親には子どもの感情を育てる義務がある』(大河内美似著、河出書房新社)という本を紹介してくれたのもその同僚で、親としても教員としても大きな影響を受けました。「子どもが感情を言語化する過程を支えることがとても重要だ」、しかし「それにしては公教育のカリキュラムに位置付けられている度合いが低くないだろうか」と考えるようになりました。

2020年度からは、私立・公立・フリースクールで数日ずつ講師をする生活となりました。不登校経験がある子どもたちに出会うことが多い現場では、子ども自身が自分の心の状態を知り、心と向き合う手立てを学ぶことの大切さを益々感じるようになりました。

30年来の友人である大内朋子さんから、アメリカで子育てする中で実感しているSELの効果について聞いたり、彼女が翻訳に携わった本『感情と社会性を育む学び(SEL):子どもの、今と将来が変わる』(マリリー・スプレンガ―著、新評論)で海外の指導例を知ったりすることで、更にSELに関心をもつようになりました。本で紹介されている実践のなかで、子どもと子ども、教師と子どもの関係性をつくることや社会性の涵養については、日本では学級経営や道徳、特別活動、生活指導などの領域で担う努力がされてきた側面も多いと感じました。

一方で、圧倒的に足りていないなと思う点が二つありました。一つは、子ども自身が自分の心の状態を俯瞰し、感じていることを表現したりセルフケアを学んだりする機会です。もう一つは、子どもが自然と取り組みたくなるような学習活動の設定です。これらの必要性を痛感しても、公立学校の場合にはどの時間に取り入れるか迷うところではないかと感じます。

2021年度からフリースクール「GIFTSchool」(東京都港区)に勤め始めました。学習指導要領を参考にしながらも、新しい教育の在り方を摸索し、創造することを目指す場です。様々な積極的な試みを行っていますが、心の教育の中核として、週に一回、45分間「対話」と名付けた時間を設定しています。この時間には、コミュニティで大切にすることや哲学対話なども行っていますが、SELの取り入れ方も検討しています。

SELの実践

ここで、2回にわたり、私が2022年度の前期に3・4・5年生の対話の時間に試みた、大きく分けて5つの実践(試行錯誤)を紹介します。なお、各実践は、4、5人のグループで行いました。

2023年4月1日土曜日

年度当初におすすめのSELの活動

 新たな気持ちで新年度を迎えていることと思います。

 前回の本ブログの書き込みで、「SELとは何ぞや」についてイメージはある程度つかめたと思うので、数日後には新年度の授業も始まるということで、具体的にどのようなことがSELを意識した活動としてできるのかを紹介します。それは、『感情と社会性を育む学び(SEL)』(マリリー・スプレンガ―著)の100ページで紹介されている事例です。

 コロラド州デンバーにある公立小学校の3年生担任のカイル・シュワルツ先生は、「I Wish My Teacher Knew(先生にぜひ知ってほしいことは)」というテーマで、短い文章を書かせたのです。生徒たちは、次のような内容を書きました。

「家族で避難所に生活していることを知っていてほしい」

「今年、私のお父さんが死んだことを知っていてほしい」

「孤独で、同級生との間に疎外感を覚えていることを知っていてほしい」

「今週、私のお母さんが癌の診断を受けるかもしれないことを知っていてほしい」

「音楽を聴きながらのほうが勉強しやすいことを知っていてほしい」

「家族を大好きだということを知っていてほしい」

このことから、生徒の置かれている環境や感じていることがいかに学びに影響しているのかと、それをきちんと聴くことの大切さが分かります。

 なお、『感情と社会性を育む学び』のこの事例の前後には、年度当初にすぐにでもやれそうな事例がたくさん紹介されています。


 これを実践した多くの先生たちは、教師が生徒に尋ねさえすれば、生徒のほとんどは(想像もしていなかったようなことまで含めて)書いてくれる、ということを認識しました。そして、シュワルツ先生の実践には、いろいろなバリエーションが開発され、注意事項も提示されているので紹介します。

 たとえば、https://www.youtube.com/watch?v=cD0QTMbsPcM(←動画です!)ポイントは、「あなたについて、先生に知ってほしい5つのこと」を紹介してください、と依頼しており、その具体的な可能性や方法も提示しています。あなたの趣味、好きなもの(たとえば、食べ物、テレビ番組、音楽、本、休みに行くところ)、家族のこと、信じていること、楽しくなったり、悲しくなったりすること、世界で起きていることで気がかりなこと、そして(得意な教科や好きな学び方やオタク的なこだわりなどを含めた)あなたはどんな生徒かの説明などから5つをリストアップして紹介してください、というものです。

 

 気を付けないといけない点については、https://unconditionallearning.org/2021/08/03/what-i-wish-teachers-knew-about-what-i-wish-my-teacher-knew/が参考になります。当然のことながら、何についてどのくらい書くかは、教師との関係を各生徒がどのように捉えているかに左右されます。(その意味では、この活動を年度の当初にするのか、1か月後、3か月後、半年後等でするのかの選択肢もあります。)タイミングに応じて(自分の信頼度を考慮して)、何について書いてもらうのかを若干選んでもいいのかもしれません。

生徒に何をどのくらい書くことを期待するかを事前に考えることと同じぐらいに、生徒が書いた内容をどのように活かすのかも考えておく必要があります。というのは、生徒が(何かを教師に期待して!?)書いたにもかかわらず、教師が一切それに触れなかったり、活用しなかったりすれば、両者の関係は悪化しかねないからです。当然のことながら、信頼関係はイベントではなく、プロセスを通じて構築されるものであることをしっかり認識しておく必要があります。

このサイトの書き手のAlex(アレックス)先生に対して、読者の一人が次のような提案をしたそうです。それは、生徒に書いてもらう文章を、「I wish my teacher would.」や I wish my teacher wouldn’t」(先生が知っていたら(いなかったら)よかったことは)という仮定法にすることで、その時点で両者がもっている信頼関係を棚上げして、書きやすくなるだろう、というものです。試してみる価値はあると思いますか?(対象年齢にもよるでしょうか?)

