2024年1月27日土曜日

SELに関連するワークショップの案内

先週に引き続き、『SELを成功に導くための五つの要素』https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/08/blog-post_20.htmlが企画し、著者の一人のマーク・ワイルディングさんも講師に招いて行われるSEL関連のワークショップが2月15~18日に開催されます。

https://www.kokuchpro.com/event/koka2023/

なお、ワークショップおよび本は、SELのプログラムではありません。

 本の内容については、次の紹介文を参照ください。

   *****

最近、巷では「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。一人ひとりが自分らしく居られ、安心して率直に自分の考えや意見が出せ、それを周囲の仲間に受け止めてもらえる。そんな関係性でできたコミュニティーが、心理的安全性の確立されたコミュニティーと言えるのでしょう。

教育界でも心理的安全性と学習効果の相関が注目され、教師の在り方や教育実践の手法について、従来の教育シーンをガラリと変える転換期を迎えている、と教育現場に立つ一員として感じています。

とはいえ、情熱をもって「教育」という仕事に向き合っている教師ほど、この教育界の新しい動きの前に、その重圧を受け、立ち竦んでしまっているのではないでしょうか。

本書は、そんな教師をエンパワーする二つの魅力をもった本です。一つ目は私たち教師自身の原書タイトルの「エンゲージ・ティーチング」の実践が、同僚たちとの良好でサポーティヴな関係性を築き、健全で安心安全な職員室の創造につながるということ。毎朝、ポジティヴな気持ちで職場に向かう私たちの姿こそ、もっとも生徒に必要なことなのかもしれません。

二つ目は、教室の中で、真に意義のある学びを届け、生徒たちが自ら豊かな学びの旅へと向かっていけるような、具体的で即効性のある教育実践が豊富に紹介されていること。原書タイトルにも含まれる「エンゲージメント」には「夢中で取り組む」という意味の他に「結びつける・統合する」というニュアンスも含みます。SEL(感情と社会性の学習)と教科学習を、心と知性を、教える内容と背景を統合し、生きるうえで大切な感覚を養う教育的アプローチが「エンゲージ・ティーチング」です。

 

生徒が目的に満ちた意義深い人生を送れるようにと願い、そのために良い影響を与えられる教師でありたい、と日々腐心されている方にぜひ手にとっていただきたい一冊です。生徒たちが自らの個性やエージェンシー(主体性)を発揮し、伸びやかにそれぞれの学びに向かっていける、そんな教室が日本の中にたくさん増えることを願って。

                    佐野和之(かえつ有明中・高等学校副校長)

 

2024年1月20日土曜日

SELのプログラムを体験できる機会

 以下、読者の田中先生から情報が送られてきたので紹介します。

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皆さん、こんにちは。

SEE Learning Japanのチームの一人で、東京都のかえつ有明中・高等学校で教員をしている田中理紗と申します。

かえつ有明中・高等学校では長く探究学習やこれからの社会で身に着けるスキルやマインドについて先生たちと学んでまいりました。

その中で、異なる価値観や文化・風習が混ざり合う世界において、私たちがしなやかに、ウェルビーイングに生きるため、SEL(社会性と情動の学習)をプログラムの大事な要素として取り入れるようになりました。

私がはじめてSELと出会ったのは、MITで実施されている"Introduction to Compassionate Systems Framework in Schools"というワークショップに参加したことがきっかけでした。

https://systemsawareness.org/introduction-to-compassionate-systems-framework-in-schools/

こちらのワークショップは「学習する組織」「学習する学校」の著者であるピーター・センゲ先生が主導し、これからの教育で必要な知性として、システム思考の教育とSELの教育、そしてそれらが相互補完的であることを体験的に学ぶことができました。

そのことをきっかけに、日本で引き続きこれらの学びが広がっていくように先生向けの学びの場の運営をお手伝いしています。

https://peatix.com/group/7220938

ピーター・センゲ先生がこちらのワークショップを開催するきっかけとなったのは、日本ではEQで有名なダニエル・ゴールマンさんとの対談がきっかけだったようです。こちらの対談の内容はTriple Focusという書籍にまとめられ、日本では「21世紀の教育 子どもの社会的能力とEQを伸ばす3つの焦点 」という書籍になり、昨年出版されました。https://amzn.asia/d/9QXBz8Y

ピーター・センゲ先生がCompassionate Systems Framework in Schoolsの形で、世界にこの新しい教育の形を提案されている一方で、ダニエル・ゴールマンさんの協力で、この新しい教育の提案はエモリ大学でSEE Learningという形になりました。このプログラムは、ダニエル・ゴールマンのEQに関する研究と、ダライ・ラマの平和、理解、思いやり、そしてすべての人類が地球というひとつの家を共有しているという考え方がとても大切にされています。私自身はピーター・センゲ先生のCompassionate Systems Frameworkについて引き続き学びながらも、SEE Learningのファシリテーターのプログラムを現在受講しています。

さて、ここからが本題なのですが、実は来たる3月になんとエモリ大学のSEEラーニングチームから先生方が来日し、教員向けワークショップを開催されるとのことで、そのお手伝いもさせていただくことになりました。私が現在学んでいるファシリテーターのプログラムは世界各国の先生が受講できるように英語で開催されています。とても勉強になるのですが、受講期間も6カ月と長いだけでなく、現状、英語ができない方が受講するにはかなりハードルがあります。一方で、この3月のプログラムでは英語の通訳の方もいらっしゃるので、どなたでも受講できる内容になっております。

https://www.seelearningjapan.com/202403ws

もしご興味ある方がいらっしゃいましたら、ぜひご参加いただけると嬉しいです。

なお、参加にあたり金銭面でヘルプが必要な場合は、個別で私(tanaka@ariake.kaetsu.ac.jp)までご相談いただけたら、もしかしたら少しではありますがクーポンが出せるかもしれないので、ご連絡いただけたらと思います。

場所が都内ということや有料ではあるので、地方の先生方や研修費等の兼ね合いやご負担はあると思いますが、実際にエモリ大学に行って学ぶことや私が参加しているオンラインのオールイングリッシュ版と比較すると、ずいぶん参加しやすいんじゃないかなと思いますので、SELSEEL、マインドフルネスを教育現場で取り入れていくこと等にご興味がある方いらっしゃったら、ぜひ一緒に学びましょう。

皆さんにお会いできることを楽しみにしております。

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SELのプログラムについての情報です。

今回紹介されるSEELは、比較的新しいSELのプログラムのようです(下で紹介する、主だったSELのプログラムには含まれていませんから)。すでに、アメリカには数百あると言われているSELのプログラムに新たに追加されたわけです。

●プログラムを学校等に導入する際の考え方については、https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=SEL%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0を参照してください。

●ご自分で確認したい方は、SEL関連で一番多くの情報を発信しているhttps://casel.org/

のサイトをご覧ください。特に、https://casel.org/news-publications/sel-publications/ でたくさんの資料を見ることができます。

 そのなかには、たくさんのプログラムのなかから厳選された85のプログラムを詳しく見る/比較できる資料も提供してくれています。https://pg.casel.org/review-programs/

 この種の情報で、かなり重宝されている情報がもう一つあります。それは、ハーバード大学内の The Ecological Approaches to Social Emotional Learning (EASEL) Laboratoryが実施、ウォラス財団が委託・出版している主なSELの比較分析結果です。
 小学校版は、https://wallacefoundation.org/sites/default/files/2023-08/navigating-social-and-emotional-learning-from-the-inside-out-2ed.pdf(33プログラムが対象)

中高版は、https://wallacefoundation.org/sites/default/files/2023-09/navigating-social-and-emotional-learning-from-the-inside-out-middle-high-school.pdf(18プログラムが対象)で見ることができます。

 アメリカ等、欧米ではSELを実施している歴史が長く、またあまりにもたくさんのSELのプログラムが存在しているので、「しっかりした実績を生み出しているプログラムとは何か?」というような情報も、SELに取り組み始める教育関係者向けに提供されています。https://casel.org/blog/what-does-evidence-based-mean-why-is-it-important/