 

 https://www.panoramaed.com/blog/get-to-know-you-questions-for-studentsでは、教師と生徒、生徒同士の関係づくりや、生徒が「居場所がある」と思える学級づくりの大切さ★★に言及したあとで、生徒を知るための厳選された101の質問が紹介されています。そのなかから、いくつかを紹介します。

 ・学校の外で何かするのが好きなことはありますか?

 ・教室以外で、一番好きな学ぶことは何ですか?

 ・あなたについて、三つのすばらしいことは何ですか?

 ・他の人があなたについて知らないことで、ぜひ知ってほしいことは何ですか?

 ・あなたにとって最も大きな夢ないし目標は何ですか?

 ・SEL関連で、あなたがもっている大きな力は何ですか?

 ・あなたをよりよく知るために、教師に一番してほしいことは何ですか?

 ・あなたが落ち込んでいるとき、教師はどのように助けられますか?

 ・あなたの教師について、一つ知りたいことを上げるとすると、それは何ですか?

 ・家族や友だちは、あなたの特徴をどのように表しますか?

 ・あなたが学校で最も好きな(嫌いな)ことは何ですか?

 こんな調子で、あなたの生徒にあった質問を考えてみてください。(グーグル等の翻訳ソフトも改善され続けているので、今では約8割程度の正確さで訳されるようになっていますから必要に応じて活用してください。)

 

★彼女の実践は、日本で2016年に紹介しているのがWhat kids wish their teachers knew | Kyle Schwartz | TEDxKyoto | TEDxKyotoの動画で見られます。また、I Wish My Teacher Knew: How One Question Can Change Everything for Our Kids, Kyle Schwartzのタイトルと著者名で出版されています。なんと、Amazon.comですでに1107評が投じられているベストセラーです。教育関連書で、Amazon.comの評価が高い/ブックレビューが多い本で、千を超える評があるものはそう多くありません。The goal was simple—try to increase the number of students thinking and try to increase the number of minutes during which students were thinking.

以下は、オマケ情報です!私が知っている評価が千を超える他の教育書には、次のようなものがあります。日本の教育書で、千を超えるのがあったら、ぜひpro.workshop@gmail.com宛にお知らせください。)

The first days of school2590評)『世界最高の学級経営 : 成果を上げる教師になるために』ハリー・ウォンほか著 ; 稲垣みどり訳  東洋館出版社 2017年。

Hacking School Discipline1836評)『生徒指導をハックする : 育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』ネイサン・メイナードほか著 ; 高見佐知ほか訳  新評論 2020年。

The Innovators Mindset1037評)『教育のプロがすすめるイノベーション : 学校の学びが変わる』ジョージ・クーロス著; 白鳥信義ほか訳  新評論 2019年。

読み書きの分野では、千件以上の本がたくさんあります(教育の分野で、最も充実しています!)

The Daily 5: Fostering Literacy in the Elementary Grades, by Gail Boushey, Joan Moser(通称、The Sisters=双子の姉妹)残念ながら未邦訳(1145評)

The Reading Strategies Book: Your Everything Guide to Developing Skilled Readers (3256) The Writing Strategies Book: Your Everything Guide to Developing Skilled Writers  by Jennifer Serravallo  (2427)The Writing Revolution: A Guide to Advancing Thinking Through Writing in All Subjects and Grades Judith C. Hochman (1911)などがあります。そして、80年代、90年代にアマゾンが存在していたら確実に千件間違いないIn the Middle: A Lifetime of Learning About Writing, Reading, and Adolescents by Nancie Atwell(『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』ナンシー・アトウェル著、小坂敦子ほか訳、三省堂、2018年もあります。版権で自分の学校をつくってしまったぐらいですし、日本流に言えば、アメリカの「大村はま」というか、初代の「グローバル・ティーチャー賞」の受賞者でもありましたから。

 もちろん、Amazon.comの評価の高さ/ブックレビューの多さに惑わされてはまずいのですが、選書の際の一つの指標であることは確かです。ここで紹介したものは、いずれもSELに直接・間接的に関係するものばかりです。(特に、最後の読み・書き及び各教科指導との関連の本については、http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlをご覧ください。

 掲載直前に、算数数学の本も見つけました! Building Thinking Classrooms in Mathematics, Grades K-12: 14 Teaching Practices for Enhancing Learning by Peter Liljedahl (1211) 

★★教師と生徒、生徒同士の関係づくりについては、『「考える力」はこうしてつける』の第2章(自立した学習者を育てるが、その章のタイトル)で、教室のなかのものの配置を含めた「ポジティブな学習環境をつくり出す」や、「年度当初にすべきこと」として「お互いを知り合う活動」「セルフ・エスティームの活動」「チームづくりの活動」が多数紹介されています。生徒が「居場所がある」と思える学級づくりには、そのタイトルの通り『「居場所」のある学級・学校づくり』が参考になります。