2024年1月6日土曜日

子どもたちとの信頼関係を築くために

 日々の教室のなかで、子どもとの関係性を深めていくことは、SELの5つの要素のすべてに関わる基本となるものです。『感情と社会性を育む学び(SEL)』でも子ども一人ひとりとの時間をつくり関係を深めていくさまざまな活動が紹介されていますが、子どもたち一人ひとりとの時間をとることが難しい場合も多くあります。子どもたち一人ひとりとの信頼関係を築く前提となるのは、教師と子どもたち全体との関係性、教室の文化です。心地よい教室をつくり、信頼関係を育んでいくために、教師から子ども全体への言葉や態度、教室全体での働きかけの根本となることについて紹介します。


「無条件の肯定的関心」

 

 「無条件の肯定的関心」とは、心理学用語で、他者を評価せずにありのままに受け入れることです。そして、『あなたを気にかけている。あなたには価値がある。価値を証明する必要はないし、何があっても私があなたに価値があると思うことが変わることはない。』という心構えをし、態度をとることです。他者から気にかけてもらえるのは何かの見返りとしてではなく、その人自身に価値があること、何か失敗したり苦しんだりすることがあってもその価値は損なわれることはないということを言葉や態度で示していくことは、子どもたちの自己肯定感を育むために欠かせません。

 

 受け入れられるときに、条件がついていないものが「無条件の肯定的関心」です。これは、「あなたがこうであるから、私はあなたが好きだ」「あなたがこんなときはよいが、こんなときは悪い」というように自分の判断や評価に基づく、つまり条件のある受容とは対をなすものです。すべての場面で、人々が「無条件の肯定的関心」を実践することは現実的ではありません。ただし、「無条件の肯定的関心」という概念を念頭に置くことで、日々の子どもたちへの言葉や態度が変わってくるのではないでしょうか。「それは違う!いけない」と反射的かつ正直な態度を、「そうなのか」といったん口に出して無条件に受け入れるだけでも、相手は「自分の話を聴いてもらえた」と感じ、自分も相手も、理性的に考える一歩となります。そして、「私はいつでも、どんな状況でもあなたを気にかけている」というメッセージを子どもたちに送り続け、子どもたちも「いつでも気にかけてくれる人がいる」「話を聴いてもらえる」と感じることができれば、教室内の人間関係の基礎となります。


 子どもに対して肯定的な言葉を意識的に使うことやありのままに受け入れることは、難しい課題に取り組む子どものやる気を高めるという研究結果や、肯定することは、成長マインドセット(2023/7/2 マインドセットとSEL を参照)を促したり、気持ちを落ち着かせたり、問題解決能力を高めたりする効果があるという研究結果もあります。


 ありのままの自分を認めてくれる大人の存在は、子どもたちの自己肯定感や感情を受け入れいることにつながり、そして、それは、自己管理や社会認識を育むために必要不可欠なものです。「無条件の肯定的配慮」を念頭においた言葉がけをしながら接していくことが、教師と子どもたちとの信頼関係を築くこと、ひいては、教室での豊かな人間関係の基礎となります。



先入観をもたずにそのときどきの子どもと接する


 同一の能力をもつラットについて、一匹はとても賢いラットで、もう一方は知的に劣るラットだと言われた場合、賢いと言われたラットが実際に賢明な行動をとるようになる、という実験結果があります。ラットを迷路に入れ、数週間の行動を記録すると、とても賢いと言われたラットが早く迷路をクリアできるようになるのです。これには何が影響しているのでしょうか。それは実験者の対応です。実験者は、それぞれのラットに異なる対応を取りました。とても賢いとされたラットは、もう一方のラットより丁寧に扱われ、それがラットのストレスや学びに影響を与えたのです。この実験からは、先入観をもったりレッテルを貼ることが、日々のやり取りや学びに大きな影響を与えることがわかります。


 人間の場合も同じです。勉強ができない、リーダーシップがない、問題行動をよく起こすなど、日々先入観をもって接していると、その通りの行動を起こすことがあります。子どもたちの成績やこれまでの行動などの記録は、参考になるものですが、子どもたちの未来を決定するものではありません。子どもによって、声かけや求める基準が異なっていませんか。一人ひとりの状況に合わせた対応をしていくことは大切ですが、「あなたはこうだ」との固定マインドセットのメッセージを送ってしまっていませんか。「今はまだできないけれど、すべての子どもたちに学ぶ力がある」という成長マインドセットの視点からも、過去のデータにとらわれすぎずに子どもと接していくことが大切です。


 日々の教室での言葉がけや態度は、その言葉や態度が向けられている子どもだけでなく、周りの子どもや教室全体にも影響します。子どもをありのままに肯定し、否定的な先入観をもたずにその場その場の態度や行動について働きかけることが、よい関係を築くことにつながります。


参照

https://www.edutopia.org/article/building-rapport-students

https://www.cultofpedagogy.com/unconditional-positive-regard/


2023年12月16日土曜日

問題行動への対処法(日米比較)

 生徒の問題行動が発生した場合の対処の仕方に、大きな違いが出始めています。

 問題行動には、大きくは二つのタイプがあります。一つは、授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動で、もう一つは、加害・被害がある場合です。今回は、前者に焦点を当てて、紹介します。

 

    授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動の場合

■日本での典型的な対処手順:

・当該生徒から話を聞く。教師は基本的に複数対応。

・何が起こったか、なぜそれをやったのか、その結果どうなったのか、などの事実の確認。

・当該生徒が自分の非を認めたならば、今後の方向性を確認。今後、何をするか、あるいは何をしないか、ということ。

・当該生徒の保護者に連絡。

 

アメリカでの対処手順:

 アメリカも最近まで日本での流れに近い形で行われていました。それも、担任(教師)がする代わりに、教頭の部屋に生徒が送られる形で。教頭の役割は、校則に従って罰則を科すというものでした。

しかし、それでは生徒たちは問題を再発しますし、問題行動を起こさないためのスキルが身につきません。そこで取り組まれるようになった方法があります。行動面で問題をもつ子どもを支援するための「問題解決コラボレーション(Collaborative Problem Solving)」です。この方法は、行動に課題をもつ子どもたちは重要な思考スキルが足りないという前提に立っています。

 「この思考スキルは、読み・書き・計算などの学習領域に含まれるというよりは、感情をコントロールし、自らの行動の結果を予測し、それが他者にどんな影響を与えるか理解し、自分が困っていることを他者に伝えること、または周囲の変化に計画的かつ柔軟に対処することに関連しています。(中略)課題をもつ子どもたちは、人生の社会性・感情・行動の課題に対処するためのスキルを習得していないのです」(『教師と親のための子どもの問題行動を解決する3ステップ』、17ページ)

 まさに、SELのスキルの欠如と捉えているのです。それらのスキルを身につけられるようにすることこそが、真の対処法だと!

 この本のタイトルにあるように、本のなかで中心的に説明されているのは、共感する、問題定義、提案の3ステップについてです。

それは、すでにこのブログでも紹介したことのある「デザイン思考」

https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%80%9D%E8%80%83 や https://projectbetterschool.blogspot.com/2021/05/blog-post_16.htmlと、作家の時間や読書家の時間の中心的な教え方のカンファランス・アプローチ(その具体的な進め方は、「大切な友だち」https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.html)と同じとも言えます。

 なかでも、最初の「共感」がとても大切★であることが、これら3つのアプローチから分かります。この「最初のボタンの掛け違い」が起こっていると、その後のステップは、すべて徒労に終わる可能性が大です。

 授業妨害や教師の指示に従わない等の問題行動を抱える子どもへの対処法を探している方は、『教師と親のための子どもの問題行動を解決する3ステップ』(ロス・W.グリーン著、日本評論社、2013年)がおすすめです。

 

    共感については、本ブログで連載しました。https://selnewsletter.blogspot.com/search?q=%E5%85%B1%E6%84%9F

2023年12月2日土曜日

SELのプログラムに関する問い合わせ2

 前回の齋藤さんからのご質問に関連して、アメリカでの実践について情報提供させていただきます。

 実践においての障壁や難しい点、失敗談やうまくいったことなど、現場の先生のご経験から学ばせていただければと思います。


SELプログラム

 前回の記事の通り、SELはプログラムとしてではなく、日々の学習のなかに取り入れていただくのが一番だと思います。もちろん授業内容に即して「取り入れる」ことが理想的だとは思いますが、数分でできるアクティビティもたくさんありますので、授業の初めや終わり、時間があるときにSELのアクティビティをできるようにしておくのもよいかもしれません。


 日々の学びに取り入れることが必要だと認識したうえで、SELのプログラムについていくつかの学区の情報についてみてみましたが、Healthの授業の時間を系統的にSELを学ぶ時間に当てているところが多いようです。子どもの学校では、7,8年生に週に2回Health(67分、45分)の時間があり、そこでSELについて学んでいます。先月は、『感情と社会性を育む学び (SEL)』にも紹介されているグリッターボトルを作り、マインドフルネスについて学んできました。


 たとえば、7年生の場合は、Healthの授業で、自己認識、ストレス対処、必要なサポートへのアクセス、マインドフルネス、健全な人間関係、聴く力、アンガーマネジメント、対立の解決、いじめ防止などがSELに関連した項目が取り扱われています。


 また、小学校では、アートの時間にSELを取り入れていることが多くなっています。自己表現と合わせて、自己認識についてふり返る機会が多くあります。


SELアンケート

 子どもたちの実態把握のため、学区全体で、毎年10月、1月、4月にSELに関するスクリーニングを行っています。こちらは、Panorama Educationのアンケートを利用しています。項目は、子どもたちのグリット、成長マインドセット、日々の感情や自己認識、自己管理、社会認識、共感する力、学校の安全性、多様性、所属意識などを測るものになっています。


 アンケート結果を基にして、子どもたちに必要なことを日々の時間やHealthの時間に重点的に教え、実践の時間をつくっているようです。そして、子どもたちのアンケート結果の変化を一年を通じて、もしくは学年を越えて毎年みていくことで、SELに関連したスキルの成長を評価しています。


 また、子どもたちと同時に教師自身の感情と社会性に関わるスキルを評価し、必要な支援は何か考えるためにアンケートも実践している学校もあります。

2023年11月18日土曜日

SELのプログラムに関する問い合わせ

以下のようなSELのプログラムに関する問い合わせを、新潟の公立中学校(理科担当)で教えている齊藤先生(仮名)からいただきました。

***

SELについて、ここ最近多くの書籍を読み、学んでおります。
きっかけは、自分の目の前の生徒が感情をコントロールすることが苦手で、荒れている状態を目の当たりにしたことです。そのときは、どうして、自分の感情をコントロールできないのか、自己制御するにはどうしたらいいのか、といったことを考えていました。そんなとき、SELというものがあることを知りました。

本を読み進めていく内に、たくさんの疑問が出てきたので、こうしてご連絡を差し上げた次第です。大変ご多用のところ恐縮ではありますが、SELについて教えていただければ幸いです。

1SELを年間通しての授業を行う場合、どのようなプログラムを導入するのがいいのか。2SELとして中学生に行うのに、最初に教えるプログラム(授業)は何か。

3SELプログラムの多くがSSTのように感じてしまうが、それをやったことで果たしてSELで付けたい力がつくのか。

4SELはものすごく大きなまとまりであり、近年話題になったグリットやレジリエンス、アンガー・コントロールなど、そのような指導も含めてSELなのか。

***

齊藤先生の質問に対する回答は、次の通りでした。

0.    (最初にいただいた齊藤先生からのメールの質問である)SELとは何か。

https://selnewsletter.blogspot.com/2023/06/sel.html がかなり網羅していると思います。

1SELを年間通しての授業を行う場合、どのようなプログラムを導入するのがいいのか。

齊藤先生は、「このプログラムがおすすめです」という答えを期待しての質問かと思いますが、残念ながら、どの学校にもベストなプログラムは存在しません★。

それもあって、『感情と社会性を育む学び(SEL)』の最終章のタイトルは、「プログラムではなく、人がSELに好影響を及ぼす」になっていますし、いま読まれている『学びは、すべてSEL』の最終章も、注意深くプログラムの選定をする作業を、その具体的な方法を示す形で紹介しています。そのようなステップを踏まない安易なプログラムの選定は、教師たちに「自分たちはSELを実践している」という安心感は提供できても、効果はほとんど得られないでしょう(生徒たちが、SELのスキルを身につけることはできないでしょう)。

それは、いま日本で行われている道徳の授業と同じレベルと言えます。ほとんど誰も、意味を感じられない状態が続いていませんか?★★

そのことが、私が1998年頃にSELの存在は知って、紹介する価値を切実に感じましたが、動けなかった理由です。私には唯一のプログラムを紹介することも、また開発することもできませんから★★★。そんななかで、20年以上待って、見つけたのが、

・『感情と社会性を育む学び(SL)』

・『まなびは、すべてSEL

・『成績だけが評価じゃない』 ~ これは、評価とSELの関係との本

・『SELを成功に導くための五つの要素』

・『「居場所」のある学級・学校づくり』 ~ これは、学級経営とSELとの関係の本(なかでも、一番のポイントは第6章「生徒を惹きつける、生徒主体の授業が居場所の原動力」)。「居場所」をSELに置き換えられます。逆にいえば、授業での指導法に大きな問題があることが、SELのニーズを生み出しているからです。授業の改善を図らない限りは、尻拭い(生徒指導やSEL)をやり続ける必要があることを意味します!

・『生徒指導をハックする』 ~ これは、生徒指導とSELとの関係の本

https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/06/blog-post_21.htmlで紹介されている本も全部!(特に、『オープニングマインド』と明石書店に版権を取られてしまった2冊は、成長マインドセット関連の本です。もし、読んでみたければ、PDFファイルをお送りします。読んで感想を書く義務が生じますが。成長マインドセットではなく、固定マインドセットが日本の教育や教室に充満していることが、生徒指導やSELの必要性をつくり出しています。

・『一人ひとりを大切にする学校』 ~ SELを実践しているとは一言も著者は言っていませんが、理想的な形でそれが行われていることが分かる本。

・『国語の未来は「本づくり」』 ~ SELと国語指導を融合した実践例として書かれた本。https://selnewsletter.blogspot.com/2023/10/eq.html から分かるように、EQやSELと強調しなくても、ライティング・ワークショップ(作家の時間)やリーディング・プロジェクト(読書家の時間)を実践すると自然とそれらのスキルや資質が身につきます。もちろん、この理科版、社会科版、数学版等が考えられます。

・『だれもが科学者になれる!』 ~ 上記の理科版。

などでした。

特に、『SELを成功に導くための五つの要素』は、SELに関する教員研修のやり方を紹介している本と言えますし、クラスや学校レベルで、どのようなステップで進めたらいいのかも親切に書かれた本です。

★ 同じことは、実は教科書というプログラムにも言えるのですが、誰もそれを口に出そうとはしません。一つの教科書が、誰にも等しく意味がある/価値があるなんてことは、あり得ません! 

★★ 道徳を例に挙げて説明しましたが、状況は他の教科も同じです。教師は、教科書をカバーしていれば、意義のあることをしているという錯覚をもてますが、果たして生徒たちはどれだけ学べているでしょうか? 先生たちの口癖として「教えたのに、覚えてないの?」があります。覚えていないのは、真の意味では教えていないからです。残らないのは、必然性を生徒たちが感じていないからです。そうした状況に加えて、今度はSELを加えていいのでしょうか? 要するに、教科指導のあり方自体を根本的に見直す必要性に迫られている、ということです! これについては、『学びの中心はやっぱり生徒が!』が参考になります。

★★★SEL関連の調査および普及機関である「CASEL: Collaborative for Academic, Social and Emotional Learning」やハーバード大学にベースを置く「EASEL: The Ecological Approaches to Social Emotional Learning」が出しているレポートでは、40~50のプログラムが比較紹介されています。さらに、それ以外のプログラムが数百もあると言われています。

 

2SELとして中学生に行うのに、最初に教えるプログラム(授業)は何か。

 上と関連しますが、中学生と一言でいっても、いろいろな中学生がいます。(教師の視点で)問題を抱えた中学生、なんの問題も抱えていない中学生、そしてその間の多様な中学生。

 言わんとしていることは、安易に、誰かが推薦するプログラムや活動に飛びつかないことです。何よりも、教室(と学校)の実態把握から始めないと、どのプログラム/活動を最初にすればいいかなんて、分かるはずがありません。(それが、教科書が機能しない理由です!生徒たちのことをまったく知らない人たちが、「これをすればいいのです」と言い切っているのですから。言われた側は、そういってくれると楽ですし、ありがたがるかもしれませんが、生徒たちの学びは最低限が続くことが約束されています。生徒たちには、それらをする必然性がありませんから。)

 だからと言って、何もできないか、というと、そんなことはありません。対象とする生徒たちのニーズと、教師が必要性を感じていること(生徒に身につけてほしいスキルや態度等)を熟考して、それらを満たす活動を選んだり、考えたりすることはできます。

 この返信のなかで紹介した本や資料のなかから、齊藤先生+2~3人の他の先生が、「これはやりたいよね」というのを個別にリストアップして、それをすり合わせる形で、選択すれば、結構いい活動が選ばれ、そしてプログラムになる可能性大です。大切なのは、プロセスです(誰かが選んだ結果ではなく!)。

 

3SELプログラムの多くがSSTのように感じてしまうが、それをやったことで果たしてSELで付けたい力がつくのか。

私自身は、SSTには興味をもったことがないので、2つの比較と言われても答えられません。ネットで検索したところ、SSTは、

1.人間関係で適切なコミュニケーションが取れるようになる

2.自身の感情をコントロールできるようになる

3.相手の気持ちを考えた行動ができるようになる

の3つを目的にしたプログラムということで、齊藤先生も理解していますか?

この3つの項目と、CASELの5本の柱を比較すると、一見、3つの領域でオーバーラップしているように目えますが、いま齊藤先生が読まれている『学びは、すべてSEL』のなかで捉えられているSELの項目(http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlの図) と詳しく比較すると、第2章、4,6章は丸ごと抜け落ちていますし、第3章と第5章も、ほんの一部で接点があるだけなのが分かります。

これで、齊藤先生が質問3で書いているように言えるでしょうか?

上記のURLの冒頭のライティングとリーディング・ワークショップ(WW/RW)の実践者が書いた文章を読んでみてください。この実践者は、SELを実践しているという意識は薄いか、ないと思います。しかし、この本で紹介されている第2~6章のかなりの部分を押さえてしまう実践をしているのです。この方が、齊藤先生が質問の1と2で質問しているSELのプログラム(SELに特化したプログラム)をするよりも、はるかに効果的です。その理由は分かりますか? 質問の1や2でするプログラムや活動は、道徳の授業みたいなものです。一過性のイベントという意味で。それに対して、上記のURLで紹介されているような実践を目ざさない限りは、定着しないというか、身につかないというか、本物ものにならないというか・・・・時間をかける意味がないというか、です。

なお、SSTもSELも言われるはるか前の1990年代の初頭に出た本が、http://www.eric-next.org/reflect_read.html#textsでリストアップされていますが、特に『いっしょに学ぼう』『いっしょにできるよ』『わたし、あなた、そしてみんな』は、おすすめです。最初の2つはSSTの内容そのものですし、『わたし、あなた、そしてみんな』はSELの内容と言えます。(前者2冊は小学校中学年ぐらいまでを念頭に開発され、後者は高校生を対象に開発されたものですが、教員研修でも使っていたので、対象に限らず使える内容です。)

 

4SELはものすごく大きなまとまりであり、近年話題になったグリットやレジリエンス、アンガー・コントロールなど、そのような指導も含めてSELなのか。

はい。上記で紹介した図http://wwletter.blogspot.com/2023/02/sel.htmlから分かるように、グリット(やる抜く力)やレジリエンスは第2章に、アンガー・コントロール/ストレス・マネジメントなどは、第3章に含まれています。

『成績だけが評価じゃない』では、https://bit.ly/3XZmfbhSELと捉えていますから、さらに大きな枠組みになります。しかし、「思考の習慣」は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/11/blog-post_20.htmlにあるように「まともな教師を含めた社会人」として生きていくうえで必要な資質やスキルばかりだと思われませんか? 現時点で、それらの資質やスキルは、どこで身につけられているでしょうか? 学校や大学でやらなくて、身につける努力をせずに、いったいどこで身につけられるのでしょうか?

2023年11月4日土曜日

目標を設定し、計画を立てて行動する

  SELのなかで自己管理は、「自分の感情と行動をコントロールし、目標を達成する」ことです。これには、目標を設定し、計画を立て、達成に向けて行動する経験を積み、目先の欲求に対して我慢する力や脳の実行機能(Exective function)を訓練していくことが大切です。

 実現可能だと思える目標とそれに向けた計画、意欲がある場合、脳の学ぶ効率が最大限に高まります。そのためには、生徒自身が自分にとって意義のある目標を設定することが第一歩です。生徒自身に選択させることは、学びを自分のものと捉え、主体性を高めることに、そして、計画を実行し、目標達成に向かっていくことは、自己効力感を育みます。


 今回は、一時間~一週間単位で目標設定からふり返りまで行うWhat I Need(WIN)という方法と、SMART Goalsという中長期的な目標を立てる方法をご紹介します。


What I NEED Time

 What I Need(WIN)の時間では、目標を定め、自分で時間を管理することを経験します。たとえば、教師に質問や相談をしたり、終わっていない課題に取り組んだり、欠席したときの補習をしたりする時間です。さらには、学業的なことに限らず、生徒の興味関心、コンピュータのプログラミングやマインドフルネスの呼吸法を練習するなど、自己研鑽につなげる時間として使うこともできます。単に自習の時間とも捉えることができますが、制限のない自由な時間ではなく、目標設定や実行、ふり返りを含む意図的に計画された学びの時間です。


 初めの5分~10分は、生徒にとって必要な日常的なスキル(ノートの取り方や、インターネットの使い方、教師にEmailを送るときのマナ―など)について教えるのもよいでしょう。ここでは、課題となっていることを乗り越えられるためのヒントを伝えることを目的とし、画一的な方法ではなく、ひとりひとりにとって最適な方法が見つかるようにさまざまな方法を紹介します。


 サポートが必要な生徒には、その週に「面談するべき教員」のリストと面談可能な時間、場所、面談に必要な時間の長さ、優先度などが記入されたグーグルシートを共有します。生徒はそのシートを見て、もしくは、自分に価値のある時間の過ごし方を考え、残りの授業時間の目標設定フォームに記入します。WINの時間に何をするかとそれを行う理由、それぞれの課題に予測される所要時間、どのようなリソースが必要かを考え、記入します。


 生徒はその後の時間で計画を実行します。終了時間5分前には席に戻り、目標を達成できたかどうかふりかえりシートに記入します。目標の達成に関わらず、次のWINの時間にどのような方法を使うかについて考えます。


SMART 目標

SMART Goalsの、SMARTは、次の意味です。

S: Specificー具体的 [達成したい/する価値がある具体的な目標] M: Measurable - 測定可能な [目標達成のための基準] A: Action Oriented - 行動志向の [目標を達成するための具体的な行動] R: Realistic - 現実的な [現状のリソースと制限を踏まえたうえでの実現可能なもの] T: Timely - 時宜を得た [妥当で集中力が切れない適切な期間設定]


娘の中学校では、学期の初めに健康目標を立てるために次のワークシートを使って行っていました。

 まず、目標を決定し、ワークシートのSMARTの項目を考えます。その後、SMART目標を文章化します。(例「私のSMART目標は、______(S)です。_______となったら目標が達成できたことになります(M)。そのためには、_____の行動をします(A)。___の期間で達成できると思います(T)」)


 次に、目標を設定する理由や、なぜその目標が大切なのかを書きます。そして、どのように目標を達成するのか具体的な行動計画を立てます。ここでは、何曜日の何時から何時まで、どこで何を行うのかということを記します。そして、目標が達成できると生活にどのような影響があるのかを選択します(満足感、ストレス軽減、自己肯定感の向上、体力向上、やる気の向上、人間関係の深まり、などから選択)。


 最後に目標達成に向けて「私___は、この計画を遂行するために努力し、生活を変えることを誓います」宣言と署名をし、保護者からも署名をしてもらいます。


 このSMART目標について、計画の調整や自分の行動をふり返る時間を定期的に設けます。


 目標設定の期間に関わらず、これらのプロセスでは、生徒を評価するのではなく、生徒が自分でふり返るスキルを育めるようにすることが大切です。さらには、生徒が常に援助を求められる環境にすることが大切です。自ら必要なことを認識し、ほかに援助を求めることもスキルの一つです。必要なときに生徒が課題を共有したり、質問をしたり、目標達成に向けて計画の見直しやアドバイスをしたりすることを促すことも必要です。


 また、目標が達成できたらどのようにして祝うか、ということを考えることで、目標に向けて肯定的で、探究する化学物質のドーパミンが放出されることにもつながります。


 低学年でも、視覚的表現を用いることで、目標設定や、達成するための段階を考えたり、自分がどのあたりにいるかを認識したりすることができます。



参考資料